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ワールド・イグジスト  作者: ほとりうえ
第一章
6/9

005.

 2階のホールに上がると、ホール内にはビデオカメラやら色々な機材が並べられており、ホールの正面には巨大なスクリーンが設置されていた。


 巨大スクリーンはホール内全体を映し出しており、映像の中にファミリア達も重ねて投影されているため、ファミリアの位置関係は正面のスクリーンで把握できるようだ。


 けれど、結局はスマートフォン上での操作が必須となるため、スクリーンを見ながらの対戦という訳にはいかない。


 「おっ!あれ見ろよ?ライブ配信してるらしいぞこのイベント?」


 雄二がそういって、一台のビデオカメラに向かって手を振っていた。


 どうやら、このイベントはインターネット上でリアルタイムに映像配信もされているようだ。


 確かに最初にもらったパンフレットにもそう書いてあったな。


 「も~ほら雄二、そんなことしてないで集中~」


 朱美がカメラに向かって調子に乗っていた雄二に呆れ顔で注意した。


 気を取り直して俺たちはスマートフォンの画面をホール中心へと向ける。


 フェンリルが腕組みをしてこちらを、正確には俺たちのファミリアを睨みつけていた。


 「す・・・末人!なんか用事なかったっけ!?やっぱ帰った方が・・・」


 レリオンがフェンリルを見るなり、そんな事を口走る。


 「大丈夫だ安心しろ、今日は完全に暇人だよ、おまえが言った通り」

 俺は優しく微笑みながら冷たく告げてやった。


 「うっ・・・」


  レリオンは体をビクつかせながらゆっくりと俺の前へ出た。


 「ほら、さっきの威勢はどうしたんだよ?」


 んー・・・はたして戦えるのだろうかこいつは。


 「ほ、本当に勝てるかな・・・」

 朱実が不安な声を漏らしながら、こちらを見る。


 勝算は一応ある・・・けれど、それには俺がレリオンを操作する為の、パイロットモードが解放され

ている事が絶対条件になる。


 俺は朱実の視線に対し、大丈夫というようにこくりと頷いた。


 「よっ・・・よーし!頼むよペンタローちゃん!!」


 朱実はそれを汲みとったのか、気合を入れ直した。


 朱実のファミリア ペンタローは、背中に携えた出刃包丁とオタマを構え、カンカンと包丁とオタマ

を叩いた。


 「一発でも多くパンチを叩き込んでやれ!!」


 雄二のファミリアも尻尾のパンチグローブをブンブンと振り回しやる気を見せた。


 そして・・・


 「さぁ!!第21組目の挑戦者達、対戦スタートです!!」



<BATTLE START>




 戦闘開始を告げるバトルスタートの文字が俺たちのスマートフォン画面上に表示された。


 「いいか!二人とも作戦通り頼む!!」


 「OK!!任せとけ!!」


 「雄二!末人君!アタシより先にやられたら夕飯おごりだからね!」


 「えぇぇ!?」

 突然の朱美ルールに雄二が聞いてないぞと言わんばかりに反応した。


 俺もそのルールは初耳なんだが・・・。


 対戦開始の合図と共に、ストレットは向かって左の壁に、ペンタローは右の壁に背をくっつけ、

フェンリルを挟むように布陣した。


 ホールに向かう前に、俺は二人にある作戦を伝えていた。


対戦開始前――――――


 「フェンリルの攻撃行動には一貫性があるんだ」


 「いっかんせい?」


 雄二が首を傾げていた。


 「ある一定の行動を貫き通してるって意味だ」


 「あ、いや!そんな事くらいわかってるっつの!それが何か知りてーんだろうが!」


 「あぁ・・・そうか、すまん」


 別に雄二を馬鹿にしたわけじゃなく、素でそう答えてしまったのだ。


 「ぶっ!ふふっ、ふふふふ」

 朱美が腹を抑えて笑い始める。


 「オ、オッホン・・・その一貫した行動っていうのは・・・」


 フェンリルは必ず攻撃のカウンターとして弱点となる背面の攻撃ヒットを狙ってくる。


 だから、まず背面をカバーできるようファミリア達を壁際に展開するよう指示した。


 そうする事で、フェンリルは背面へのクリティカル攻撃を仕掛ける事が容易ではなくなる。


 これで、秒殺されるリスクはかなり低くなるはずである。


 またフェンリルを左右に挟むように布陣するよう指示した。


 これは、どちらかに攻撃が仕掛けられた場合、もう一方がフェンリルへ背面攻撃を仕掛けやすくするためだ。


 「な、なるほどな・・・」


 「確かにそれなら、フェンリルのお得意技も封じられるって訳か」


 雄二も朱実も納得してくれたようだった。


 「でもさ、基本攻撃パターンは確かに攻略できそうだけど、途中で見せてた高速のラッシュとか、あの超ドSパターンに入ったらどうするの!?」


 「そうだ、結局あれを攻略できないと話しになんねーぞ?それにおまえは格ゲーで知ってるって

言ってたけど、結局勝ったことあんのかよその知り合いとやらに!?」


 「・・・ないよ」


 「そうか・・・ってダメじゃねーか!?」


 確かに、俺はそいつとファミリアでの対戦においては勝てた事はない。


・・・だが――――――



 フェンリルは、腕組みしつつ、左右に首をふりストレットとペンタローの位置を確かめていた。


 一向に攻撃を仕掛けない俺たちに痺れを切らせたのか、フェンリルはまずペンタローめがけて高速で接近を開始した。


 ペンタローは左手に持ったオタマを振りかぶり、近づいてくるフェンリルめがけて振り下ろす。

もちろん、その攻撃はいとも簡単に交わされたが、お得意の背面への回り込みが出来ず、フェンリルは側面からペンタローへと攻撃を仕掛けた。


 ペンタローはその攻撃に反応し、右手の包丁でフェンリルの攻撃を弾いた。


 「さっすがペンタローちゃん!!」


 フェンリルは一旦、後ろへ距離を取ろうとした。


 しかし、その隙を狙って既に背面からストレットが近づいていた。


 「やっぱ、言う通りだぜ!」


 フェンリルがペンタローに注意を惹きつけられている間に、ストレットがフェンリルの背面へと近づ

いていたのだ。


 ストレットは体を翻し、尻尾に捲きつけられたパンチンググローブを遠心力に任せてフェンリルの背面へめがけて叩き込む。


 しかし、フェンリルの反射能力も高く、すぐさまストレットの攻撃に反応し、体を横向きにしてパンチグローブを左手で受け止めた。


 その瞬間、今度はペンタローがフェンリルに向けて再びオタマを叩きつける。


 しかしそれもフェンリルは右手で受け止めた。


 板挟みになったフェンリルは、たまらず2匹の攻撃を力任せに振り払う。


 攻撃を振り払われた2匹は、すぐさま壁際へと戻ると再びフェンリルの行動を待った。


 幾度となく、フェンリルがペンタローへ攻撃を仕掛け、それをフェンリルは交わしてペンタローの側面を狙い、その瞬間にストレットがフェンリルの背面を狙うという攻防を繰り返した。


 ストレットとペンタローの挟み撃ちに耐え兼ね、はじめてフェンリルは膝を地面についた。


 ファミリアにはHPゲージと共にスタミナゲージというものが存在する。


 スタミナゲージは何か行動したりダメージを追うことなどにより減少し、ゲージ量に応じてファミリアの動きに影響与える要素だ。


 恐らく、フェンリルが膝をついたのは、ペンタローとストレットの同時攻撃を受け流す行動が、スタミナゲージの自然回復量を上回っており、攻防を繰り返すうちにかなりのゲージを消費してしまったのであろう。


 フェンリルは一旦2匹の攻撃を振り払うとホール中央へと距離をとった。


 「すごい!エクスファミリア相手に互角以上に渡り合ってるよアタシ達!?」


 朱美はそう言って喜ぶが、ここまでは想定の範囲内だ。


 むしろ問題はここからなのだ・・・。


 背面攻撃が通用しないとゴーストデータが判断した場合、恐らく次の攻撃パターンへと切り替えてくるはずである。


 これまでの挑戦者達のバトルを見てきた限り、攻撃パターンはいくつかあったが、お互いノーダメージ状態、もしくはフェンリルが若干押されている場合、次に仕掛けてくるのは一旦距離をとってからの連続ラッシュ攻撃・・・つまり、強引な畳み掛けだ。


 予想は的中し、フェンリルは攻撃パターンの切り替えの合図とも言える、低い姿勢をとった。


 ここからが本番である。


 「レリオン!!行動パターンが変わった!!やつの正面へ!!って・・・・あれ?」


 行動パターン変化時、俺はレリオンへフェンリルの正面に向かって立つよう指示していた。


 しかし・・・レリオンの姿が見えない。


 「んな・・・」


 嫌な予感がした。


 こういう場合、レリオンのいる場所はだいたい決まっている。


 俺は背後へとスマートフォンを向けた。


 「おい!おまえ!?」


 案の定、レリオンが俺の背面で座り込んでいた。


 「わわ!?いや、やっぱり戦うのは心の理念に反するというかぁ~!温暖化につながるっていうか~、経済に影響しちゃうっていうか~!」

 いやいや、温暖化とか経済とか関係ないから。


 「お、おい!末人!?」


 「ちょっ!え、次どうしたらいいの!?」


 想定外の自体に雄二と朱美は不安の声をあげていた。


 「ご、ごめん!えっと・・・」


 俺はこのパターンになったら任せろと雄二と朱美に言っていた。


 だからこの後については実は何も指示していなかったのだ。


 フェンリルは連続攻撃を放つためにペンタローへと目線を向けた。


 「に、逃げてくれ!!」


 俺に言える言葉はこれぐらいしか思いつかなかった。


 「はぁ!?に、逃げろったって!?」


 「ペンタローちゃん逃げて!!」


 途端に連携は崩れ、ペンタローとストレットはキョロキョロと逃げ場を探しだした。


 しかしその隙をつかれ、フェンリルの連続攻撃がペンタローへと炸裂する。


 ペンタローを助けようとしたのか、先ほどの行動を忠実に守ったのか、ストレットもフェンリルの背面へと近づき、背面攻撃を狙おうとした。


 しかしフェンリルは、その行動を把握していたのかのように、ストレットの攻撃を避けると、ペンタローとストレット二匹を壁際へと追い込んだ。


 そして不規則に放たれるフェンリルの高速攻撃が2匹を襲う。


 2匹ともフェンリルの爪に引き裂かれ宙へと打ち上げられ、最後に地面へと叩きつけられた。


 同時に2匹のHPゲージが一気に8割まで削られてしまった。


 「おい、動けストレット!!」


 「ペンタローちゃん起きて!!」


 雄二と朱美が必死に呼びかけに、二匹は立ち上がろうとするが、行動速度が著しく低減していた。


 「まさか・・・クリティカル!?」


 フェンリルは高速のラッシュ攻撃中、更に二匹のクリティカルポイントにまで攻撃をヒットさせていたのだ。


 「・・・・レリオン」


 「ニャ、ニャハハ・・・、なんだよ末人、怖い顔しちゃって」


 俺はレリオンをスマートフォン越しに睨みつけていた。


 「あぁっと・・・ごめん・・・末人、やっぱりダメっぽいんだ」


 嫌な予感は的中したようで、レリオンは戦えなかったのだ。


 せいぜい自信満々に戦えると言った手前、やっぱり戦えないとは言い出しづらくなってしまったのだろう。


 だが、それを隠した結果、雄二や朱美のファミリアを窮地に陥れてしまった。


 「・・・またなのかよ・・・おまえ」


 きっと雄二も朱美も、この後きっと、俺とレリオンは何もしないで逃げた卑怯者と言って、去っていくだろう。


 沙鳥が引っ越してしまって以来、久しぶりに仲良くできるやつらだと思ったのに。


 沙鳥に言われてレリオンのデータを消すのをやめた事、こいつを消さなくて良かったと思っている事、それらは決して嘘じゃないし、レリオンを嫌に思った事はない。


 それでも俺は、どうしても嫌なことが一つだけあるのだ・・・。


 「怒らないでよ、やっぱ僕にはさ・・・」


 「おまえが!!」

 思わず声を荒げる。


 「また・・・おまえがまた馬鹿にされるのは・・・嫌なんだよ」


 俺がずっと嫌だった事、それはみんなと対戦できないとか、レリオンが成長できないとかそういう

事じゃないのだ。


 例え現実には存在しないゲーム上の生き物であったとしても、レリオンが・・・友達が馬鹿にされ

るのは嫌なのだ。


 「・・・・末人」


 ホールの端でフェンリルがゆっくりとストレットとペンタローに近づき、とどめを刺そうとしていた。


 フェンリルは腕を大きく振り上げ、鋭い爪を2匹へと向けた時、ピクッとその動作が止まった。


 「え!?あれ!?レリオンちゃん!?」


 急に朱美の声がして、スマートフォンの画面を眺めると、そこにレリオンはいなかった。


 「おいこらぁ!!こっち・・・こっち向けよ!!」


 スクリーンを見ればレリオンがフェンリルはの方へ全速力で走りながら挑発していた。


 「やい!!あ、相手してやるから、こっちみろ!!」


 それに気づいたのか、フェンリルのターゲットはレリオンへと急激に切り替わったようだ。


 何故フェンリルが攻撃をやめてまでレリオンを攻撃対象にしたか、それは簡単な事だ。


 ファミリアがAIとして行動する場合、自分の周囲の中で一番レベルの低いファミリアを最も弱いファミリアと判断し、攻撃対象とする確率値、すなわちヘイト値を高く設定する。


 つまりこのヘイト値により、フェンリルの行動範囲に入ったレベル1のレリオンはヘイト値が最も高く設定され、ターゲットの切り替わりが発生したという訳だ。


 一番初めにペンタローが狙われ続けたのも、ストレットよりペンタローの方が低レベルであり、かつレリオンがフェンリルの行動範囲外にいたからである。


 これは最初から計算していた事で、あとはこのヘイト値を有効活用するには、どうしてもレリオンが戦える事、強いて言うならパイロットモードの解放が絶対だったのだが。


俺はスマートフォンの画面を見ながら、パイロットモードの起動ボタンを連打する。


 「くそ!!起動しろ・・・起動しろよ!!」


 しかしシステムは全く反応しない。


 レベル1でかつ、戦えないレリオンでは、あの攻撃は一発と耐えられない。


 しかし、フェンリルは待ってなどくれなかった。


 攻撃対象をレリオンへと切り替えると、レベル1のファミリア相手だろうがおかまいなしに、攻撃を

仕掛けてきた。


 「ふえ!?うぁああああ!!」


 レリオンがうずくまり叫ぶ。



 ドゴォォォォーーーーーン!!



 地割れのような轟音がスマートフォン、そしてスクリーンのスピーカ越しに鳴り響いた。



 「レリオン!!!・・・・!?」


 見れば、フェンリルの攻撃は空振っており、地面を叩きつけていた。


 ギリギリのところでストレットとペンタローがレリオンの元へと駆けつけ、フェンリルの攻撃から

救出してくれていた。


 「ったく、おまえのファミリアは、無茶しすぎだろおい!」


 「よ、よかったー!!」


 朱実と雄二が声を揃えて言う。


 「おまえら・・・なんで・・・」


 下手をすればHPの少ない二人のファミリアはやられていたかもしれないのに。


 「いやいや、俺たちは何もしてないぜ?」


 「うんうん、あれはペンタローちゃん達が勝手に助けたんだよ?」


 「え?」


 つまり、ペンタローやストレットのAIが自ら考え行動した結果だという事なのか。


 「レリオンちゃんの勇気を、ペンタローちゃんもストレットちゃんも、ちゃんとわかってるんだよ」


 「あぁ、きっとそうだ!」


 雄二と朱美は、そう言って微笑んだ。


 フェンリルは3匹の前で仁王立ちしていた。


 レリオンは身に着けていた変装用のサングラスと頭の頭巾を外しながら、ボロボロになっている

ストレットとペンタローの前へと出た。


 変装については、まぁ、この際仕方がないか、どうにでもなれ・・・。


 そして、震えながらも手を大きく広げ、フェンリルに向かって通せんぼした。

続けてレリオンはペンタローやストレットの方を見ながら言った。


 「す、末人は・・・」


 「末人は暇人で・・・家でゲームばっかしてるけど・・・」


 「だけど、ゲームはなんだって超絶うまいんだ!!」


 「だから、弱いのは僕のせいで・・・僕が戦えないからなんだ!!」


 「レリオン・・・」

 レリオンは俺の方を向いて申し訳なさそうな顔をした。


 「僕が対戦で負けると、末人がいつも馬鹿にされてたから」


 「僕も、末人が馬鹿にされるの嫌だ・・・」


 気づかなかった・・・、レリオンが同じように苦しい思いをしていた事を。


 戦うことができず、俺が負ける度に相手から馬鹿にされていることを知ってて、だからレリオンは戦闘を嫌い、消極的になっていたのかもしれない。


 フェンリルは爪を立て、再び手を振りかぶり攻撃モーションに入った。


 「ぼ、僕が戦えるようになったら!!お、おまえなんてイチコロなんだ!!」


 ストレットとペンタローはレリオンの横へと並び、一緒にフェンリルを迎え撃とうとしていた。


 「・・・頼む・・・頼む!!」


 俺はレリオンを操作できるパイロットモードの起動を願う事ぐらいしかできなかった。


 ただひたすら、スマートフォンを握り祈る。


 レリオンの思いに応えてやりたい気持ちでいっぱいだった。



      ピロロン!!



 急にスマートフォン上から電子音が鳴り響いた。


<―Pilot Mode Liberation!!―>


 「・・・これは!?」


 スマートフォンの画面には操縦キーが表示され、パイロットモード解放を告げるメッセージが表示されていた。


 そしてほぼ同タイミングでスマートフォン上に、メッセージが届いた。



>>がんばって     <沙鳥>



 「な・・・沙鳥?」

 何故このタイミングでこんなメッセージを送られてきたのか・・・いやまずはフェンリルを倒すことが最優先だろう。


 「レリオン!やったぞ!」


 俺はレリオンに向かってそう叫んだ。


 「ふえ!?うぁ!!」


 俺の呼びかけにボケっとしているレリオンに対し、フェンリルは爪をむき出して攻撃を仕掛けるが、フェンリルの攻撃はブンッと空を切った。


 パイロットモード解放により、俺のコントロールでレリオン操作することができ、すぐさまバック

ステップのコマンドを入力してレリオンを回避させたのだ。


 レリオンは何が起きたのかわからず、手を広げてキョロキョロしていた。


 「す、すげー今のをよけたのか・・・」


 「な、なんか今の動き、レリオンちゃんじゃないみたい!?」


 雄二も朱美も、レリオンの動きに驚いていた。


 「す、末人・・・僕、勝手に動いたよ!?」


 レリオン自身も驚いているようだった。


 「雄二!確かに俺は格ゲーやってた知り合いには勝てたことが無い」


 「あ?あぁ??」

 雄二は話しの流れがわからず困惑しているようだった。


 「でも、それは“ワールド・イグジスト”においてだけだ」


 「・・・へ?」


 「・・・それって?」


 雄二と朱美が顔を見合わせる。


 「本家の格ゲーでは一度だって負けた事はないよ!」


 俺はレリオンを操作し、フェンリルの正面へ向かって突撃させた。


 フェンリルはレリオンの行動を察知すると後方へと大きく距離を取り、再び低い姿勢をとった。


 レリオンが間合いに入った瞬間に向い撃つつもりであろう。


 そしてフェンリルの間合いにレリオが入った瞬間、フェンリルの変則的かつ高速な攻撃が繰り出された。


 一発でも当たれば、レリオンのHPは0・・・失敗は許されない。


 フェンリルの素早い攻撃が一発、二発、三発とレリオンにめがけて放たれる。


 俺は手元のスマートフォン上で操縦キーを高速で叩き、フェンリルから繰り出されるそれらの攻撃を的確に回避していく。


 そしてレリオンに向けて放たれた攻撃、全17発をすべて回避しきってやった。


 「すげぇ・・・・うそだろ!?」


 「あれを全部避けきるなんて・・・ありえない!!」


 下のホールからも大歓声があがっているようで、ここ2階のホールまで声が聞こえてきた。


 フェンリルは、同じ攻撃をもう一度仕掛けてきたが、攻撃のパターンはすべて同じであり、再び全ての攻撃を回避してみせた。


 計34発の攻撃を放ったフェンリルは、突然硬直した。


 「おい、フェンリルの様子が変だぞ!?」


 「なんか固まってる??」


 「うん・・・」


 ファミリアがすべてのスタミナゲージを消費した場合、ゲージがすべて自然回復するまでの間、

だいたいだが10秒程度のホールドタイムが生じる。


 「フェンリルのスタミナが切れたんだ」


 俺はすかさずレリオンをフェンリルの背面へと回り込ませ、攻撃コマンドを連打した。


 レリオンのパンチがフェンリルの背面をペチペチと叩き始めた。


 「くそっ!・・・やっぱりレベル1じゃ!」


 レリオンの弱々しい効果音のパンチが連打される。


 俺はレリオンのスタミナゲージの限り、フェンリルに対してパンチを浴びせ続けた。


 レリオンの連続攻撃に、やがてフェンリルは膝をつく。


 攻撃力が低いが故に、俺は幾度となくフェンリルのクリティカルポイントへ向けて的確に攻撃を叩き込み続けた。


 しかし、それでもHPを2割程削るのが精いっぱいであった。


 やがて、フェンリルのスタミナが回復し、ホールドタイムが解けると同時に、レリオンのスタミナも底を尽き、その場にレリオンは座り込んでしまった。


 座り込むレリオンの方へゆっくりと振り向くフェンリル。


 フェンリルは大きく腕を振りかぶり再び攻撃モーションへと移った。


 俺はスマートフォン操作をやめ、正面のスクリーンを眺めた。


 別に諦めた訳じゃない、何故なら・・・。



「ストレットぉぉ!!」

「いっけぇぇぇ!ペンタローちゃん!!」



 雄二と朱美の掛け声に合わせて、フェンリルの背面からストレットとペンタローが攻撃を仕掛けていたのだ。


 フェンリルもさすがで、すぐに二匹の攻撃を察知し反撃の動作に移った。


 しかし、先ほどのレリオンのクリティカルポイント攻撃がヒットしていた事により、行動速度低下の

ペナルティを受けていたフェンリルは、反応がワンテンポ遅れた。


 ストレットとペンタローの攻撃がフェンリルの背面にクリーンヒットし、フェンリルは地面へと叩きつ

けられた。


 フェンリルのHPゲージが大きく削れていく。


 そして・・・。




<BATTLE END>




 明るいBGMがスマートフォンから流れ、紙吹雪の演出と共に画面上にバトルエンドの文字が浮かびあがった。


 フェンリルはその場から起き上がると、その場でスッと消え去った。


 「か・・・勝ったあああ!?」


 「ハハ・・・ハハハ!?アタシ達勝ったんだ!」


 雄二と朱美は、まだエクスファミリアに勝利したことが信じられずにいるようだった。


 1階のパソコン室からも絶えない歓声が響き渡っていた。


 緊張がとけ、俺もペタンとその場に座り込んだ。


 再び俺のスマートフォンにメッセージが届く。



>>さすがね(・v・)      <沙鳥>



 使い慣れない顔文字とかいらないっての。


 しかし、まるで俺達がここで戦っている事を知っていたかのような書きぶりだな。


 ライブ配信でこの対戦を見ていたのか?



 「末人!!」

 「末人君!!」


 雄二と朱美が俺のもとへと駆け寄ってきた。


 「やっぱおまえすげーよ!あの連続攻撃を回避できなかったら勝ちはなかったぜ!」


 「ホント、ホント!!全部末人君のおかげだね!」


 「いや、3人でやらなきゃ勝てなかったよ、だから・・・これはみんなの勝利だ」


 本当にそうなのだ、俺一人では、絶対に勝てなかった。


 レリオンのパイロットモードが解放された事、そして雄二、朱美がいてくれた事、そして・・・。



 毎度格ゲーコンボを見せつけてくれた沙鳥のおかげだ。



 「末人!僕メッチャつよくなかった!?」


 レリオンが得意げな顔をしてスマートフォンの画面に向かって駆け寄ってきた。


 「バーカ、あれは俺の操作のおかげだ・・・ちゃんと動き覚えておけよ・・・」


 「あーっと・・・ニャハハ、たぶん覚えてる!!」


 絶対嘘だろ・・・。


 レリオンと会話していると、後ろからストレットとペンタローが近寄ってきた。


 「君たちありがと!」


 レリオンは二匹に感謝を伝えお辞儀するが、二匹は黙って立ち尽くしていた。


 まさか、途中で逃げたことを怒っているのか?


 ずっと、ストレッドとペンタローは黙り続けていた。


 「末人~、いい加減フレンド申請OKしてくれよー?」


 「え?」


 雄二が不満そうに言った。


 「そうだよ~、じゃなきゃペンタローちゃんとレリオンちゃん会話できないよ?」


 「・・・え・・・・そうなの??」


 「逆にそこ知らなかったんだ・・・」

 朱美が呆れた顔をして言った。


 どうりで、対戦中二匹とも静かだと思った。


 「プ・・・アハハハハ!なんか末人君っておもしろいね!」


 「ハハハ!ほんとだよ、あんな操作うまいのにな!」


 「・・・ハハハ」


 だって、沙鳥以外、誰も一緒に遊んでくれなかったからこのゲームのフレンド機能とか知らないんだよっと。


俺は先ほど雄二と朱美から届いたフレンド申請を承認した。


 「・・・なんで笑ってるの末人?なんか気持ち悪い・・・」


 レリオンが、スマートフォンの画面越しから、やや引き気味に言った。


 「う、うるさい!」


 なんてことはないただの友達登録、なのになんだか妙に照れくさくて、歯がゆかった。


 「レリオン殿!!すさまじい動きであったな!!」


 少々かん高い声色がスマートフォンから聞こえ、俺はスマートフォンの画面を見た。


 その声の主はペンタローで、レリオンに話しかけていた。


 ペンタローってこんなしゃべり方してたんだな。


 ストレットもペンタローに続けて言った。


 「シュルル、謙遜する事はないシュル、すごい動きであったシュル~」


 「ニャハハ!いやいや~そんな事もないけど!」


 レリオンは鼻高々に高笑いした。


 まったく本当にお調子者だなこいつ。


 でも、レリオンが他のファミリアとこんな風に話す姿が見れて純粋にうれしい。


 ふいに、沙鳥が言ってた、ゲームは強さよりもっと大切なことがある、って言葉を思い出した。


 まだその言葉の意味はよく分からないが、でも、ほんの少しだけ理解できた気がした。


 「さ、行こうぜ?」


 ポンと雄二が座り込む俺の右肩を叩いた。


 「レッツ!トーキョー!だね?」


 雄二に続けて左肩を朱美がトンと叩く。


 「・・・あぁ」


 グゥゥゥ・・・


 突然、腹の虫が鳴る。


 その音に雄二と朱美がキョトンとした顔でこちらを見る。


 「そういや昼飯まだだったんだ・・・」


 「・・・ハハハハ!んじゃファミレスいこーぜファミレス!」


 「賛成ー!じゃ~雄二のおごりってことで!」


 「なんでそーなんだよ!?」


 雄二が俺にスッと手を差し出し、俺はその手を借りてその場から立ち上ると、俺達は肩を並べてホールを後にした。


 俺は一旦立ち止まりスマートフォンから沙鳥へメッセージを返信した。



>>なんとか東京へ行ける事になったぞ       <末人>



 そのメッセージはすぐに既読となり、返事が返ってきた。




>>ライブ配信で見てたわ、おめでとう

  東京で待ってるわね              <沙鳥>



 やっぱ見てたのか・・・。


 「おーい!末人~早くいくぞ!」


 「お、おう!」


 雄二に急かされ、俺はスマートフォンをポケットにしまい急いで追いかける。


 高校最初の夏休み、どうやら退屈しないで済みそうだ。



 ちなみにこの後は、俺達がエクスファミリアを倒してしまった事から、賞品こそないものの、エクスファミリアと模擬戦ができるという主旨のイベントへと変更された。


 賞品こそ無いものの、俺たちの戦いに感化されてその後も挑戦者が続いたとか。


 ただ俺と雄二と朱美は、賞品を貰うなりさっさと市民会館を出てファミレスへと直行したから、その後の事は全然知らない。


 でも結局、俺達を除いて他の参加者は誰一人エクスファミリアを倒せなかったらしい。


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