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ワールド・イグジスト  作者: ほとりうえ
第一章
2/9

001.

 夏休みが始まったばかりだが、特に予定もなく俺は昼間から家のソファでごろごろしながらドームやらARやらの特集番組をなんとなく眺めていた。


 「ドームねぇ・・・」


 ソファに寝そべり手元のスマートフォンで現在時刻を確かめる。


 「まだ12時か・・・ん?」


 手にしたスマートフォンの画面越しに映されるソファの上で、ピョンピョンと飛び跳ねる一匹の生き物がいた。


 首元に水玉スカーフを巻いたトラ模様の猫のような生き物。


 「・・・今日も元気だな、レリオン」


 俺がレリオンと名付けたその猫のような生き物は、俺の呼びかけに気づくと、グルッと宙を一回転して、俺の目の前へと器用に着地し、その場でペタンと座りこんだ。


 「末人すえひとは昼間からホントぐーたらだなー、外にでも行って遊んで来なよ?」


 こいつは見た目こそ可愛いらしいものの、非常に生意気な性格をしている。


 なんだよその返答?お母さん?


 先に言っておくと、こいつはスマートフォンの画面越しでしか見ることができない、いわゆるAR上のキャラクター(映像)であり、現実空間には存在していない。


 「うるさいな、俺は日の光を浴びると溶けちゃうんだよ」


 「うそぉ!?ごめんよ知らなかったー、ちゃんと覚えておくよ!」


 「あー・・・おう」

 我ながらすごく雑な説明かつどうでもいい事を学習させてしまったもんだ。


 このキャラクターはアドバシード社がサービスを開始した、大流行のスマートフォンゲーム『ワールド・イグジスト』のキャラクターで、現実世界の位置情報及び空間情報を全ARキャラクター達が個別に保持している。


 各キャラクター達は人工知能を有していて、現実世界の中を独立行動しており、そのキャラクター達をこのスマートフォンアプリケーションでウォッチすることができるのだ。


 レリオン含め、こうしたキャラクター達はゲーム内では精霊という扱いになっており、プレイヤー達は一匹だけそれを従える事ができる。ちなみにこのゲームではプレイヤーの事をマスターと呼ぶ。


 従えた精霊は通称ファミリアと呼ばれ、会話することができるようになったり、色々な命令にも従順に応えてくれるようになる。


 ちなみにレリオンは俺のファミリアである。


 「なぁ、レリオン、ちょっと踊ってみてくれよ、暇だから」


 あまりの暇さにレリオンへどうでもいい命令を下してみた。


 「やだよ、末人がお手本見せてくれたらいいよ」


 確かに踊りという概念を教えてやったことはなかったか。


 「んん・・・・それじゃぁ見てろよ」


 俺は、ソファからすっと立ちあがると、レリオンに覚えさせる為に仕方がなく、クルッと回転しながらポップな(テキトウな)踊りを披露して見せてやった。


 「ほら、どーだぁ!こんな風に・・・」


 ドヤ顔でレリオンの方へスマートフォンを向けると、レリオンは窓の外を眺めて寝転んでいた。


 「おい・・・」


 「へ?」


 「・・・いや、もーいいわ」

 訂正しよう、必ずしも従順なファミリアだけとは限らない。


 ふいにスマートフォンが振動し、画面にメッセージが表示された。



>>久しぶり末人、元気にしてる?       <沙鳥>



 メッセージの差出人は、去年転校した幼馴染の赤原沙鳥あかばら さとりからであった。


 「お!沙鳥からのメッセージだ、懐かしいね末人!」


 俺のスマートフォンの画面がいっぱいになるぐらい、顔を近づけてレリオンがはしゃいだ。


 ファミリアは主人のスマートフォン上に表示される情報を見る事ができる。


 だから今届いたメッセージをレリオンは読む事ができたのだ。


 去年ワールド・イグジストのサービスが開始された時、沙鳥と俺は真っ先にこのアプリケーション

をダウンロードして、ゲームを開始した。


 そしてお互いのファミリアを見せ合って、ファミリア同士で会話させてみたり、ちょっとしたミニ

ゲームを楽しんだものだ。


 だから、レリオンも沙鳥のことを知っているし、今でも覚えているのだ。


 「そ、そうだな、全然連絡とってなかったし・・・」


 沙鳥は急遽親父さんの都合で東京に引っ越す事になり、去年の12月に突然転校が決まってから、2週間で越していってしまった。


 だから引っ越しの準備とかで忙しく、最後はろくに会話もできずにお別れとなってしまった。


 「ねー早く返事しなよ?」


 「うるさいな、すぐに返信したら暇人みたいじゃないか」


 「いやいやー、どう見ても暇人全開だよ?」


 「う・・・まぁ、そうか」


 レリオンの鋭い突っ込みを受け、とりあえずそっけない返信をする事にした。



>>おう元気だ。久しぶり       <末人>



 「うわ・・・」


 特にその先を言わないがレリオンが冷ややかな目でこちらを見る。


 「なんだよ!?長ったらしい文書を書いたら気があるみたいに見えちゃうってネットに書いてあったんだよ!!」


 「気がある??」

 レリオンは首を傾げてこちらを見つめる。


 「あー違う違う!!てかいちいち見んなっつの!」


 再びスマートフォンがブルっと震え、沙鳥からすぐに返信が来た。


 俺とレリオンはすかさずそのメッセージを見る。



>>そっちも、もう夏休みよね?よかったら遊びに来ない?     <沙鳥>



 「・・・」


 その返信内容は、読んで文字の通り遊びに来ないかという誘いのメッセージであった。


 沙鳥が引っ越した先は確か・・・東京のドームだ。まさに先ほどまでテレビで特集していた、

立体映像を現実空間に投影できるあのドーム型都市である。


 ちなみに本家“東京ドーム”は、ドームの中にあって、ドームインザドームって感じである。


 なんだかややこしい・・・。


 しかし、ここから沙鳥の住む東京へ行くにしても、高校性の少ない貯金では少々厳しい。


 バイト代もあったが、いろいろあって底をつきたし、すくなくとも夏休み中に遊びに行くことなど

到底叶わないだろう。


 今からバイトしたとしても、夏休み中にお金を得る事は出来ないだろうし。



>>すまん、行きたいんだが、金ない     <末人>



 そんな諦めのメッセージを見るなり、レリオンが駄々をこねてソファの上でまた飛び回りはじめた。


 「えー行こうよ末人!!行きたい!!行きたいぞー、行きたいぞすとー!!」

 行きたいぞすとってなんだよ、最上級の行きたいを表してるつもりか?


 「んなこといってもな・・・」


 再びスマートフォンが振動する。


>>そう、残念ね。

  こっちも暇ができた時にそのうち遊びに行くから、

  その時は相手してね。<沙鳥>


 「相変わらずだなアイツ・・・」


 思ったよりあっさりした返答が返ってきてしまい、俺は少し残念だった。


 もっと、「えーやだ!寂しい!」みたいな反応を期待してしまったが、沙鳥はそもそもそんなキャラじゃなかったな。


 けれど何だろうか、これで会話が終わってしまう事に無性に虚しさを感じてしまう。


 本当はもう少し話したいけれど、それ以上会話を引き延ばしたところで会話も続きそうにないし、東京に行けるようになるわけではない。


 それに・・・必要以上に会話を引き伸ばそうとするのはキモイってネットにも書いてあったし!


 「ふぅ、ちょっと出かけてくる・・・」

 特に行き先も思いつかないがなんだか外に出たい気分になった。


 「でかけるってどこへ?」


 「ちょっとそこまでー」

 メイちゃんじゃないし、お弁当もさげてないけどね。


 「さっき、日に当たると溶けちゃうとか言ってなかった?」


 「溶けないモードにたった今チェンジした」


 「まじ!?」

 ・・・んなわけあるか。


 「つか、おまえも一緒に来るか?」


 「ん~・・・行く!」


 こういうところは素直で可愛らしいやつだ。


 ファミリアは位置情報と空間情報を持っているから、こうやって一緒に外出することだってできる。


 まぁ、もちろんスマートフォンの画面越しでしか見る事はかなわないのだが、もしドームの中だったら本当に一緒にいるように感じられるのだろう。


 俺は特に着替えもせず七分丈のズボンに半袖とラフな格好で家を出た。


 まだ昼飯も食ってないし、ついでにそこらへんで食べてこようか。

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