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ドキっとした。心臓をそのまま抉り取られてしまったかのような衝撃だった。
「え、と。その……」
「だから、俺と付き合ってください!」
教室中がシーンとしてその一点だけを見つめていた。
授業が終わった途端、私の前である一人の男子生徒が女子生徒に告白した。告白された女子生徒は驚いた顔をし、教室にいる女子生徒はわーと口に手を当てて、男子生徒は神妙な顔で二人を見つめる。
まあ、それはそうだろう。突然告白されれば普通はそういう反応になる。
「その、ごめんなさい。気持ちは嬉しいんだけど……」
告白された女子生徒は困りながらも、優しい口調で断りの返事を返す。それを言われた男子生徒は「そうですか」とだけ口にし、その場から走り去った。その男子生徒の友達数人がそれを追い掛け教室を後にした。
それを境にして、止まっていた周りの生徒が動き出した。女子生徒数人が告白された女子生徒に近寄って何かを話している。
私はほっと息を出すとともになぜ自分がほっとしているか考える。一体どうしてしまったのだろうか。
告白された女子生徒は、学校中でおそらく一桁に入るであろう美人だ。なんというかとっつきにくいという感じではなく、ふわっとした感じでそれゆえ先ほどのように告白されることは多々あった。
「ねえ、一体優芽は誰と付き合うのよ?」
「そうそう、さっきのだってサッカー部のエースだしさー。けっこうカッコいいじゃん?」
「うーん、そうなんだけど。私まだそういうのよくわかんなくてさ」
「えー」
「うそだぁ」
私はぼーっとしていると、先ほど告白された女子生徒――遠野優芽が数人の女子生徒と話ながら私の近くを通り過ぎて行った。
「――わっ」
彼女が私の横を通り過ぎたとき、甘い匂いが私の鼻をついた。私は彼女が教室から出ていくまで目を離せなかった。
「なんだろうな」
私はベッドに寝転がりながら遠野優芽のことを考えていた。彼女のことが頭から離れなかった。
遠野優芽とはあんまり話したことは無かった。ただのクラスメートという関係だ。まあ、彼女も私のことをそう思っているだろう。
「うーん」
私は髪をくるくるといじりながら悩んだが、一向に答えは見つからなかった。