お礼
「おいしかったね。ボア。」
ネロは満面の笑顔だ。
でも今回は、腹8分目らしい。少し、体重を気にしているみたいだ。
「さて、どっちに行こうか。」
そんなことを話していると、
「邪魔だ!」
とそんな大きな声が聞こえてきた。
「お助け下さい。お助け下さい。」
と女性の声が聞こえてくるが辺りは暗くなっていて、状況は確認できない。
「ちょっとユート。なんか聞いたことがある声なんですけど。」
「ああ、あるな。ミラ様子を見て来て。」
「わかったわ。」
ミラは様子を見に現場に走って行った。
俺たちも歩いて、ミラの後を追いかける。
「やめなさい。」
ミラが体格のいい男の腕を掴んでいる。
女性は、一発殴られているようだ。
「てめ~何しやがる。離せ!」
「もう、気が済んだでしょ。やめるんだったら、この手を離す
わよ。」
そう言ってミラは手に力を込めて行く。
「うぐぐぐ。わかったよ。離せよ!」
ミラは男の手首を離した。
「ちきしょう、覚えとけよ。」
そう言って男は去って行った。
「大丈夫?」
ミラは女に駆け寄り、いたわった。
「あ、貴方はあの時の!」
被害に遭った女性は、子どもを助けた時に女性だった。
偶然ってあるもんだな。
そんなことを考えていると。
「ありがとうございます。2回も助けていただきまして、
本当にありがとうございます。」
「ねぇ、あの子は元気になったの?」
サラが母親に聞いている。
「ええ、おかげさまで、今では元気に走り回っています。でも、不思議なんですよね。
実はあの子、足に大きな怪我を負っていまして、そこが、化膿して、熱を出していたんですけど、ユートさんに出会った後、その場所を見たら、怪我も綺麗に無くなっていて。」
「いいの。いいの。気にしないで」
ミラが笑顔で答えている。
「あ、何かお礼をしなくちゃ。」
「いいですよ。別に。」
ミラは答えた。
「よろしかったら、家に来てください。何もないですけど、少しばかりのお礼をさせてください。」
「どうする。ユート?」
「いいんじゃない。どうせ、この後、予定もないし。泊まるとこもないし。」
「え、泊まるところをお探しですか? 狭くて汚いところですけど、よろしければ、ぜひ、うちに泊まってください。」
「いや、そこまでされては、申し訳ないです。」
「ユートさんたちには、私の子供だけじゃなく、私も助けていただきました。
本当に感謝してしきれないです。お願いです。お礼をさせてください。」
母親は俺の手を握り悲願してきた。
「ユーちゃん。行ってあげましょう。」
「わかったよ。」
俺たちは、母親を先頭に歩き出した。
だんだんと賑やかな場所から離れて行く。
辺りもだんだんと暗くなっている。
「ここは、平民のエリアです。
ここは、いくつかのエリアに分かれていまして、ここが一番大きなエリアになります。私も含めてですけど、ほとんどが貧乏人ですけどね。」
平民エリアに入ってからも随分と奥の方に入って行った。
家は建っているが、奥に行けば行くほど、どんどん家がみずぼらしくなっている。
ん、なんか、大勢の目線を感じるぞ。
そう思っていると、
「おい、どうしたんだ。その顔の傷は?」
と大声で俺たちに向かって叫び、男が俺たちの前に現れた。
どうやらおれたちに敵対心を持っているらしい。
別に俺たちが顔を傷つけた訳ではないのに。
「大丈夫よ。安心して。この人たちに助けて貰ったの。」
「そうなのか。最近、ぶっそうな人間が増えてきたからな、気を付けろよ。」
そう言って男は消えて行った。
するとさっきまでの目線も感じなくなった。
「あの人は、この辺を縄張りにしている人なの。
よそ者が入ってくると縄張りを荒らされるから、目を光らせているの。」
「俺たちは大丈夫か?」
「ええ、心配しないで。この辺の住民の知り合いだったら、大抵は見逃してくれるわ。
ただ、一人でうろついていると、難癖を付けられるので気を付けて。」
「了解です。」
「ここよ。私の家は。」
そう言ってお母さんが指差した家は、掘っ建て小屋だ。
木で、柱を立てて、周りにはトタンの様は板で囲ってある。
まあ、雨、風は凌げるな。
「どうぞ。狭いと思いますがお入りください。」
そう母親に言われ俺たちは中に入った。
中は狭いと思ったが意外と広かった。
奥に長い長方形だ。
床は、土だが、ところどころに木のベニヤ板が置かれ、多少は寛げるようになっている。
でも、俺たち4人が入るとさすがに狭い。
「ここを自由にお使いください。」
「え、お母さんとお子さんは?」
「いいの。心配しないでください。私たちは、知り合いの家に泊めてもらいますので。」
「本当に良いんですか。」
「どうぞ、お使いください。」
「あの~ちょっと改造してもよろしいですか。」
ミラが聞いた。
「いいですよ。好きに使ってください。」
「それと、結構長い滞在になりますが迷惑では無いですか。」
「全然迷惑なんて言わないでください。出来るだけ身の回りの世話もさせていただきます。」
「そんな悪いですよ。」
「いいんです。私がやりたいだけですから。」
「わかりました。お世話になります。ただ、俺たちは冒険者で、ここにはダンジョンの探索に来ました。
だから、どれくらいの頻度で使わせて貰うかもわかりません。」
「やっぱり。そうだと思いましたわ。ここに来る冒険者はみんなダンジョンの探索を目的に来ますので。大丈夫です。そんなこと百も承知です。」
「それともう一つお願いがあります。僕たちといる事。そしてこれから起こる出来事を秘密にできますか?」
「もちろんです。秘密にします。」
「それじゃあ、ちょっと顔を見せてください。」
俺は母親の顔に手を当てた。
母親は少し照れている。
俺はヒールを唱えた。
すると母親の顔の傷は綺麗に治った。
「えっ」
母親はビックリしている。
「だから、秘密にして下さいね。じゃないと俺たち捕まりますから。」
「わかりました。絶対に秘密にします。私たちの命の恩人を売ったりしません。」
「そうですか。それじゃあ、よろしくお願いします。」
そうして、俺たちは、母親の世話になることにした。
っていうか、母親の名前が解らない。これじゃだめだ。
「一つ忘れていました。自己紹介がまだですね。私はユートと申します。
で、こっちがネロで、こっちがミラで、こっちがサラです。」
「すみません。私としたことが。私は、カミルと申します。あ、サロンこっちに来て。」
「なに?お母さん。」
「この子が私の息子のサロンです。」
「この人たちはだ~れ?」
「そっか。覚えてないか。あなたの病気を治してくれたユートさんよ。お礼を言って。」
「ありがとうお兄ちゃん。またね。」
そう言ってサロンは元気に走って行った。
「あの子ったら。ユートさん。サロンともどもよろしくお願いします。」
そう言って、カミルは家を出て行った。
「ちょっとこの作りだと、寛げないわね。何とかしないと。」
サラが家の中を見渡しながら話した。
「えい」
サラがたぶん魔法を使った。
すると、でこぼこした土の床が、綺麗に整地されってって。
違う。整地のレベルじゃない。
大理石の床の様にピカーンと茶色く輝いている
「よし、これで床は問題なし。後は、ベッドがあれば快適よ。」
サラが珍しくやる気を出している。
「ベッドってどうするの?」
俺はサラに聞いた。
「ジャ~ン。」
ミラが、魔法の袋からちょうど一人が横になれる簡易なベッドと布団一式を取り出して置いた。
「ミラ、何だよ。これ?」
「何って。見れば解るでしょ。ベッドセットよ。」
「そりゃあ見れば解るよ。どうしたんだよ。これ?」
「買ったの。野宿セット。みんなの分もあるし、テントもあるわよ。」
「すごいなミラ。」
「へへ~すごいでしょ やっぱり魔法の袋があったら、こういうのも揃えないと。
ちなみに、コンロセットもあるわよ。あとこれ。」
そう言って、足の低い丸いテーブルを出して置いた。
4人でちょうどいい大きさだ。
「ネロ、この家全体にクリーンね。」
ミラはネロに指示をだした。
「はい。クリーン。」
「なんか、お前たち要領が良すぎないか?」
「当たり前よ。快適に冒険するために、っていつも考えているんですから。」
ミラは自慢げだ。
サラとネロはもう自分のベッドで横になっている。
他にもミラは色々と家のあちらこちらをいじくりまくっている。
既に最初とは全然違う内装になった。
あ~これは絶対にカミルがビックリするぞ。
っと思いながら、ミラをほっといて寝ることにした。
朝になり俺たちは、起きて寛いでる。
「みなさん。朝ごはんをお持ちしました。空けていいですか。」
カミルがやって来た。
「どうぞ。」
俺が返事をすると
「おはようござい、わ~わわ!」
カミルはやっぱりビックリしている。
「なんですか、これは?」
「すみません。少し、いじらせていただきよした。ドアを閉めて中に入って貰っていいですか。」
「わ~おしゃれ~。」
カミルはミラのリホームが気に入ったのか感心している。
結構、カミルはすぐに馴染んだなっていうか、良かったのかな。こんなにして。でも、怒ってはいないからいいか。
昨日相当夜遅くまで、ミラがいろいろやっていたから、完全に外見の印象と中身が全然違う作りになっている。
「これは、全部、ユートさんたちがやったんですか?」
カミルは尊敬の眼差しで見ている。
「ほとんど、ミラがやったんだよ。すごいよね。」
「すごいです。感動しました。あ、そうだ。朝ごはんをお持ちしました。ここに置いていいですか?」
「ありがとうございぼす。そこに置いてください。」
「本当にびっくりしました。まさかこんなになっているなんて。」
「すみませんね。こんなにしちゃつて。」
「いえ、いいんです。好きに使ってください。」
「それでお聞きしたいのですが、ダンジョンには詳しいですか?」
「ごめんなさい。あまりわからないわ。でも、ダンジョンに入るところは知っていますので、よろしければご案内しましょうか。」
「よろしくお願いします。」
「それでは、少ししたら、また来ますので、その後にご案内します。」
そう言って、カミルは外に出て行った。
さてと、カミルが持って来てくれた朝ごはんでも食べるか。
と思い、テーブルを見たら、ほとんど食べ物が無い。
ネ口がムシャムシャと食べていた。
「ネロ、お前、食いしん坊キャラ決定。」
「ごめんなさい。それだけはやめて。ユート君。」
「だったら、ちょっとは我慢しなさい。別にひもじい思いはさせてないだろ。」
「だって、最近、とてもお腹が空くんだもん。」
「でも、食いすぎると太るよ。わかった。ミラさ、ネロの食料を大量に買って調整して与えてくれ。」
「わかったわ。ユート。うふ。なんかネロ。ペットみたい。ち
ゃんとお座りしないとあげませんからね。」
「ミラの意地悪。」
ネロは複雑な顔をしている。
その横でサラは笑っている。




