ソロス城
「ミラ、ソロス領に入るには何か手続きは居るのか?」
俺は聞いた。
「領に入ること自体は、規制は無いみたいよ。ただ、ソロス城に入る時には、身分証の提示が必要みたい。」
「そっか。ライオネル城と変わらないようだな。」
「そうね。」
「それじゃあ、ミラが疲れてると思うので、今日は、宿屋に泊まって、明日、出発しようか。」
「賛成」
ネロが返事をした。
「ということは、一泊よね。」
ミラが俺に聞いて来た。
「そうだけど何か?」
俺はとぼけた。
なぜならば、ミラが高そうな宿屋を見て言っているからだ。
「じゃあ、あ~。あれに泊まりましょう。」
ミラが満面の笑みで俺を見た。
やはりそう来たか。
ネロもサラも俺を見ている。
「わかったよ。いいよ。あそこに泊まろう。ミラは馬の先導で大変だったから。」
「やった~。」
ミラはとてもうれしがっている。
サラとネロもちょっとうれしそうだ。
俺たちは、高そうな宿屋に入った。
外見はタイル張りで窓が張り出ていて、いかにも女性受けする建物だった。
中は、白いタイルの床で、壁もクリーム色で綺麗に塗られており、一番目を引くのは、ロビーに置かれているソファーとテーブルだ。
机の素材は何だろう、石かな。
薄い綺麗な白い石で出来ていて、机の脚は、金色に装飾されている。
椅子は、白を基調として蔓から花が咲いたデザインの絵が施されていていて、とてもエレガントだ。
「すご~い。」
ミラは椅子に触れて見ている。
「座っていいんじゃないの。」
俺は、ミラに促した。
恐る恐る、ミラはそのエレガントな椅子に座った。
「すご~い。これ。ふわふわしているわよ。ネロも座ってみなよ。」
「本当だ。すごいね。ミラ。こんな椅子初めてよ。」
「サラも座りなよ。」
ミラはサラにも進めている。
「私はいいわよ。いつも座っているから。」
「なによ。サラったら。お姫様みたいなことを言っちゃつてさ。」
ってミラは言っているが、サラはお姫様だ。たぶん。嫉妬だろう。
「すみません。当館にどのようなご用件でしょうか?」
ホテルマンぽい人が、ミラとネロに近づいて聞いている。
ミラが騒いだから、この宿屋に似つかわしくないと思ったのだろう。
「すみません。騷々しくて。」
サラが答えた。
「あなた様は、ひょっとして、エルフ族ですか。」
「ええ、私はエルフ族のサラと申します。
今日は、ここに泊めていただきたく、訪問いたしました。
こちらは、私の連れです。余りにもいい宿ですので、ちょっと興奮してしまって。申し訳ございません。」
「いえいえ、サラ様のお連れの方ですか。それなら問題ありません。どうぞお寛ぎください。」
そう言って、ホテルマンは俺たちから離れて行った。
「ミラが、子どもみたいにはしゃぐから、注意されたじゃん。恥ずかしい。」
「ごめんなさい。」
ミラは顔を真っ赤にして下を向いている。
ネロは、椅子に座って、寛いでいる。
「ミラ、受付してきて、恥ずかしいことはもうするなよ。」
「わかりました。もうしません。行ってきます。」
ミラは耳がまだ赤いまま受付で話をしている。
しばらくすると、ミラが俺の元に戻って来た。
「ユート、一泊2食で、一人、小金貨1枚だって。高すぎるよ。泊まるのやめよう。」
そんなことを言ってきた。
そりゃそうだろう俺たちは貧しい村の出だから。
でもな。
「ミラ、ここで帰ったらそれこそ笑われるぞ。それにサラも居るんだぞ。いいよ。泊まろう。」
「え、本当にいいの?」
「しょうがないだろ。もう帰れないよ。」
「ごめんなさい。」
ミラは、下を向いた。
「あははは~。気にするなよ。ミラ。いい経験になったろ。背伸びするってことは大変なんだよ。なあサラ。」
「私に振らないで、ミラちゃんが気の毒よ。」
ミラはしょんぼりしている。
「サラ、ミラについて行ってあげて。」
「はい。ミラちゃん行くわよ。」
そう言ってサラとミラは受付に行った。
「ネロ、どうだ。このソファーは?」
「私にはちょっと柔らかすぎるわね。腰に来るわ。」
お前はおばさんか。
「そうか。ネロには合わなかったか。」
「ちょっとユート君。手を貸して」
そう言って俺の手をとり、
「よっこらしょ。」
と言って、ネロは立ち上がった。
完全におばさんだ。
次の日の朝、俺たちは、エスカルゴの町を出て、ダンジョンがあるソロス城に向かった。
遠くの方に城が見えてきた。
「ソロス城はライオネル城より立派ね。」
ミラが呟いている。
俺たちは、城の近くで馬から降りた。
「やっぱり、ダンジョンを公開しているから、賑わっているのか?」
「そうよ。ユーちゃん。ダンジョンの宝箱を目当てに、一攫千金を狙って世界中の人が集まっているのよ。」
「ユート、あれ見て。お城に入るためにすごい並んでいるわよ。」
「ほんとだ。ここもか。サラ、すぐに入れる方法は無いか。
さすがに長旅で疲れたよ。これじゃあ、あと半日は城下町に入れそうにないな。」
「ユーちゃん。さすがに私でも、ソロス城のことは解らないわ。」
「そうか。それじゃあ、とりあえず並んでて。
俺がちょっと、先頭の様子を見てくる。
案外、ライオネル城の剣とか、ギルドカードが役に立つかも。
ミラ、俺のギルドカードを。」
「わかったわ。はい。」
俺はギルドカードを受取って列の先頭を目指した。
ほんとにすごい行列だ。
しかも、ガラの悪そうな奴らが多い。
お、何人か強そうな奴がいるみたいだ。
ダンジョン目当ての冒険者やその冒険者を目当てに商売をする商人風の人などいろんな人がいる。
ん。あいつは。
洋服から見える手が、尋常じゃないほど毛深いぞ。
もしかしたら、獣人か。
俺がヴァンパイアだから、獣人がいてもおかしくは無い。
しかも身長が結構高い。
ただ、後ろ姿だから顔は解らない。
俺は、その獣人らしき人を気にしながら先頭を目指し歩いた。
はぁ~。
ただの毛深い男じゃんか。
期待して損したぜ。
などと思いながら、やっと検問が見えた。
たぶん、100メートル以上は並んでいるな。
しかもなかなか進んでいない。
これじゃ、城下町に入るのに夜になっちやうよ。
と考えながら、大きな門と小さな門があり、この列は大きな門に向かっている。
たぶん、一般人は、大きな門から入るんだな。
小さい門の入り口にも兵士が数名いる。
俺はそっちに向かった。
「あのぅ」
「何だ!」
一人の兵士がちょっと怖い声で反応してくれた。
「城下町に入りたいのですが?」
「あの列の後ろに並べ。順番だ。」
「これじゃだめですか?」
そう言うてギルドカードを見せた。
「ん、お前は、貴族のお抱えの者か?」
「いや、違います。どこにも属してはおりません。」
「それではだめだ。ここを通れるのはSランクからだ。」
「じゃあ、これではどうですか。」
「うるさいやつだな早く並べ」
と、適当にあしらわれそうになったが、俺がライオネルの王子から貰った銀の剣を兵士が確認すると、
「おお、その剣はライオネル領の貴族の証し。失礼いたしました。どうぞお通りください。」
そう言って兵士は小さい門へと俺を促した。
「すみません。仲間が3人ほどいるんですが、連れて来ても大丈夫ですか?」
「ええ、貴方様のお仲間と証明できれば。」
「あ、この剣はみんな持っています。」
「それがあれば問題ありません。どうぞご一緒にお入りください。」
そう言われたので、俺はみんなの元に走って戻った。
「やったぞ。みんな。すぐに入れるよ。」
そう言って剣を見せた。
「その剣を見せたということは、その剣があれば、すぐに入れるって事?」
ミラが聞いて来た。
「そうみたい。これはライオネル領の貴族の証しみたいだぞ。」
「やっぱり。私たちは、ライオネル王に嵌められたかもね。」
サラがライオネル王の思惑を察した発言をした。
「たぶんね。でもいいよ。俺とミラはライオネル領の出身だし。」
「たぶん私も。」
ネロも賛同している。
「じゃあ、行きますか。」
そうして俺たちは、小さい門をめざし歩き出した。
「あの~。どうかこの子を修道院に連れて行っていください。死にそうなんです。」
とすごい形相で俺たちの前に子供を抱えたお母さんが俺たちに助けを求めて列から出て来た。
「ごめん。無理です。」
俺がそう言うと、母親は、残念そうに列に戻って行った。
「横入りするな!」
列の男が叫んだ。
親子がいた場所は、列が詰められていて、入れなくなっていた。
「ちょっと、ミラ、あの親子を連れて来て。」
「え、ユート、連れて行くの?」
「いいから。」
ミラは子供を抱いて座り込んでいる母親をこちらに連れてきた。
俺は、母親から子供を預かった。
「ネロ、サラ。周りから見えないようにして。」
俺と子供を中心に、列から見えないように、壁を作らせた。
俺は子供のおでこに手を当て、ヒールを唱えた。
すると子供は苦しみから解放され、すやすやと眠りについた。
「おかあさん。子どもは大丈夫だから。このことは内緒にしておいてね。」
とミラが母親だけに聞こえるように耳のそばで言った。
「???」
母親は何を言われているか解らない様子だったが俺が子供を返すと、その子供の顔を見て、治ったとわかったのか、母親の顔は笑顔になった。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
そう何度も、母親に頭を下げられた。
「気にしないで、たまたま薬があっただけだから。いろいろ大変な世の中だけど頑張ってね。」
そうミラが言って母親から別れ、俺たちは、先頭目指して歩き出した。
女性陣がやけに俺にくっ付いて来る。
「なんだよ。」
と俺がいうと
「別に」
って3人でハモッて二ヤけている。
「たっく~。行くぞ。」
俺たちは、門で剣を見せて、無事ソロス城に入った。




