ミラとハクの話
ミラとハクはドラン村のテントに戻ってから、心の中で会話をしていた。
「ハク、さっきのはどういう事?」
「ミラちゃん。このことはみんなに内緒にしてほしいです。もちろん主も。」
「それはいいけど、ちゃんと説明してよね。」
「詳しいことは話せないんだ。でも、ミラちゃんが見てのとおりだよ。」
「見ての通りって、ユートに羽が生えたし、目も赤かった。それにあの紫の煙は?」
「う~ん。ミラちゃん。僕の口からは説明できないよ。主の許可がいるし。
でも、ミラちゃんがこのことを主に話したら、主はどの様に思うか解らないし。心配だね。」
「そうね。ユートは捨て子だったから、秘密がありそうね。
今はユートを信じるしかなさそうね。」
「ミラちゃん。主は、人間の味方だよ。どんな姿になっても絶対だよ。それは信用して。」
「うん。そんなことは解っているわ。」
「そのうち、主からみんなに話すと思うよ。
それに、今の旅は、自分の出生の秘密を探す旅でもあるしね。
あっ、でも、今回の件で、少し旅の方向性が変わるかもしれないよ。」
「なに? どういうこと?」
「だって、今回の戦いで、僕たちは魔族に勝てないと確信してしまったからね。」
「そうね。もっと強くならないといけないわね。」
「そう。だから、これからは修業の旅になると思うんだ。」
「そっか~。でもその辺はユートにお任せね。
それでさ、ハク。
私とこうして心の中で話しているでしょ。ネロとサラとも出来るの?」
「できないよ。なぜだか、ミラちゃんとは、心の中で話せるんだよね。」
「そうなの?私だけなの?」
「ミラちゃんだけです。」
「ちょっと不思議ね。どうしてだろう。」
「僕も解らないんだ。でもそのこともこれから明らかになって行くと思うよ。」
「そうね。ちょっとユートの秘密が解ってよかったわ。
私しか知らないユートの秘密、ネロとサラには一歩リードね。」
「そうだ。僕は、修業の旅に出ようと思っているんだ。これから主には話したいと思うけど。
たぶん近い将来、絶対に魔族と戦うことになると感じるよ。
だから僕は、主やミラちゃんやネロちゃんやサラちゃんを守れるぐらい強くなる。」
「何が強くなる当てはあるの?」
「実は、エルフの洞窟にいた、ホワイトウルフは僕のお母さんなんだ。」
「え、うそ!信じられない。」
「みんなには黙っていたけど、あの時初めて会って解ったんだ。」
「そうなの?生まれてから今までどうやって生きて来たの?」
「もの心着いた時には、赤オーガが居る森に居たんだ。」
「そうだったんだ。」
「ずーと、一人だったんだ。でも、ある日、ネロちゃんが現れて、攻撃されたから、やり返そうとしたら逃げたから、着いて行ったら、そこには、魔物の赤オーガとサラちゃんが一緒になって、僕を倒そうとしていて。
魔物と人間が一緒になって戦うのって珍しいな。と思って、どれくらい強いんだろうと、すごく興味が湧いたところに、主が現れて、全然歯が立たなかったよ。」
「そうだったんだ。ハクも魔物と一緒で、釣られたんだね。」
「そうなの。それで僕は、主に生かされ、この人たちと一緒に居たいと思って、サラちゃんに伝えて、下僕になりたいと言ったんだ。」
「ということは、サラとは話せるのね。」
「ん、サラちゃんとはエルフの特性により魔物と意思の疎通ができるということで、サラちゃんとは別の意味で話せるということだね。」
「そっか。サラの特性と私のとは違うのか。」
「そうなの。それでね。あの時まで親のことは知らなかったんだ。だから、お母さんがあれだけ強いということは、強くなる方法を知っているんじゃかと思ってね。だから僕はエルフの洞窟に戻るね。」
「え~、ちょっとさびしくなるわね。でも、仕方がないか。私たちも強くならないといけないし。」
「うん。ミラちゃんごめんね。こうやって話せるようになったけど、すぐにお別れなんて。でも、強くなったら戻ってくるか
にまた一緒に冒険してね。」
「うん。わかった。お別れじゃないけど。今までありがとう。
次に合う時は、私もハクに負けないように強くなっているからね。」
次の日、俺たちはドランの村長に挨拶をした。
「ユート殿、もうあの泣き声は聞こえてきません。本当にありがとうございます。」
「いえいえ、良かったですね。」
「もう立たれるのですか?もう少しゆっくりして行けばよろしいのに。」
「ありがとうございます。ゆっくりして行きたいのはやまやまですが、急きの用事が出来まして、すみません。」
「そうですか。それでは、 また遊びに来てくださいね。歓迎しますから。」
「ユートお兄ちゃん。また、遊びに来てね。約束だよ。」
ミケが俺の前に出て、下から俺の顔を見ている。
「もちろんだよ。必ず来るよ。」
俺は、ミケの頭を撫でた。
「それでは、これで。」
そう言って俺たちは馬に跨いだ。
「また、来てくださいね~。」
村人総出で送り出してくれた。
「ドランの村の人たちは本当にいい人たちだね。」
ミラの言葉にネロもサラも頷いている。
そうして俺たちはドランの村を後にした。
数日後、俺たちはライオネル城に戻って、冒険者ギルドに行った。
「みなさん。お疲れ様です。報告は届いておりますわよ。」
そう言って、ギルドの受付のお姉さんが迎えてくれた。
いつもそうなんだが、依頼主からギルドへの報告が速い。
今回は、結構速く馬を走らせて帰って来たのに、俺たちより報告が速いってどういう事だ。
このことは、この世界での不思議なことの一つだ。
「魔物の泣き声の正体は何だったんですか?」
ギルドのお姉さんが聞いて来た。
「俺たちもはっきりわからないんですよ。姿を見た時には、逃げる瞬間で。あっという間に飛んで行ってしまいました。なぁ、サラ。」
「ええ、よく解りませんでしたわ。」
サラが話を合わせてくれた。
なぜ、サラに振ったかというと、サラの意見がここでは一番影響力があるからだ。
「そうなんですか。わかりました。これは報酬になります。」
俺たちは、報酬を受取り、冒険者ギルドを後にした。
今は、喫茶店に来ている。
ネロはアイス、サラとミラはプリンを食べている。
俺はパンケーキみたいのを食べている。
なぜなら、この世界にも、今日ははちみつみたいなものがあるからだ。
前世を思い出させてくれる一品だ。
「ちょっと なにそれユート君?」
「これ、パンケーキだよ。」
「そんなこと聞いてないわよ。
どうしていつも私が知らない食べ物を食べているのよ?」
「そんなこと言われたって。メニューに書いてあったじゃん。」
「見てないわよ。そんなの。」
「あっれ~。ミラ、サラ。書いてあったよね。」
「うんうん」
ミラとサラは大きく頷く。
「なによ。もう。
私が字が苦手だからってユート君の意地悪。」
「あははは~。って。そうだ。たしか、ダンジョンを解放している国があるって言っていたよな。ミラ。」
「そうそう、商業ギルドの店長がソロス城にあるって言っていたわ。」
「俺たちもっと修業をしなくちゃいけないと思うんだ。」
「そうね。」
サラも賛同してくれる。
「だから俺の出生の秘密旅は、後にして、ダンジョンに潜りたいと思うけど、みんなはどうかな。」
「私は賛成。」
ネロは賛成だ。
「もちろん。私もよ。」
ミラもだ。
「私はユーちゃんについて行く。」
サラもだ。
「よし。それじゃあ、次の目的地は、ソロス城ね。」
「お~」
女性陣3人は小さく拳をあげた。
「あ、そうそう、ハクなんだけどね。ライオネル城に入る時に、俺に甘噛みをしたと思ったら、森の方に走り出しちやって、今は、行方不明。
たぶんなんだけど、あの戦いで全然力が及ばなかったから、ショックだったみたいだよ。だから、修業に行ったみたい。」
「え~、ハクに会えないの? 一緒に修業すればよかったのに。」
サラが残念そうに言った。
「いろいろ思うところがあるのよ。きっと」
ミラが意味深な事を言った。
ん、ミラが、ハクの気持ちがあたかも解るようなことを言っているがどうしてだ。
ちょっと疑問に思った。
「サラ。私たちも、ハクに面倒を見られっ放しはだめよ。私たちがハクを守ってあげるくらい強くならないと。」
ネロは珍しくいいことを言っている。
「そうね。ハクが戻って来た時に、胸を張って迎い入れるようにならないといけないわね。」
サラは答えた。
「善は急げっていう事で、食料を買い込んで、国境の村を目指そう。」
そう言って俺たちは喫茶店を出た。
旅の準備として、食料を買っている時、
「エレナはどうするの?」
とサラが聞いて来た。
「あ、忘れてた。どうしよう。」
俺は、おでこに手を当てた。
「やっぱり。そうだと思った。」
ネロも俺を馬鹿にしている。
「どうしようか。エレナ組と先に行く組と、また、二手に分かれるか。」
「嫌です。」
ミラがちょっと強めに言っている。
何だ、ミラが嫌ってどういう事だ。
俺が、首を傾げていると、
「なんか、公平じゃないし、ユートと2人きりだと逆にネロとサラに気を使うし。」
なんだそういう事か。
ネロもサラも頷いている。
「じゃあ、どうするか。エレナのことはもう少しほっとこうか。」
「いいんじゃない。安全は確保されたし。」
ネロはエレナが安全になったので扱いが適当になった。
「私もそう思うわ。エレナは故郷に送る必要があるし、それをやっていると時間が掛かり過ぎるわ。」
サラも賛成の様だ。
「ミラはどう思う。」
「私も、仕方がないと思うわ。魔族がいつ襲ってくるか解らないけど、私たちも早く強くならないと間に合わないかもしれないし。」
「そうだよな。明日、魔族が襲ってくるかもしれないしな。実際、魔族が襲ってくるのは、何時かは解らないけど、それに向けて出来ることはやった方がいいな。
よし、エレナには悪いけど、そのままにしておこう。」
そう言って俺たちは次の旅の準備をするのでした。




