ネロと馬
今は、牧場にいる。
本当は商業ギルドで商売の交渉をしようかと思って行ったんだけど店長は不在だった。
だから明日、時間を取ってもらう約束をして、牧場に来ている。
旅をするに当たり、ネロとサラの馬を買うためだ。
「ネロとサラは、馬に乗れるの?」
「ユーちゃん。私は乗れるわよ。よく、パレードにも参加していたし。」
サラはお姫様として馬に跨っていたのであろう。
「あれ、ネロはどうしたの?」
なんかネロはもじもじしている。
「ひょっとして、ネロは馬に乗れないの?」
ミラがすかさず聞いている。
「怖い・・・」
「なんかあったの?ネロ。」
「小さい時に腕を馬に噛まれて。それ以来、馬は怖いの。」
トラウマか。
この先、ネロは一緒に旅が出来るのか。
「大丈夫よ。ネロ。馬は優しいわよ。」
ミラが説得している。
「そんなこと言ったって。」
「何よ。魔物には強いくせに、だらしないわね。」
ミラが発破をかけている。
「そんなこと言ったって。」
だめだ、完全に拒否っている。
さて、どうすっかな。
「ネロさ、馬に乗れないと一緒に旅ができないよ。」
俺は、説得した。
「大丈夫。私は走るわ。」
「その大きな剣を背負って?」
「問題ないわ。」
そりゃ~ネロなら馬より早いだろ。
でもさ、3人が馬で、一人だけ走って付いて来て、普通に馬に乗っている俺たちと会話をしたところを、他の人が見たら怖いだろ。
「無理無理。そういう問題じゃないから。ミラ、ネロに教えて上げて。」
「わかった。大丈夫よ。ネロ。」
「ちょっとぉ、ユート君は馬に乗れるの?」
ネロは俺が馬に乗れないと思っている。
「乗れるよ。シル~。」
シルは俺の方に走って来た。
俺は、鞍が無いシルに跨って、牧場を走った。
「ユーちゃん上手ね。」
サラが感心している。
「そうよ。私が教えたんだから。」
ミラが自慢している。
「大丈夫よ。ネロ。すぐにユートみたいになれるわよ。運動神経もいいんだから。」
ミラが勇気づけているが、ネロは俺の走る姿を見て、顔を下に背けた。
「ポチ~」
ミラが呼ぶとポチがやって来た。
間違えるといけないので何回も言うけど、ポチは犬では無く、馬ですからね。
って誰に言っているのやら。
「ネロ。この子、ポチって言うの。絶対に噛まないから触ってみて。」
「ほんとに噛まない?」
「ええ、絶対に噛まないから。」
ネロは恐る恐るポチに手を伸ばした。
ポチはじっとしてネロの手を受け入れた。
ネロはちょっと笑ったようだ。
「ポチ、大人しい子を連れて来て。」
ミラはポチに指示を出した。
するとポチは、馬たちがいる方に走って行った。
「なあ、ミラ、ポチが大人しい馬を連れて来るのか?」
「そうよ。当たり前じゃない。
私じゃ解らないわよ。どの馬が大人しいなんて。」
「そういうものなのか?」
「そういうものよ。」
簡単にミラに言われてしまった。
「ネロ、来たわよ。この馬大人しいから、初心者のネロでも大丈夫よ。」
「で、どうすればいいの?」
「まずは、スキンシップね。そこにあるニンジンをあげて。」
ネロはニンジンを手に持ち馬にあげた。
馬はもぐもぐとネロの手から食べている。
馬の口がネロの手に届きそうになった時、ネロはニンジンを放した。
「大丈夫よ。ネロ。噛まないから。もう一度やってみて。」
ネロはどうやらもう一度、挑戦するようだ。
「あ、ほんとに噛まれない。かわいい。」
あれ、ネロの態度が変わった。
「あれ、どうしたのネロ?」
俺はネロの変わり様に聞かずにはいられなかった。
「ちょっと馬に乗りたいっていう憧れはあったの。でも、小さい時に噛よれて、怖くなって、馬には近づかないようにしていたわ。
でも触ってみて、噛まないと解ったからもう怖くないわ。」
「そうか良かったね。ネロ。後は、ミラと馬に乗る練習をしてね。」
「ええ。心配をかけてごめんね。ユート君。」
「いいよ。別に。後はミラお願いね。」
「了解しました。」
ミラは頷いた。
「そうだ、サラ言ってみな。私と一緒に行きたい人って。」
「バカ、ユート。シルが来たから言っているでしょ。普通は来ないわよ。」
ミラにバカ呼ばわりされた。
「私と一緒に来たい人~。」
サラが叫んだ。
すると牧場の馬の耳が一斉にびくびくすると、ポチ以外の馬がサラに寄って来た。
寄りによってシルまで。
「ちょっとサラすごいわね。全部の馬が来るなんて。おまけにシルまでクスクスクス。」
ミラは俺を見て笑っている。
シルはまずいと思ったのか、ポチの方に走って逃げて行った。
大丈夫だ。シルは他の馬に合せただけだ。
絶対に俺よりサラが良いなんて思っていない。そう考えよう。
「ふふ。エルフは特性があるから。動物に人気なの。」
サラは俺に向けてVサインを出した。
俺とサラは椅子に座ってネロたちの様子を見ている。
2時間ぐらいでだいぶ様になって来た。
「ユート君、見て~、乗れるようになったわよ~。」
ネロは馬に乗れてはしゃいでいる。
俺はネロに手を振った。
「ユーちゃん。この後はどうするの?」
「ん、この後?」
「そう。冒険。どこに行の?」
「ああ、ソロス領に行きたいと思っている。」
「ソロス領は私、行ったことが無いわ。」
「そうなんだ。それじゃ楽しみだね。まさに冒険って感じがするね。」
「そうね。楽しみね。それでユーちゃん私のお父さんから私についてなんか聞いていない?」
「なにを?」
「私の出生の秘密。」
あ、きったね~。サラの父ちゃん。ばらしたな。
しかも俺の口から言わせようなんて。
「特に何も聞いていないけど。」
俺は、面倒くさいのでしらばっくれた。
「そうなの?」
「うん。」
「そっか~それらしいこと言っていたのになぁ。ごめんね。ユーちゃん。変なことを聞いて。忘れてね。」
「うん。」
「ユート。もうそろそろいいんじゃない。ネロは十分に乗れるようになったわよ。」
ミラが大声で言った。
「そうだな。もうそろそろ日も落ちそうだし、購入の手続をして、宿屋にもどろう。」
「はい。ネロ。もう終わり。帰るよ。」
ミラはネロに言った。
「わかったわ。」
「じゃあ、ミラ。購入の手続お願い。」
「はい。」
とりあえず、人数分の馬は揃った。




