報告会
今回はちょっと長めです。
俺たちは、ハンバーグ屋に行く前にハクを森に返した。
騒ぎが大きくなるのを懸念して。
ハクも納得してくれたみたいだ。
今は、ハンバーグを食べ終えて、4人でお腹をさすっている。
「そう言えばさ、このネックレスはどこで買ったの?ライオネル城の中?」
ネロがお腹をさすりながら聞いて来た。
「それは、ドワーフの村で買ったんだよ。気に入ってくれた?」
「うん。気に入っているけど、 どうしてドワーフの村に行ったの?」
「ネロたちと別れた後、この前のダンジョンで手に入れた魔鉄で、ミラの武器を作ろうと思ったんだけど。
ミラが、剣では、ネロやサラに勝てないから、違う武器にするって言って、ドワーフ村に行ったんだ。」
と俺は簡単に説明した。
「よく解らないわよ。ユーちゃん。」
サラが優しい声で指摘した。
「商業ギルドでとりあえず、鋼の槍を買ったんだけど、試し切りがしたくて。
ネロとサラが帰ってくるまでに時間があったから、その時間を利用して、冒険者ギルドで雪男の討伐クエストを受けたの。」
とミラが補足した。
「ちょっと、聞きたいことが3つになりましたわ。」
とサラが肘をテーブルに立てて、手の上に顎をのせて話した。
「えぇっと、とりあえず。ユート君とミラの間で何かあったの?」
ネロはどうしても、俺とミラのことが心配らしい。
「特に何もないよ。」
「そうよ。何もないわよ。」
俺とミラは否定した。
「だったらいいけど。」
ネロはちょっと不満みたいだ。
「そのことも気になるけど、ユーちゃんを信用するね。
それで、雪男の討伐って?」
「なんか、ライオネル城とドワーフ村と工ルフ村の国境を結ぶ道に雪男が大量に出現して危ないから、討伐して数を減らしてくれって依頼。」
「雪男は強かったの?」
ネロが聞いて来た。
「そんなには強く無かったよ。ミラが無双してたよ。槍で。なミラ。」
「雪男は問題なかったけど。」
そう言って俺に目線をよこした。
俺は、両手でネロとサラを呼んでテーブルの中央に顔を突き出した。
ネロとサラとミラも顔を俺に近づけてくる。
「実はホワイトオーガがいたんだよ。」
俺は、他の客に聞こえないように小声で話した。
「えっ。」
ネロとサラは信じられないといった表情で俺を見ている。
「本当なの?ミラ。」
俺が言った言葉が信じられないのか、もう一度サラはミラに聞いた。
「本当よ。私じゃ全然敵わなかったけど。」
「ユート君が倒したの?」
ネロが俺に聞いて来る。
「逃がした。」
俺の回答に
「え、それってまずくない?」
今度はサラが聞いてくる。
「しょうがないじゃん。逃げられたんだから。」
「ユート君でも敵わなかったの?」
「今だったら問題ないけどあのときは、全然攻撃が通らなくて。
ホワイトだけに氷の魔法が得意で、体の表面に薄くて硬い氷の膜が張られていて、普通の武器じゃ、かすり傷一つも与えられなくて。これを見て。」
俺は王様から貰った、折れている紋章付の鋼の剣を見せた。
女性3人も普通の姿勢に戻った。
「氷だからミラとの相性も悪くてね。俺は、ネロがやったように剣に魔力を通して、剣を熱くて腕を切り付けたら、腕に傷を付けることが出来た。
だから今度は腹を切り付けてやったが、なんとか少し傷を付けることは出来たんだけど、剣がもたなくてさ。この通りだ。それで、ちょっと目を離した隙に、いなくなっていた。」
「ええ、ものすごい速さで逃げて行ったわよ。」
ミラが補足した。
「大丈夫なの。ユーちゃん?逃がしちゃって? ホワイトって言えば、昔、一つの村が襲われて全滅したっていう大雪男の恐怖の伝説があって、その魔物がホワイトって、噂があるわよ。」
「私も知っているわ。雪が多い地方で大雪の時に現れて人を襲
うってことで、恐れられているわ。」
ネロも付け足した。
「そうなの?そんな伝説は知らないけど。でも、特に手負いって訳でもないし、逃げて行ったから、しばらくは大人しくしていると思うけど。でも冒険者ギルドには報告したいとは思っているけど。」
「その方がいいわね。それで、ドワーフの村で何をしていたの?」
「たまたま、ドワーフ村の村長の娘さんが、雪男に囚われていて、助けたんだよ。」
「それってキキ姫?
大丈夫だったの?!」
ちょっとサラは心配しているようだった。
「そうだけど。サラの知り合い?」
「ええ、エルフ族とドワーフ族は仲が悪いんだけど、ライオネル城で昔たまたま出会って。私、エルフでも少し違うでしょ。
そんな話をしていたら意気投合しちゃって。友達なの。それで、キキ姫に怪我は無かったの?」
「それが、もう酷くて、なぁミラ。」
「そうなの。説明できないぐらい酷くて、あと少し私たちが遅れたら死んでいたわ。」
「でも、問題ないぞ。サラ。今はピンピンしている。でもその
時の記憶はキキ姫には無いけど。」
「記憶が無いぐらい酷かったんだ。でもありがとう。ユーちゃん。」
「特にお礼を われることもないよ。たまたまだし。」
「いいの。私のたった一人の友達だから。助けてくれてありがとう。」
「ねぇねぇ~。ミラの武器は、それでどうしたの?」
ネロが話を変えた。
「見て、見て。みんな。じゃ~ん。」
ミラが魔法袋から、槍を出した。それは、全てが銀に輝くグランの槍だ。
「すご~い。綺麗な槍だね。しかもなんか花のような柄が付いているの? なにこれ。かわいい~。」
サラが、珍しく興味津々だ。
「これはね、ドワーフ村で一番の鍛冶師、グランじいに、この前の魔石を使って作ってもらったの。
細部までこだわった一品よ。」
「ミラ、いい物作って貰ったわね。羨ましいわ。」
オーダーメイドの武器に羨ましくなっているネロ。
「あ、そうそう。それで、助けたお礼にってもらったんだけど、ネロ。この剣、どう思う?」
そう言って、おれは、魔法袋からドワーフ村から貰った大きい両手剣、グランの剣を見せた。
ネロの目が輝いた。
「それ、ほしい。」
「たぶんそう言うと思ったよ。背中に担いだら、カッコイイよな。ネロ。」
「え、使っていいの?
でも、この剣は?」
そう言ってネロは、腰の魔法剣を触った。
「いいよ。それは、サラに使わすよ。なんかその魔法剣って、昔、ドワーフ族とエルフ族の友好の証しなんだって。
だから、さっきのキキ姫との話もあるし、ちょうどいいじゃん。」
「え、私が使っていいの?
ユーちゃんは?
さっきの剣、折れてたでしょ。」
「俺は、量産品の鋼の剣でいいよ。このPTでは、なんか俺、回復役兼魔法使い役でいいかなと思っているし。」
「え~、私たちのPTで一番強いのに?」
ネロは納得していないみたいだ。
「いいの。いいの。とりあえず剣は君たちに任せる。俺は、冒険の途中でいい剣があったら購入するから。
それにいろいろな剣も使ってみたいし。」
「ユーちゃんがそう言うなら、私が魔法剣を使わせてもらうわ、ドワーフとの友好の証しとして。」
「そうだね。それがいいよ。きっと」
「でもさ、私たちだけがいろいろ、装備を良くして貰ったけどユート君の装備はいいの?」
ネロが俺のことを心配してくれている。
「これ見て。」
俺は、小手の宝石をかるく触り、外した。
「ネロ。付けて見て。」
「え、私には大きくて無理よ。」
「いいから、いいから。」
ネロはしぶしぶ小手に腕を通した。すると小手が少し光ったと思うとネロの腕に吸い付いてピッタリと装着した。
「え、なにこれ。気持ち悪い。」
「ははは~そう来たか、ネロ。
これは、装備をする者に合せて形を変形する魔法の小手だ。どうだ。すごいだろう?」
ネロは、まだ不思議そうに小手を見ている
「ユーちゃん。私も聞いたことがあるわ。使用者に合せて大きさを変更する装備があるって。
確か、ドワーフの専売特許よね。しかも超高級品。
私も今まで生きて来て初め見るわ。」
サラはちゃんとリアクションを取ってくれる。
うれしい。
「この小手を貰うから、別に俺の装備は気にしなくてもいいよ。ネロ。取り外すときはその甲の宝石を触ってはずれろって念じて。」
ネロは小手を外して俺に返却した。
「ユーちゃんは何か、どんどんすごいことになっているわね。
それで、このネックレスはいくらで購入したの?」
「小銀貨1枚。」
「やすっ!」
サラは驚いている。
「ごめん。俺がネロやサラのお土産代をケチったからだよね。
ごめんね。
これからはもっと高いのを買ってくるね。」
「ユーちゃん。ちがうわよ~。そんなこと言っている訳じゃないの。余りにもこの石に対して、この金額はありえないと思って。」
「わかっているよ、サラ。冗談だよ。サラもこの石、今までに見たことない?」
「無いわ。こんな綺麗な石。ネロは見たことある?」
「私は見たことがあるわ。そのミラがしている赤い石は、お母さんが大事そうに持っていたわ。」
「へ~そうなんだ。これさぁ、上手くやったら金儲けできると思わない?」
俺はそう言って、魔法の袋から、商業ギルドの交渉用として買った3つの石を出した。
「なにこれ。大きくて綺麗。」
ネロは手に取って見ている。
「後でこれを、商業ギルドに持っていって交渉をしようかと思って。みんな付き合ってね。」
「は~い。」
取り合えず、俺とミラの報告は終わった。
他のテーブルの人たちは、俺たちを不思議そうに見ている。
どこからともなく、槍は出るし、剣も出るし。
ポワーと小手を装備する時に光るし。
綺麗な石ころは出てくるし。
しかも声が大きくてうるさいし。
でも、報告会の第一部が終わって、一息を付くために店員を呼んで、果実酒を頼んだ。
その時周りを見回したら、俺たちと目を合わせたくが無いのか、普通の雰囲気に戻った。
「で、そっちは、問題なかったのか。」
俺がネロとサラに聞いた、
「全然、問題なかったわ。ちょっとエレナが怖がっていたけど。オーガの女の子がいたから安心したみたい。」
ネロが説明をした。
「そう言えばさ、サラ。これ、なんで言ってくれなかったんだよ。ビックリしたろ。」
とエルフ村から貰った小袋を出した。
「え、なんで?」
「だってな。この実一つが白金貨以上するって。なぁミラ。」
「そうよ。エリクサーなんて聞いていないわよ。」
と俺とミラで言ってやったが、当の本人のサラは、魂が抜けているようだ。
「ちょっと、どうしたのよ。サラ。何であなたの魂が、どっか行ってるのよ?」
「だって、あまりにもビックリしちやって。値段が高いとは知っていたけど、せいぜい大銀貨5枚ぐらいだと思っていたわ。
エルフの森の深いところにその実はあって、私も病気の時に飲んでいたから。それが、白金貨以上だって信じられない。」
「それにこれ、白金貨10枚だって。」
俺は緑の魔石を出して、更に追い打ちをかけた。
「ひえ~ 10白金貨。もう知らな~い。」
バタン。
サラは、テーブルの上で塞ぎ込んでしまった。
そんなやり取りを聞いているネロは
「ユート君、お金持ち~」
とつぶやくのでした。




