ドワーフ村の特産品
「これは、ドワーフ村の特産品だ。」
そう言って村長は、長さが2mの箱を開けた。
するとそこには、薄らと緑色に光る太めの両手剣が入っていた。
「ん。この光はどこかで見たことがあるな。なぁミラ。」
「そうね。あ、エルフの村でネロがもらった剣じゃない?」
「あっそうだ。あれも、最初は緑に光っていた。」
「ん。エルフの村でこれと同じような剣を見たと。」
「ええ。」
「古い言い伝えでは、その昔、ドワーフ族とエルフ族の仲が良かった時代に、その証しとして、先代のドワーフがエルフ族に剣を送ったという言い伝えがあるのじゃ。」
「たしかその剣は、一番の古株のエルフから貰ったんだけど。」
「だぶん、それが、先代からの友好の証しじゃ。」
「そんなエルフとドワーフの友好の証しみたいな、大切なものをネロが貰ちゃったけどいいのかな?」
ミラが心配している。
「ミラ殿 心配なさるな。遠い昔のことじゃ。
しかも、キキ姫を救っていただいたお方のお仲間が持っているなんて、ドワーフの先代もきっと喜ばれているじゃろうて。」
「そうですか。それなら良かったです。」
ミラは安心した。
「では、この剣の特性もご存じですね。」
「ええ、魔鉄で出来ていて、魔力を通す剣ですね。」
「さすがユート殿、よく御存じで。それでは、こちらはいかがですか?」
そう言って、もう一つの箱から小手を出した。
「ん、これは小手ですね。」
「そうです。これは、小手です。どうぞ装着してみてください。」
「え、でもこれ、私には大きいようですが、ブカブカで、装備できませんよ。」
「いいから、小手を手に通してくだされ。」
村長に言われたので、しぶしぶ俺の腕には合わない小手に手を通した。
するとその小手は、少し光ると俺の腕に吸い付くようにぴったり装着した。
「え、なんだ、これは。」
「ビックリしたでしょう。これは、魔法の装備です。どういう仕組みかは教えられませんが、装備をする人に合せて大きさが変形します。」
「ここにある石は?」
ちょうど手の甲の位置に石がはめられていた。
「これは、魔石です。魔石と魔鉄は相性が良く、その魔石が使用者に合せるように制御しているのじゃ。」
「へ~。すごいですね。冒険者としては、喉から手が出るほどほしいものですね。」
「そうじゃろ、耐久性や防御力も申し分ない。だが、これを販売するには、ライオネル王の許可が必要になるのじゃ。」
「え、ライオネル王の許可ですか?」
「そうじゃ。この装備が他国に流れたら、それこそ戦力の均衡が崩れてしまうからの~。
だから今は、ドワーフ村とライオネル城は協定を結んで、装備を勝手に売らない代わりに、資金の援助や困った時には、ライオネル城に特使を送って、問題の解決をしていただくのじゃ。」
「ということは、お譲りいただくことは出来そうにないですね。」
俺は残念そうに答えた。
「もちろん、一般の人が来て、欲しいから売ってくれと来ても断るのじゃが、キキ姫を救っていただいた方のお願いを断るわけにもいかんじゃのう。」
「ですが、ライオネル王との協定は?」
「もちろん協定はある。だが、あくまでも協定では、販売をしてはいけないとなっている。だから譲ることは問題が無い。ユート殿、キキ姫を救っていただいたお礼にこれを受取ってくださいませ。」
「え、もらえませんよ。そんな貴重な物。」
「いやいや、そこまで貴重ではござらん。なぜならば、そこのグランじいが作ったものだからのう。
魔石と魔鉄さえあれば、いくらでも作れるのじゃ。それに、キキ姫を救ってくれたってことは、グランじいも救ってくれたってことじゃろ。」
「そうだべ~。結果としては、私も救っていただいたべ~。だからユート殿には貰っていただきたいべ~。」
ここでまた断って押し問答になるのも嫌なので
「ありがとうございます。使わせていただきます。」
「その剣はグランの剣だべ~。わしの名前から取ったべ~」
マジか。なんか弱そうだな。
「なんか弱そうと今、思ったべ~。これはわしが丹精込めて作った剣だべ~。切れ味は折り紙つきだべ~。」
「わかりました。ありがとうございます。この小手も貰っていいのですか。」
「ああ、それも使ってくれ。」
「ありがとうございます。」
そんな話をしていると羨ましそうにミラが剣を見ている。
その様子を察してか村長が、
「そうじゃな、ミラ殿にも何か差し上げないとな。」
「いえいえ、私は。」
ミラは遠慮をしている。
「う~ん。なにかいいものがあるか。グランじい?」
「ミラ殿の得意な武器は何だべ~」
「私は槍を極めたいと思っているわ。」
「そうだベ。雪男30匹をミラ殿が槍で一人で倒していたべ。」
「へっ、そうなのか。」
村長はかなりビックリしている。
「ええ。その時に鋼の槍は折れてしまったわ。」
「あ~でも、今、槍はないベ。それに、材もないべ~。」
「あのう、これは使えないですか?」
そう言って俺は魔鉄を見せた。
「おお~すごいベ~。純度が高そうだべ~。これがあれば作れるだべ~。村長、これから作って来ていいだべか?」
「いいぞ、すごいのを作ってやれ。」
「わかったべ~。ミラ殿も一緒に来るべ~。」
そう言って、グランじいはミラを連れて屋敷の奥に消えて行った。
「あのう、槍はどれくらいで出来上がるのですか。」
「明日の朝には出来上がるじゃろ。」
「そんなに早く出来るのですか!」
「わしらドワーフ族を舐めたらあかん。魔鉄を加工するなど朝飯前じゃ。ん、キキ姫どうした。」
「ちょっとトイレに」
そう言ってキキ姫は席を外した。
「ちょっと村長さん。先ほどの勇者の件ですが、無かったことにしてください。」
「どうしてじゃ?」
「実は、キキ姐は瀕死の状態だったんです。片腕と片足が無かったんです。」
「それはまことか。」
「はい。たぶんですが、生きたまま食べられたんだと思います。だから、体を直した時、キキ姫の精神が心配だったんです。
ですがどうやら、その時の記憶が無いみたいなんです。」
「そうなのか。」
「だから、記憶が無いままなら、それでいいかなぁと思いまして。わざわざ、思い出させることもないでしょ。」
「そうか。ユート殿の心遣いに感謝する。だが、この剣と小手だけでは、わしらの感謝の気持ちが伝わらないのう。」
「十分ですよ。こんなに良い剣と小手を頂きましたから。これで十分です。」
「あ、そうじゃ。お主らは、これからもっと強い魔物と戦うことになるじゃろう。それだとグランじいの剣では、戦えなくなるじゃろう。
実は、先代のドワーフの中には、旅に出た者もおる。所在はわからないが、冒険の途中で出会うことがあるかもしれない。
しかし、旅に出たドワーフは人との繋がりを嫌う。だからこれをお持ちくだされ。きっと架け橋となってくれるじゃろう。」
そう言って、村長の首にかかっているネックレスを渡してくれた。
「ありがとうございます。」
そう言って俺は受取り、魔法の袋にしまった。
「私も、グランじいの作業場を見せていただけませんか。」
その時、キキ姫がちょうど戻って来た。
「ちょうど良かった。キキ姫。ユート殿をグランじいの所にご案内してくれ。」
「わかりましたわ。ユート殿 こちらに。」
俺はキキ姫に案内され、グランじいの工房にやって来た。
グランじいとミラは何やら話している。
「ミラ、形は決まったの?」
俺はミラに話かけた。
「あ、ユート。今、グランじいと細部を詰めているところよ。」
と言っているミラの手を見ると氷で出来た小さい槍があった。
「それ、ミラのイメージなの?」
「そうよ。でもなかなか難しくって。グランじいの手を見て。」
そうミラに言われたので、グランじいの手の中を覗いて見るとそこには魔鉄を使って作った小さい槍があり、良く見ると少しずつ形が変わっているように見える。
どうやら魔法か何かで手の中で造形をしているようだ。
「グランじい。それは?」
「お、ユート殿か、気づかなかったべ~。」
すごい集中をしているようだ。
「これで、基本的な形を作り、そこから若干の微調整や装飾を入れて、それが出来たら、実際に槍を作っていくべ~。」
「へ~。グランじいってすごい人だったんですね。」
「あははは~。魔石を使わせたら、この村で一番だべ~。あっ!」
ちょっとグランじいは失敗したようだった。
「ごめん。ごめん。話しかけちゃって。もう行くね。」
「ユート待って。私も行く。グランじいに全部要望は伝えたから。」
「じゃあグランしい。あとはよろしく頼みます。」
「解ったべ~。今日は徹夜で作るべ~。明日の朝になったら取りにくるべ~。」
そう言われ俺たちはグランじいの工房を出た。
「今日はうちに泊まってってください。明日になれば、ミラ殿の槍が完成します。それまで、うちでおくつろぎください。」
キキ姫が泊まっていいと言ってくれた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、泊まらせていただきます。」
「良かったわ。私を助けていただいたお方ですもの。これで、思返しが出来るわ。」
「たかが雪男を追い払っただけですけどすみません。」
「それはそうですけど、助けていただいたことには変わりませんから。」
「すみません。お世話になります。」
キキ姫は本当にあの時の記憶が無いみたいだ。




