ネロとサラとエレナ
「ハックシュン。」
サラが大きなくしゃみをした。
「どうしたのサラ。風でも引いたの。それとも、まさか。花粉症?」
「エルフが花粉症になるわけがないでしょ。花粉症になったら、それこそエルフをやめないといけないわ。
絶対、だれか私の悪口を言っているのよ。うん。絶対、ミラちゃんだわ。」
「違うわよ。悪口だったら絶対、ユート君よ。」
「ああ~そんなの、解っているわよ。ネロちゃん。
ミラちゃんは陰で人の悪口は言いません。そんなこと解っていますわ。でもユーちゃんって言いたくないじゃない。」
「サラの気持ちは解るけど。ユート君ね。」
「たぶんそうね。」
ネロとサラはお互いに渋い顔をしている。
「サラさんって、エルフなんですか?」
とそんな二人の会話を聞いてエレナはサラに聞いてる。
「ええ。私はエルフですが、それがどうしたの?」
「いえ、なんか同じ匂いがするなぁ。と思って。」
「え、匂いって?」
「いえいえ、なんでもありません。それより、あの白いのはなんですか?」
そう言ってエレナが指を差したところには、白い小さな塊がある。
「あれは、魔物ですか。」
エレナが言うと
「なんでしょうね。ネロちゃん解る?」
「ちょっと見て来る。」
そう言ってネロは白い物体を確認しに行った。
「ちょっと来て。」
ネロがサラとエレナを呼んでいる。
「どうしたの。ネロちゃん?」
「いいから、早く早く。」
ネロは白い物体を背中で隠して、サラとエレナに見えないようにしている。
「見てこれ。」
ネロが振り返り、胸の所で抱いているそこには、白い子犬がいた。
「きゃ~かわいい~。」
エレナの声は大きい。
「抱かせて、抱かせて、ネロちゃん。」
サラがとても抱きたがっている。
「はい。落とさないでね。」
ネロは白い子犬をサラに渡した。
「かわいいなぁ。連れて行こう。連れて。」
「サラ、大丈夫なの?」
「きっと大丈夫よ。迷子になったのよ。このままだと他の魔物に食べられてしまうわ。」
「そうよね。サラさん。魔物に襲われたら可哀想。」
エレナはサラに賛同している。
「それもそうね。連れて行きましょう。サラ、私にも抱かせて。」
「はい。」
サラは白い子犬をネロに渡した。
そう言えは、ハクちゃんはどこにいるんだろう。ユーちゃんはハクちゃんの方から近づいてくると言っていたけど。
ま、いいか。そんなに心配することでもないし。ハクちゃんは強いし。
サラは疑問を胸にしまい込んだ。
「もうすぐ着くわよ。赤オーガの村に。」
ネロはエレナに伝えた。
「サラさん。本当に大丈夫なんですか。」
「大丈夫よ。エレナちゃん。なんかあったら、ネロが助けてくれるわ。」
「サラ、なんかあったらって、何も無いわよ。」
「違うの。ネロちゃんがそれぐらい強いってこと。」
「ネロちゃんって赤オーガを倒せるの?」
エレナが信じられないような顔で聞いている。
「まぁ」
ネロはそっけない返事をした。
「ネロちゃんはね。赤オーガの村を全滅させる腕はあるわ。」
「そんなことしないわよ。そういうサラだって、この前、赤オーガのリーダーに蹴りをお見舞いして、ふっとばしていたじゃない?」
「やめて、ネロちゃん。エレナちゃんに私の変な印象を与えないで。」
「今更なに言っているの、サラ。ばっかじゃない。」
「いいの。あんまりお転婆娘に見られたくないの。」
「サラさんも強いんだ。」
エレナは呟いた。
「そんなことないよ。私はか弱いわよ。」
「まったくもう。」
ネロはサラに言うのを諦めた。
ネロから受け取った白い子犬を抱っこしているエレナは子犬に向かって
「なんかあったら助けてね。」
と言って少し強く抱きしめた。
しばらくして「待って~」とエレナは叫んだ。
白い子犬は、赤オーガの村が見えたとたん、エレナが抱っこしている手を振りほどいて、キャンキャン吠えながら村に入って行った。
「大丈夫よ。エレナちゃんほっといて。」
「でも~」
「早く行きましょう。サラ、エレナ。ゆっくりしている時間は無いわよ。」
「そうね、ユーちゃんとミラちゃんをいつまでも2人きりにしておくのは危険ね。」
「ちょっと待ってください。」
そう言ってエレナはしぶしぶついて行った。
エレナサイド
赤オーガがいる。どうしよう。襲われる。
私、エレナは、サラさんの腕に巻き付き、怖がりながら村の奥に進んでいる。
途中、赤オーガの子どもの輪の中に白い子犬がいたので殺されないかどうか心配だった。
しばらくすると、村の中央で一番大きい家から2匹の赤オーガが出て来た。
あ、やばい。強そうなのが2匹出て来た。
明らかに他の赤オーガと雰囲気が違う。
ネロちゃんは私を見て何か赤オーガと交渉をしている。とっても不安だわ。
「エレナちゃん。そんなにくっ付かないで大丈夫だから。」
「でも、さすがに魔物は怖いわ。」
「エレナ。ちょっとこっちに来て、中に入って。」
私はネロちゃんに呼ばれた。
とうとう私の命はここで途切れるんだわ。
はぁ~。
そう思いながら、サラさんを置いて、家の中に入った。
ん。どうしたの?この子。両目がつぶれている赤オーガの子どもがいる。
「エレナ。直して上げて。」
「ええ。わかったわ。ハイヒール。」
子どもの目の傷は綺麗に治った。
子どもは目を開けてパチクリしている。
「お姉ちゃん。ありがとう。」
そう言って赤オーガの子どもは走って家から出て行った。
え、どういうこと。
今、私。赤オーガの子どもにお礼を言われた。なぜ。魔物が人間の言葉をしゃべれるの?
私が首を捻っていると、
「ありがとうございます。エレナ様。どうぞ私たちの村に好きなだけいてください。」
と赤オーガに言われた。私は怖かったけど。何とか顔を背けなかった。
「ちょっと。ネロちゃん。どういうこと?」
「何が?」
「何がって?どうしてしゃべれるのよ。」
エレナはネロに聞いた。
「別に、問題ないわよ。」
「そりゃ、問題はありませんけど。」
「だったらいいじゃない。」
あ、サラさんがこちらにやって来た。
「何をそんなに騒いでいるの?」
「だってエレナがうるさいんだもん。」
「ネロちゃん。あんた、また説明をしなかったでしょう。」
「だって面倒くさいし。」
「いいわ。私が説明する。いいエレナちゃん。あなたが感じて聞いた通り。
ここの赤オーガは他のオーガと違うの。ちょっと最初は混乱すると思うけど。
ここの赤オーガたちがあなたを守ってくれるわ。
で、先に挨拶したこの赤オーガがホープでここのリーダーよ。そしてこっちがサブ。村の運営を任さられているわ。」
「そうなんですか。」
「大丈夫よ。前も、一人預けたことがあるし。」
とネロが説明を付け加えた。
「先ほどは、ありがとうございました。あの子は、魔物に顔を噛み付かれて、視力を失ってしまった。
それがとても不憫で仕方が無かった。
ユート殿が戻ってこられたときにお願いしようと思っていましたが、貴方様が来られて本当に助かりました。
ぜひ、そちらの問題が解決するまで、ここ居てください。あなたの安全は私たちが命がけで守ります。」
とサブが説得してくれた。
「わかりました。お世話になります。」
私は、信じた。みんなを。
「はい。じゃあ。ホープよろしくね。それじゃあ、帰ろう。サラ。」
「ええ。帰りましょう。」
「え。もう帰っちゃんですか。」
私は突然のネロの言葉にビックリした。
「ええ。ユート君が心配だから。」
「え、何か危険なことがあるんですか。」
サブが聞いて来た。
「違うわよ。サブちゃん。ユーちゃんがミラちゃんに取られるということ。」
「あははは~そうですか。それは、すぐに帰った方がいいですね。」
「ということだから、2人組の男の問題が解決したら迎えに来るね。エレナ。」
そう言って足早にネロとサラは帰って行った。
どうしよう。急に2人がいなくなって心配になって来た。
トントン。
ん、肩を叩かれた。
振り返ると、女の子がいた。しかも魔物に見えない。
「こっちに来て。」
あ、この子たちもしゃべれるんだ。良かったわ。なんとかやっていけそうだわ。
白い子犬は、ネロとサラの姿を確認すると、子どもたちの輪から出て来て、ネロとサラの前に出て、クンクン言っている。
それをサラが抱きかかえて、一緒にライオネル城に向かった。




