ドワーフの姫様
「お前は、ヒールも出来るのか? あ、そうだ、姫様、姫様。」
そう言ってドワーフは洞窟の中に入って行った。
何だ。あいつは。
俺に話しかけて来て、勝手に会話を切りやがって。
「まだまだ、強い魔物はいっぱいいるのね。ユート。」
「そうだね 冒険って面白いね。変なドワーフもいるしね。」
「そうね。とりあえず、クエストは達成ってことでいいのかな。」
「うん。いいんじゃない。昨晩襲ってきたやつの耳を取って帰ろうか。ミラの槍も折れちやったしね。」
「そうね。でもいい修業になったわ。」
「ユート殿、助けてくれだべ~!」
ドワーフがまた、叫んでこっちに走って来た。
あ、また転んだ。
しかも今回は顔からだ。
「お願いだべ~。助けてくれベ~。姫様が~。」
顔が泥だらけになりながら助けを求めてくる。
「ん。落ち着け。どうしたんだ?」
「いいから。こっちについてくるべ~。早く。急ぐべ~」
そうドワーフに言われて俺たちは急いで洞窟の中に入った。
そこは薄暗く、少し奥に入ると中は広くなっていた。
たぶんここに雪男たちは、暗くなるまで身を寄せて寝ていたのかな。
なんて考えていると
「こっちだべ~。早く早く。」
と姫様の所に案内された。
「うわ、ひどい。なにこれ!」
ミラは顔を背けた。姫様は、たぶんさっきのホワイトオーガに食べられていたらしい。
片腕と片足がない。
「助けてくれベー お願いだべ~。助けてくれたらなんでもするベ~。」
俺は「ハイ·ヒール」を唱えた。
するとお姫様は元通りに戻った。
血が流れ過ぎて気を失っているが、問題はないだろう。ただ、食べられた恐怖で精神がおかしくなっていなければいいが。
周りをみると、他にも食べられたであろう骨がいくつも散らばっていた。
「姫さま~。良かったべ~。生きているべ。ユート殿、このご恩は一生忘れないべ~。
何かあったら私に言ってくるべ~」
「あのさ。俺がハイ·ヒールを使ったことは絶対に内緒にしてくれよな。」
「わかりました。絶対に誰にも言わないべ~。姫様の命の恩人だべ~。」
「解った。抱き着くな。とりあえず姫様を洞窟から出そう。」
そう言って俺たちは洞窟の外に出た。
「あ、雪男が全部いなくなってる。」
ミラが叫んだ。
「ま、いいよ。たぶんもう人間は襲わないだろう。きっと原因はあの、ホワイトオーガだ。」
「それもそうね。じゃあ、私たちはライオネル城に戻りましょう。」
「ちょっと待ってくれだべ~。どうか。どうか。ドワーフの村までお越しくださいだべ。」
「いや、いいよ。帰るから。」
「お願いだベ。姫様の恩人をこのまま返したら、ドワーフの名を名乗れなくなるべ。お願いだべ。」
「わかったよ。抱き着くなよ。そんなに長く滞在できないからな。」
すると
「ん。う~ん」
姫様は目を開けた。
「姫様、お目覚めですか。」
「おおグランじい。私を助けてくれたのか。」
「いえいえ、助けてくれたのは、このお方たちだベ。」
「そうか。助けていただいてありがとうございます。私は、ドワーフ村の村長の娘、キキと申します。」
「お、お姫様は礼儀が正しいな。誰かさんと違って。」
「ん、誰のこと?」
キキ姫は疑問に思っている。
「さ~。わかりませんべ~」
とドワーフの男はとぼけている。
「あ、そう言えば、あんた。名前は、なんて言うんだ?」
さっき、キキ姫が、グランじいとか言っていたけど俺は改めて、わざと聞いた。
「グランじい。まさか名乗ってないの?」
「いえいえ、これには深い訳が。」
「グランじいってさ、俺のことちやっちいやつとか言うんだよ。」
「そうよ。わたしのことなんて弱そうで、馬鹿って言っていたわ。」
「え、私の命の恩人に? 本当なの?」
キキ姫はグランじいを睨んでいる。
「ユート殿とミラ殿、ごめんなさいだべ~。もう勘弁してほしいだべ~。
キキ姫。ユート殿とミラ殿とは、いろいろあったべ~。」
「ユート。もうそろそろ許してあげましょうか。」
「そうだな。可哀想だしな。」
俺たちは、やられたらやり返すが、ちゃんと引き際はわきまえているつもりだ。
「ユート殿、ミラ殿。この度は、我が付き人のグランがご迷惑をおかけして、誠に申し訳ない。ほら、グランじいも頭を下げなさい。」
キキ姫に促され、グランじいもキキ姫と一緒に俺たちに頭を下げている。
「いいよ。もう謝罪は受け取りました。そんなに気にしなくてもいいですよ。キキ姫。」
「ありがとうございます。ユート殿たちは寛大なお方で助かりました。
ドワーフの村では、礼儀を怠るものは、追放になりますゆえ。」
とグランじいを睨むキキ姫。
「そうなんですか。危なかったですね。グランじい。」
「ほんとに申し訳ないべ~。」
「それでは、ドワーフの村にご案内しますわ。グランじい。案内して。」
「ちょっとお待ちください。キキ姫。俺たちは、雪男の討伐クエストを受注しており、向こうで雪男の耳を削いでから行きたいのですが。」
俺はキキ姫の言葉を遮った。
「わかりました。それでは、ユート殿の用事がすみましたら、ドワーフの村に向かいましょう。」
そう言って俺たちは雪男を倒した場所へ歩き出した。
雪男の処理が終わり、今、馬たちと別れた街道にいる。
「ミラ、馬を呼べるの?」
「任せて。」
ミラは、どうやったか解らないが、自分の口に両手の人差し指と中指を入れて
「ピー」
と大きな口笛を鳴らした。
しばらく待っていると、パカパカパカっと馬が2頭こちらに走って来た。
「それ、どうやったんだ?ミラ。」
「ん、これはね。・・・」
ミラに教えてもらったが、フーフーと息が漏れるだけで、全然音が鳴らなかった。
だから諦めた。
「これ、意外と難しいのよね。」
とミラに自慢されてしまった。
「グランじいは、ここまで、どうやって来たの?」
俺は聞いた。
「歩きだが。」
「そっか。キキ姫をこれ以上歩かせるのもかわいそうだし、キキ姫はミラの後ろでいいか?」
「いいわよ。」
ミラが了承してくれた。
「じゃあ、グランじいは走って、後を追いかけて来て。」
「え~。そんなこと言わないでほしいべ。私もユート殿の後ろに乗せて欲しいベ~。」
そう言って、グランじいは、シルの手綱をもっている俺に近づいて来た。
「ヒヒ~ン」
シルはグランじいから避けるように後ずさっている。
どうやら、グランじいを乗せたくはないようだ。
「キキ姫、ちょっとこっちに来て。」
そう言って俺は、グランじいを下がらした。
「キキ姫、ちょっとシルに近づいて。」
「わかりました。」
そう言ってキキ姫はシルに近づいた。
どうやら問題が無いみたいだ。まったくもう。ハクといい、シルといい。好き嫌いが激しすぎる。
でも仕方がないか。たぶん動物の感で解るんだろうな性格というか人格が。
「ミラ、グランじいを乗せてあげて。」
「まったくしょうがないわね。」
グランじいは、下を向いてトコトコとミラの方に歩いて行った。
「じゃあ、行こう。」
そう言って俺はシルに跨って、キキ姫を俺の後ろに乗せた。
「キキ姫。落ちないように俺に掴まってください。」
そう言うと、俺の腹にキキ姫の手が伸びて来て、ギュッとされた。
ちょっと苦しかったがキキ姫の胸が背中に当っているのがわかり、何にも言わなかった。
だってキキ姫は背が低くてちょっとぽっちゃり系だけど肌が白く、胸が大きくてかわいいから。
ドワーフの村に着いた。
俺たちは、ドワーフの村に入る前に馬から降りた。
そんな様子を見ていた村人が、
「姫様が無事に帰ってきたぞ。だれか村長を呼んで来い。」
と叫び、その声が村中に響き渡ると、村中のドワーフが村の入り口に集まり出した。
「姫様は無事だったのね。よかったわ~。」
そんな声がそこら中から聞こえてくる。
俺とミラはその光景にビックリして動けないでいた。
「キキ姫。無事じゃったか~。」
そう言って、人ごみをかき分けてこちらに走ってくるドワーフがいる。
あ、転んだ。なんだ。グランじいといい、ドワーフは転ぶのがうまいのか。
なんて考えていると、そのドワーフはキキ姫のとこに来て、抱き着き泣いている。
「ちょっと。恥ずかしいからやめてお父様。」
「心配したんじゃ。雪男に攫われたと聞いて。無事で良かった~。」
「大丈夫よ。ほら。何とも無いでしょ。」
キキ姫は無事だったってことをアピールしている。
でも、腕や足が無かったところの服は切れてないけどね。
「グランじい。良く姫を助けてくれた。」
「いや~、私ではないベ~」
グランじいは村長にお礼を言われて、あたふたしている。
「ん、こちらのお方は?」
「ユート殿とミラ殿です。私たちを助けていただきました。」
とキキ姫が紹介してくれた。
「お~。そうじゃったか。私の娘とグランじいを助けていただいてありがとうございます。
このご恩は一生忘れません。こんなことでお話しするのもなんですから、どうぞこちらに。」
そう言って村の中に進んだ。
「こちらで馬はお預かりします。」
村長は村人に指示をだし、手綱を村人に任せて俺たちは村の中に入って行った。
シルは大人しく村人に付いて行った。
村長に促され、村の中を歩いていると、
「キキ姫~」
といろんなところから声援が聞こえてくる。
「キキ姫って人気者なんだね。ユート。」
「そうだな。だれかさんとは雲泥の差だな。」
「だめよ。サラの悪口を言ったら。」
「そうだな。今頃、くしゃみをしているかもな。」




