ミラ無双
「ん。」
俺の視界に赤いものが写った。
「ユート。あれ。」
ミラが暗闇の方を差した。
暗闇の中から赤い光が、揺れている。
どうも、魔物の目みたいだ。
それも、1、2体って訳じゃなく、数十体いる。
はぁ、聞いてないよ。夜行性なんて。
しかも、目が赤いって、ダンジョン産の魔物じゃないよな。
まったくもう。ライオネル城のギルドのお姉さんは、ラサールのリーゼに劣るな。
普通、教えてくれるでしょ。いろいろ詳しく。
なんて考えていると、
「ユート来るわよ。」
「ミラ、あぶな~い。」
そう言って俺はミラを弾き飛ばした。
ミラがいた場所の後ろの岩を見ると、つららを大きくした、氷の刃が岩に刺さっている。
「ミラ、大丈夫か?」
「やってやろうじゃない。さすがに頭に来たわ。いきなりなんて。」
そう言って、ミラは赤い目の所に鋼の槍を構えて突っ込んで言った。
「ちょっと待て~。あ~もう!」
俺は、ファイヤーを唱え、上空5mぐらいの所にいくつもの火の玉を発生させ、この辺一帯が明るくした。
「ありがとう。ユート。よく見えるわ。」
「ウオ、ウォー」
ミラと雪男の戦いが始まったようだ。
「まったく。しょうがないな。ミラのやつは。前に注意したことを無視しやがって。
でも、今回はしょうがないか。囲まれているし。逃げることもできないし。逆に、慎重すぎたらミラじゃないし。わわ、あっぶね~。」
俺にも次々とつららが飛んでくる。
俺は、飛んでくる方向にファイヤーを数発お見舞した。
「ギャ~」「ウォー」
俺のファイヤーが雪男に当って、悲痛な叫び声が聞こえくる。
と思ったら、雪男のつらら攻撃が止んだ。
あれ、どうしたんだ。
「ユート。雪男が逃げて行くわよ。どうする。」
「追いかけよう。」
俺はそう言ってミラと共に雪男が逃げて行った方向を目指し、走って追いかけた。
もちろん、照明用の火の玉は消してある。
「ミラ、勝手に突っ込むなよ。」
「大丈夫よ。今回は。」
「その根拠は?」
「さっきのつららの攻撃見たでしょ。あんなのどうってことないわよ。」
「え、強そうだけど。」
「見てて。」
ミラは走りながら雪男が逃げる方向に向けてアイスランスと唱えた。
すると、雪男が飛ばしたつららの2倍ほどの大きさの氷で出て来て、雪男を目指して飛んで行った。目で辛うじて見えるが、最後尾で逃げている雪男をランスが貫通した。
「おっ? ミラすげ~な。本物のランスだな。」
「すごいでしょ。アイス系は面白いわよ。いろいろ作れて。」
「マジか。他に何が作れるの?」
「見て」
そう言ってミラは右の手の平を見せた。
すると、顔が現れた。たぶん俺みたいだが、かなり角ばっている。
「それ、俺か? かなり角ばっているが。」
「そう。ユートよ。なかなか難しいのよ。イメージを形にするって。簡単なものなら問題ないわ。」
「ん。ちょっと待って。洞窟に入ったようだ。」
「え、この暗闇でわかるの?」
「いや。たぶんだよ。赤い目が一点で消えて行ったから。」
「そうよね。見える訳ないよね。星も今日は出てないし。」
「ミラ、慎重に行くぞ。」
そう言って、洞窟を目指した。
さっき、ミラに聞かれたけど、集中して見ると、暗視カメラみたいに暗闇でも見えるみたいだ。
でも、はっきりとじゃなく、薄らだけど。
今までは見えなかったけど、どうもエルフのダンジョンを討伐したあたりから、体に少しずつ変化を感じている。
ヴァンパイアの血が騒いでいるのか。
「ミラ、やっぱりさ、明るくなってからにしよう。もうすぐ朝になりそうだし。」
「それもそうね。魔物の巣も解ったことだし。朝になるのを待ちましょう。」
俺たちはこっちから洞窟が見えて向こうからは見えない場所を探して隠れ、朝を待つことにした。
日が昇り、辺りがだんだんと明るくなってきた。
「ちょっとユート。あれ、生意気なドワーフよ。」
「あ、ほんとだ。洞窟を覗いているぞ。」
「どうしよう。先を越されてしまうわよ。」
「いいよ。別に。たぶんあいつじゃ無理だと思うし。それに、まだ相当な数の雪男が残っているし。きっとあの中にボスもいるよ。」
「それもそうね。危険な場所に私たちが最初に入るより、生意気なドワーフに任せた方がいいわね。」
「そう言うこと。あ、あいつ。本当に洞窟に入って行っちやったよ。」
俺たちはどうなるか様子を見ている。
20分ぐらいが経過した。
「あいつ、出てこないわねー」
結構な時間が経過しミラがつぶやいた。
「やられちやったんじゃないの?」
「そうかもね。もうそろそろ行く?」
「行こうか。いつまでも待ってても仕方がないし。」
そんな話をしていると。
「助けてくれだべ~」
と叫び声が聞こえてきた。
「あ、ユート。出て来たわよ。」
予想通りの展開になってミラはちょっと笑っている。
「あ、転んだ。」
洞窟の前は少し開けていて、その中央でドワーフは転んだ。
ドワーフを追いかけるように洞窟から続々と雪男が姿を現している。その数、30体以上。
「完全に囲まれたわね。」
ドワーフは「ヒー」とうろたえている。
昨日、雪男を倒した威勢はどこに行ったのやら。
でも、仕方がないか 1対30じゃ。
しかも俺たちに仲間を倒されたから、雪男たちはかなり殺気だっている。
「お。ドワーフがやる気を出したぞ。」
覚悟を決めたのか、雪男が丸く囲んでいる中央で斧を構えた。
戦いが始まるかな。
なんて考えていたら、雪男たちは、そこらじゅうに転がっている石を拾い、一斉にドワーフに向かって投げだした。
「いたいべー。やめてくれだべー。」
マジで痛そうだ。だって雪男たちは本気で投げているから。
「ミラ、助けてあげようか。」
「そうね。あいつも懲りたでしょ。」
「じゃあ、ミラ、槍の練習ってことで、一人でよろしく。」
「ええいいわ。任して。」
そう言って、槍を構えて、雪男の柵にミラは突っ込んでいった。
「えい!」
雪男が振り向いた瞬間に刃が付いていない方で雪男の頭を殴った。
殴られた雪男はそのまま後ろに倒れた。
ミラは、その勢いのまま、近くにいる雪男も槍で殴り倒していく。
雪男たちが一斉にミラに詰め寄って攻撃をしてきた。
混戦状態になっている。
ミラは、雪男のパンチやキック。それに爪でのひっかき攻撃を器用に槍で受け止め、流しながら、その反動を使って、次々と倒していく。
ついには、最後の雪男が倒れ、折り重なった上にミラが立っていた。
「あ~もう。槍が折れちやったじゃない。どうしてくれるのよ。」
「ミラ、おつかれ~。すごい様になっていたよ。ミラも自分の形を見つけたんだね。」
「ええ、とてもいい感じだったわ。」
「そうか。それで、全部殺しちゃつたの?」
「いいえ、一匹も殺してません。全部生きているわよ。気絶しているだけ。」
「そうか。」
「数を減らせとは書いてあったけど、全滅させろとは書いて無かったからね。」
ミラは気絶している雪男の山から下りてきた。
「おい、お前たちは何者だ!」
あれ、語尾にベーが付いていない。
「ほんとに人間かそれとも勇者か。」
あ、ここでも勇者の話が出て来た。
「私たちは人間よ。とても弱い人間。」
「うそを言うでね~べ。雪男30匹を一人で倒すなんて、勇者以外ありえないべ。」
「そんなことないわよ。私より強い人はいっぱいいるわよ。そこのユートだって私より強いし。」
「お前より、こっちのちゃっちぃ方が強いべか。」
なんだ。この言われようは。助けてやったのに。
「あんた、ユートを馬鹿にしているでしよ。助けてやったのに!」
「あ、そうだべ。姫を助けないと。」
そう言ってドワーフは、洞窟の中に入って行った。
また、姫か。なんでこうもお偉いさんとの出会いがあるんだろ。
「ユート。姫って言っていたわよね。」
「ああ。また、面倒事に巻き込まれなければいいが。」
「そうね。」
「ぎぃや~。」
ドワーフはまた、叫び声を上げて洞窟から出て来た。
あ、転んだ。まただ。
そんな様子を見ていると雪男より回り大きい魔物が洞窟から出て来た。
「ひえ~、ホワイトオーガだべ~。助けて~。殺されるだべ~」
と叫びながら腰を抜かして後ずさっている。
「ん、ホワイトオーガだって。知っているか。ミラ?」
「いえ、知らないわよ。でも、やばいね。」
「お前ら、ホワイトオーガを知らないだべか。 Aランク相当の魔物だべ俺たちは殺されるだベ。」
「だってさミラ。」
「ええ、危険ね。」
「どうするミラ。逃げるか?」
「ちょっと待ってくれだべ。置いてかないでくださいべ~」
「知らないよ。昨日、俺たちのこと馬鹿にしてたし。俺たちの獲物も横取りされるし。それにお前、俺たちより強いんだろ。」
「悪かったべ~。許してほしいべ~。」
「グオーーーー」
ホワイトウルフは洞窟から出て俺たちに向かって咆哮を発した。
ドワーフは戦意消失している。




