雪男のクエスト
次の日の朝、俺たちは馬を取りに馬小屋にいる。
宿屋の方は、今日から留守にするが、そのまま部屋を借りることにした。
いつ、ネロとサラが帰って来てもいいように。
もちろん俺たちより早く帰ってきたら心配すると思って、受付に伝言をお願いした。
「ポチ。また、乗せてもらうわよ。」
ミラがポチを撫でている。
こんな呼び名だと犬と勘違いされると思うが、何度も言うが、ポチは馬だ。
「おはようございます。」
そう言って主人が近づいて来た。
「馬を受取りに来ました。」
俺が言うと
「はい。どうぞ。準備は出来ています。」
と言われ、主人の指先を見るとそこに、俺の黒い馬がいた。
「ありがとう。」
俺はそう言って、主人から手綱を取り、町の外に向かって歩き出した。
ミラもその後をポチと一緒に付いて来ている。
「この子に名前を付けないといけないな。なんて名前にしようか。」
特にミラは無言だ。
「シルフィードにしよう。森の精霊って感じしない。」
「なにそれ。ダサ。名前長いし、しかも森の精霊に怒られるよ。」
あれ、ダサかったのかな。絶対ポチの方がダサいし。
昔、白のシルフィードって漫画があって、見たことがあったから。
俺の馬は黒だけど。この世界は、ミラが常識なのかな。
「じゃあ、シルは?」
「うん。いいんじゃない私のポチの次にいい名前よ。」
絶対、ポチの方がダサいって。とは言えなかった。
「よし、決まり。シルね。」
「ヒヒヒ~ン」
どうやら気に入ってくれたようだ。
俺たちは、馬にまたがって、雪男が出没する峠を目指した。
「この辺だな。」
俺はミラに伝えた。
道中、特に変わったことは無く。ミラの指示で途中、馬を休ませながら、また、昼食を取るために休憩しながらやって来た。
「ミラ、気を付けろ。」
俺が指を差した方向の木が、わさわさと揺れている。
「ミラ、馬たちはどうする?」
「放しても大丈夫よ。後で呼べば戻ってくるから。」
「シルも戻ってくるか?」
「大丈夫。ポチに任せとけば。」
そう言って俺たちは馬から降りて、馬の尻をポンポンと叩き、放した。
ポチとシルは一緒に、来た道を戻って行った。
「来るぞ!」
そう俺が言うとそいつは木の影から姿を現した。
でかい2mぐらいあり、パッと見、形がゴリラに似ているが2足歩行をしている。
まあ、毛並みは雪男だけあって白い。
「ミラ、任せた。」
「任せられたわ。」
ミラはそう言って、槍を魔法の袋から出した。
「そいつは、俺の獲物だべ~!」
そう言って先ほど雪男が出て来た場所から、今度は小柄な男が出て来た。
そいつは、自分と同じぐらいの両手斧を振り被ると、雪男の背中に振り落した。
「グオーー!!」
雪男は、断末魔をあげると息絶えた。
後ろからの攻撃だったから、雪男もどうすることもできなかったのだろう。
「お前たちは何者だべ。」
小柄な男は俺たちに聞いて来た。
こっちが聞きたいぐらいだ。急に出て来て、獲物を横取りしやがって。でも普通に答えてやった。
「俺たちは、ライオネル城から雪男を討伐するために来た。」
「そうか。俺は、ドワーフの村から来たべ。俺も雪男を駆除するためにやって来たべ。」
「はぁ?ってことは、依頼が被ったってことか。」
「なに言っているんだベ。これは、ドワーフとエルフとライオネル城からの依頼だべ。
だから、3者が被るのは当たり前だべ。
そうは言っても、たぶんエルフはこないべ~。エルフは閉鎖的だべ。」
なんだ。ベえベえ方言か。
「じゃあ、一緒に駆除するか。」
俺はドワーフに聞いた。
「嫌だべ。俺は、一人で狩れるべ。お前たちは弱そうだべ。
俺の邪魔はしないでほしいべ。」
「ああ、わかったよ。俺たちはお前の邪魔はしないから、お前も俺たちの邪魔はするな。
先に見つけた方が、権利があるってことでいいか。」
「いいだべ。そいつは俺が先に見つけたから俺のだべ。」
「わかったよ。どうぞ。」
小柄な男は先ほど仕留めた雪男に近づき、何やら始めた。
どうやら、右耳を削いでいるようだった。
「ん、何しているんだ?」
「あ、見て解るべ。耳を削いでいるべ。」
「そんなこと見ればわかるわよ。」
ミラが言った。
「お前たち、馬鹿だべ。倒した証拠はどうするベ?」
「あ、そう言えばそうだ。でも、依頼書に書いて無かったな。ミラ。」
「そうね。書いて無かったわね。なんかおかしいなぁ、とは思っていたけど。」
「お前たち弱そうだし、馬鹿だべ。」
「なんか。むかつくわね。」
「まあまあ、落ち着けミラ。いい情報を貰ったし。」
「じゃ、俺は行くべ。死ぬべな。」
と言って小柄な男は森に入って行った。
「なあなあ、最後、死ぬべなって言ってなかった? 死ねってことか。それとも死ぬなってことか。」
「どっちでもいいわ。もう、思い出すだけでも腹が立つわ。」
ミラはあの男の態度で嫌いになったらしい。
「じゃあ、俺たちも雪男を探すか。そう言えば馬たちはどうする?」
「大丈夫、ほっとけば。呼べばいつでも戻ってくるわ。」
「そういうもんなのか。犬みたいだな。」
「そういうものよ。」
そう言ってミラは森に入って行った。
俺もその後を追った。
「ミラ、雪男は倒せそう?」
「大丈夫じゃない。あの小さい男も倒していたし。そんなに強そうには感じないわよ。」
「そうだな。俺も同感だ。じゃあどうする? 釣るか?」
「いや、今回はそんなことしてLvを上げる必要はないでしょ。
ネロとサラもすぐに戻ってくるし、私たちが全部狩らなくてもいいし。
確か依頼書には、数を減らせって書いてあったし。」
「そうだな。それじゃあ基本、雪男はミラがやっつけてよ。
槍の扱いになれるために。俺はミラの戦いを見ているよ。」
「わかったわ。」
そんな話をしながら森の奥に入り、雪男を探した。
でもなかなか見つからなかった。
「なんだよ。最初の一匹には簡単に出会えたのに、全然いないじゃんか。」
「そうね。おかしいわね。でも、なんかこの森、静かすぎない。」
「そう言われてみれば、静かだな。っていうか静かすぎるな。」
「でしょ。でも、良くわからないからもう少し奥に行ってみましょう。」
そう言って俺たちはどんどん森の奥に入って行った。
この場所に着いたのが夕方で、今はもうすっかり真っ暗だ。
俺たちは夜歩くのは危険と思い、ちょうど大きい岩があったので岩を背にして、そこで火を起こし、夜が明けるのを待った。




