ユート、馬を購入する
俺とミラは馬を買いに馬小屋に来ている。
「馬を買いたいのですが。」
俺は取りあえず、馬小屋の主人に聞いた。
「はい、どのような馬をお探しでしょう。あれ、後ろにいるのは、ミラちゃんかい。」
「こんにちは、おじさん。」
ミラは店主に挨拶をした。
ミラの馬を預けているから顔見知りなんだろう。
「ミラちゃんの馬は大人しく元気にしているよ。」
「ありがとう。面倒を見ていてくれて。」
ミラは感謝をしている。
「販売できる馬はここにはいないが、場内に小さい牧場があって、そこに馬がいるから選んでくれ。
ミラちゃんも馬に会いたいだろ。」
「ええ、会いたいわ。行きましょう。」
そう言って、主人と牧場に移動した。
どれくらいの大きさだろ。東京ドームの4分の1ぐらい。だめだ。解りにくい。
あ、フットサルのコートの2倍くらいの大きさで、周囲を木で囲っている。
その中を馬が数体、のんびりしいる。
パカパカパカ。
馬が一頭こちらに歩いて来た。
どうやらミラの姿に気づいたらしい。
「元気だった。ポチ。」
はぁ?、ポチだって。
「今、ポチって呼んだ?」
「ええ、ポチよ。いい名前でしょ。」
そう言ってミラは馬の立髪のあたりをなでなでしている。
なんだ、このセンスのない名前は。どう考えても犬の名前じゃん。
ま、いいけど ミラの馬だし。
「馬の首のあたりに炭で印を付けているのが、販売用の馬です。」
店主にそう言われて、囲いの中を眺めた。
「お~い。俺と一緒に行きたい奴はいるか~。」
おれは、叫んだ。
ミラにそんなんで来るわけないでしょ。
って顔をされている。
おれだって来るわけないと思っている。
ただ、選ぶと言っても良くわからないし、ミラに聞いてもいいが、たぶん俺が購入しても、主人はミラになりそうだし。
だから叫んだ。
数頭の馬が耳をぴくぴくさせていたが、俺の所にやってくる様子が無い。
「やっぱ無理か~。」
そう言って、柵に腰を掛けて、店主の方に向いて、会話をした。
「馬って、いくらぐらいなんですか。」
「馬にもよりますが、小金貨2枚からです。」
やっぱり高いな。最低でも日本円で160万ぐらいか。
ミラは柵の中に入り、ポチに乗って遊んでいる。
しかも鞍を付けずに。
「ミラちゃんってすごいですね。馬の扱いが上手過ぎて私も教わりたいくらいですよ。」
「ああ、ミラは小さい時から馬の世話をしていましたから。馬と共に生きてきたって言ってもいいぐらいです。
ちなみに、ミラの馬はいくらぐらいしますか。」
俺はミラに聞こえないように店主に聞いてみた。
「ミラちゃんの馬は筋がいいし、大人しく、言うことも聞く。
ですので、小金貨5枚くらいでしょうか。」
マジか、日本円で400万円か。ま、ミラの馬は本当に賢いからな。
「痛て!」
俺はちょっと叫んでしまった。
どうやら肩を噛まれたみたいだ。振り返るとそこに黒い馬がいた。
「ん、なんだお前。」
俺が馬に話しかけると
「ブルブル」
と馬が足ふみをしている。
「ん、お前。俺と一緒に行きたいのか?」
「ヒヒーン」
と馬は前足を上げ、あたかも俺にアピールをしているように感じた。
「旦那、どうやら気に入られたようですな。」
「やっぱりそうなの。」
「でも、この馬は気性が荒くて、扱いに困っていまして。
先日もお客さんが跨がったら、暴れて落としてしまって。そりゃ~もう大変でした。」
「そうなのかぁ。気に入られても落とされるのは嫌だしなぁ。」
「よろしかったら、この馬だったらお安くさせていただきますよ。」
「お、そうか。じゃあ、試しに乗って見るか。ミラちょっといいか。」
俺はポチに乗って遊んでいるミラを呼んだ。
「ミラ、俺と一緒に行きたい馬がいたぞっ。」
「なに言っているの。たまたまよ。たまたま。」
「いいから、いいから。ちょっと乗ってみるから手伝って。」
「わかったわ。ポチ、一人で遊んでで。」
そう言ってミラはポチから降り、ポチはミラが言っている言葉がわかったのか、奧の方に歩いて行った。
賢いな。ミラのポチは。
ミラが
「どうどうどう」
と言って、手綱を付けている。
「ミラちゃん。すごいですね。私でも手綱を付けるのに、嫌がって大変なのに。いともあっさりと。」
「私、慣れているから。気性の荒い子も問題ないわ。」
そう言って、鞍も付け終わり、乗る準備が整った。
「はい。いいわよ。ユート。乗って見て。」
ミラからOKが出た。
俺は主人の脅しもあって緊張していたが、手綱を持ち、鞍に手をかけて一気に乗った。
「ブルルル」
と馬は言って首を振ったが、大人しくしている。
「え、あんなに気性が荒かったこいつが!」
主人はその様子を見てビックリしている。
「お~よしよし。」
俺は馬の首辺りをトントンとかるく叩き、なだめた後、
「よし、ちょっと行くぞ。」
そう言って両足で馬の腹をかるく蹴り、行けと命じた。
「ダッ、ダッ、ダッ」
馬は柵の周りを走りだした。
何だ。問題ないじゃないか。いい感じだ。この馬を買おう。
「ミラちゃん。あの人もどっかで馬を乗っていたのかい。今どきの子には珍しく様になっているね。」
「そうよ。私が教えたんだから。カッコイイでしょ。」
「この馬買います。」
俺は、一回りした後、馬に乗ったまま主人に言った。
「わかりました。では、あららで手続を行いますので、私は先に行っています。」
そう主人は言って小さい小屋に入って行った。
俺は馬から降りた。
「この馬に名前を付けないといけないな。」
「ちなみにユート。その馬は雌よ。」
「え、なんか違いがあるの?」
「特には無いけど。雌だから調子が悪い時があるわよ。」
「そうか。ま、いいか。馬に詳しいミラ先生もいるし。」
「なに、お世辞を言っているのよ。何にも出ませんからね。」
ミラは馬のことで褒めると一番うれしがるのだ。
そんな話をしながら俺たち馬の購入手続きをするために主人が待っている小屋に入った。
「どうでした。あの馬は、気に入りましたか。」
「ああ、まあまあかな。」
「良かったです。購入していただける方が見つかって。
あと、10日ぐらいで購入者が見つからなければ、処分するところでした。馬にやる餌代も馬鹿にならないので。」
「そうですか。良かったです。それでおいくらですか?」
「小金貨2枚と言いたいところですけど、1枚でいいです。私も、もう売れないと思っていましたから。」
「わかりました。それでいいです。」
「それで、手綱とか馬に乗せる鞍はどうしますか?うちの方で用意すると、大銀貨2枚かかりますが。」
「こっちで揃えるのは面倒臭いので、よろしくお願いします。」
「ありがとうございます。それで、馬はすぐに使いますか。」
「いや、明日の朝。使おうと思っている。」
「そうですか。では、ご用意しておきますので、先ほどの馬小屋にお越しください。」
「あ、私のポチも明日の朝、お願いします。」
「わかりました。」
俺は、代金を支払い、牧場を出た。
辺りはすっかり暗くなっている。
「お腹空いたね。」
ミラが腹をすりすりしながら言った。
あ、そう言えば、お昼を食べるの、忘れてた。
「ごめん。ミラ お昼、食べて無かったね。」
「ううん、いいの。私も、久しぶりにユートと二人っきりで買い物をしたから楽しくて忘れてしまったわ。」
「ははは~。じゃあ、何か食べに行きますか。何か食べたいものある。」
「私は何でもいいわ。ユートが決めて。」
でた。俺だって基本は何でもいいのに。女の子は、すぐに男に振ってくる。
俺としては、希望に応えてあげたいだけなのに。
「ここでいいか?」
宿屋に戻る途中にある店を指差した。
「いいわよ。」
そこは、大衆居酒屋みたいだ。
飲み物が運ばれてきた。
「そう言えばさ、こうやって2人で飲むのって初めてじゃない。」
俺は昔を思い出して言った。
「そうね。いつも周りに、アリス奥様やダンやミランダお母さんがいたもんね。」
「ああ、懐かしいな。村を出てから、そんなに時間は経っていないのに、ずいぶん昔に感じるな。」
「私、ユートに出会えてよかった。ネロもサラにも会えて。
一緒に旅をして。今まで生きてきた中で一番充実しているかも。」
「そうか。良かったな。」
「ユート。私・・・・」
「ん、なにミラ?」
「ううん。何でもない。そう言えばさ、ネロとは、どうやって出会ったの?」
「それがさ~。ネロとの出会いは、最悪でさ。マジで臭かったんだから。」
そんな他愛もない会話に盛り上がり、夜は更けて行った。




