ユート、出生の秘密を打ち明けられる。2
15才になった朝、
アリスとダンは色々と忙しくパーティーの準備をしていた。
俺の成人の祝だそうだ。
ミランダとミラも途中から来てくれて、
一緒に準備をしている。
15才になると協会で、
祝福を受けられるようになるらしい。
ただ、このことは子供には内緒らしくて、
なぜ、15才なのか、
祝福を受けたらどうなるのか全然解らない。
先に15才になったミラに聞いてみたが、
祝福を受ける時に解るらしいとのこと。
と言うことはミラもまだ祝福を受けてないらしい。
ミランダいわく、
「ユートと一緒に祝福を受ける。」
と言って聞かなかったらしい。
夕方になりパーティーが始まった。
今日はとても豪華な夕食だった。
メインは鶏のもも肉のロースト。
よくクリスマスで食べるあれ。
この村では滅多に食べれないもの。
ほとんどが、通貨を獲得するために、
ある程度、家畜の量が増えたら町に売りに行っている。
「今日は、ユートの成人の祝いに用意した鶏のローストよ。召し上がれ。」
アリスは満面の笑顔で俺に言った。
「ユートは立派になったな。俺の自慢の息子だ。がはは~。」
と楽しそうにダンは酒をのどに運んでいる。
「アリス奥さまの前で言うのも何ですか、
私の子どものみたいなものですから、
ほんとに立派になって。
あの時は、ミラを助けてくれてありがとう。」
と感謝の言葉を俺に述べているミランダの横で、
ミラは顔を赤くしていた。
「酒でも飲んだのか?」
とミラに話しかけたら
「飲んでないわよ。ユートのバカ。」
って言って顔を下に向けた。
「まぁ、まぁ~」
とほほえましく見るミランダとアリス。
こうして他愛もない話をして、
夜が更けていき、
ミランダとミラは家に帰って行った。
食器をアリスと一緒に片付け終わると
アリスとダンにテーブルに着くように言われた。
「ユート、15才になったから成人だね。
おめでとう。」
なんか改まってアリスに言われて少してれるな。
「それでねユートに話さなくてはいけないことがあるの。
ビックリしないで聞いてくれる?」
なんだ改まって。話ってなんだろう。
魔法を使っているのが、ばれたか。
それとも、近所の子を叱ったのがやり過ぎだったか。
だってあいつ、石投げてきてムカついたから。まいいや。
「ん、何、お母さん?」
「ユート、実はね・・・」
「あなたは私の本当の子ではないの・・・」
俺、「・・・・・」
うん、知ってた。
だって、なぜだか記憶が消えていないから。
「ん。ユート、ショックじゃないの?」
とアリスとダンは心配そうに俺の顔を見ている。
ヤバい。何て返そう。
この場合、知ってたなんて言えないし。
ショックでもないし、
って言うか、凄い感謝している。
なにも出来ない赤ちゃんの俺を、
自分をここまで育ててくれた。
前世の記憶がなければ、
そんな感情は湧かず、
当たり前に思ってしまうところだが、
ゴブリンに拐われ、それを助けて、
今日まで育ててくれた。
本当に感謝してもしきれないほどだ。
急に涙が出てきた。
「ユート、大丈夫?」
アリスがそっとそばに寄ってきて、
抱きしめてくれた。
それが本当に嬉しくて、
とても愛されいるんだなぁと感じてよけい涙が溢れた。
「お母さん、お父さん、大丈夫。
ショックじゃないよ。
ちょっと心の整理に時間がかかると思うけど。
今まで育ててくれて、
愛情を注いでくれて、
ありがとう。」
なぜか解らないけど心の底からわんわん泣いた。
しばらくしてようやく落ち着いてから、
アリスがダンを見て合図し、
ダンが部屋の奥から黒い箱を持ってきた。
「ユートはこの箱に入っていたの。
あれは15年前、
ゴブリンの討伐依頼が冒険者ギルドにあったの。
当時、私たちは冒険者としてダンジョンの探索やクエストなどいろんなことをやっていたわ。」
とアリスは昔を振り返った。
「そうだぞユート。
俺たちは鋼鉄のクライスと言う冒険者のパーティーを組んでいたんだぞ。
まぁ、昔のことだけど、
結構有名だったんだぞ。」
とダンは胸を張って自慢げに話した。
「それで、この依頼を受けてゴブリンの討伐に向かったの。
ゴブリンが群れを組んで暮らすことはよくあることなのよ。
それでそのゴブリンたちは、
周辺の村をいくつも襲って甚大な被害が出ていたそうなの。
討伐をするのに50人ぐらいの大規模なパーティーだった。
結果は、ゴブリン30匹に人間が50人。
圧倒的な人数の差でほとんどのゴブリンはなにも出来ずに討伐されたわ。
その後に、最終的に状況を確認するために周辺をいろいろ見て回った時に、
赤ちゃんの泣き声がして、
その黒い箱を見つけたの。」
とアリスは俺との出会いを話してくれた。
俺は箱をコンコンと叩いて、
ユートと書いてある字を見つめている。
アリスは俺の様子を見て
「そこに書いてあるユートと呟いたら、
箱が半分開いたのよ。」
「だからお前は、ユートと呼ばれているんだぞ。」
とダンが言った。
あー多分、転生の美女が気を利かせて前の世界の名前を書いてくれたのかな。
「それでね。
その箱をいろいろ調べてみたけど何の素材でできているかのか、
全然解らないの。」
そりゃ~そうだよね。
神様がやったことだと思うし。
俺も解らない。
今となっちゃぁ、どうでもいいし。
「でも、ユートは私たちはの息子だからね。
今までもこれからもずーっと。」
アリスは優しい顔で言ってくれた。
「ユート、お前は将来どうしたい。
この村で細々と暮らして行くのか。
それとも冒険者になるのか。
何かしたいことはあるのか?」
ダンが俺の将来を心配してきた。
俺は特に何も考えていなかったが、
引きこもり人生に舞い戻るのだけは嫌なので、
冒険者になれば少しはマシになると思い、
「冒険もしてみたい。
この村の人はみんないい人で、
この村でずうっと暮らすのも悪くないけど。
やっぱり男だから冒険に出てみたい。」
「そうか。そうだよな。
もし、ユートがこの村に居るとか言ったら叩き出そうかと思っていた。」
と憎たらしい顔をしてダンは話した。
「とりあえずユートには、
今までに剣の扱い方を教えた。
だから、祝福を受ければ、
ある程度の魔物と戦うことができると思う。
でも、ゴブリン1匹程度だがな。
世界は広い。
これから自分より強い魔物と対峙するときがあるかも知れない。
また、悪い人間とだって戦わなくてはいけない時がくるかもしれない。
自分を信じて精進し、
ユートの名前がこの村まで聞こえてくるように頑張ってくれ。
無事を祈っているぞ。」
そう言ってお酒を飲んで眠かったのか、
寝室に向かって行った。
「もうダンったらそっけないなぁ。」
とアリスは困ったようにダンを見送った。
俺は、冒険者になると言うよりは、
本来の種族、ヴァンパイアのことを知りたいと思った。
この世界には魔物がいるときいているが、
まだ、ゴブリンしか、実際のところ見たことがない。
噂では、あっちの村でオークが出たとかオーガが出たとか、
あっちの国では、
ドラゴンが出たなど噂では聞いていたが、
この眼で見ていないのでなんとも言えない。
昔話で魔女とかヴァンパイアなんかも出てくるが、
やはり人間に嫌われている内容だ。
「ユート、15才になったら協会で祝福を受けられるの」
とアリスから初めて祝福の話をされた。
子供には内緒の話だ。
「そこで詳しいお話は聞くと思うけど、
ユートは風で遊んでいるでしょ。」
ヤバい。ばれてた。
「その事については深く追求しないけど、
多分、祝福を受けた時、
他の人とは違う数値になってると思うの」
「数値って?」
「あ、ごめん。もういいや。
15才になって祝福を受けられるからね。
話しても問題ないでしょ。」
アリスは一人で納得して話を続けた。
「ステータスと言って、
自分の性能が解る一覧が見えるようになるの。」
「へぇー」
もう既に見えているけどね。
「それで?」
とりあえずアリスに聞いた。
「普通は、って言うか。
ほとんどの人はHP1、MP0なの。
その他の数値も1か0なの。
あー、言っても解んないよね。」
本当は解っているが、知らないふりをして
「うん。解らない。」
「ユート、良く聞いて。1と0。
それ以外の数字、例えば、
2とか3とかあったら絶対にしゃべったらだめ。
いい、わかった?」
「どうしてなの?」
「もし、2や3があったらその人は異質な人。
国の管理下に強制的に置かれる人なの。」
「2や3で異質になっちゃうの?」
「ごめん。
要はね、成長するスピードが早くて、
伸びしろが凄い高い人なの。
だから、国も驚異に感じて強制的に管理下に置くために体に刻印されるの。」
「刻印されるとどうなるの?」
「私も良く解らないけど、
常に見張られて、その人の力が強大になったら対応できるうちに、
殺すまではいかないと思うけど、
何か手を打たれるそうよ。嫌でしょそんなの?」
「うん。嫌だ。」
「ま、殺すまでは無いとしても、国のために働くことになるわ。」
そんなことになったら、
冒険どころじゃ無くなるし、
ヴァンパイアのことも調べられないし。
既にMPは2だし。種族がばれるのもまずいしな。
「うん。わかった。
2か3があったら教えないようにするね。」
「そうした方がいいわ。
じゃぁ今日はもう寝ましょう。
明日のために。」