アレク、ライオネル城に帰る
次の日の朝。
「おーい。アレク。城に帰ろうか。」
「え、いいんですか?」
「うん。アレクも成長して、王様の要件も済んだと思うし。
でも、あの女の子と別れることになるけどいいの?」
「いいですよ。さすがに魔物の子と付き合うことは出来ませんし。
私も城に戻ったらやりたいことが出来ましたし。」
「そうか。じゃあ、善は急げということで、すぐに出発しようか。」
「え、今すぐですか?」
「そうだよ。冒険なんてこんな感じだよ。着のみ着のまま。」
「ネロさんとかサラさんには言ってあるのですか。」
「言ってないけど。たぶん大丈夫だ。これから言うから。」
「わかりました。でも一応、村の人たちには数ヶ月世話になりましたので、挨拶をしてきますので、それぐらいの時間はありますか?」
「いいよ。挨拶してきて。あ、これ。」
俺はアレクから預かった魔法の袋を返した。
「じゃあ、すみません。それでは。」
そう言ってアレクは挨拶をしに村に消えて行った。
「さてと、ということで、アレクが戻ってきたら村をでるから、ミラ、みんなに伝えといて。」
「は~い。」
俺たちは村を出る準備を始めた。
「アレク、挨拶は終わったの?」
「はい。終わりました。」
「それじゃあ 行こうか。」
「本当に行かれるのですか?」
サブが俺たちを止めようとしている。
「うん。アレクの件ではいろいろとお世話になりました。」
「ユート殿、また、いらしてください。
そして、俺たちにも稽古をつけてください。」
「わかったよ。また今度、こっちに来たら稽古を付けるよ。」
「絶対ですからね。」
サブは俺たちのことを本当に歓迎してくれているようだ。
「じゃあね。」
「ばいばい~」
そう言って俺たちは赤オーガの村を後にした。
ライオネル城に帰る道中、アレクには、赤オーガのことと、俺たちの強さは話さないように口止めをした。
「もちろんですよ。赤オーガのことはしゃべっても信用されないし、そんなことしゃべったら変人扱いされてしまいますよ。
それに、ユートさんたちは強すぎるので、それが表ざたになると国同士でユートさんたちの取り合いってことになると思いますし。」
「え、俺たちってそんなに強いの?」
「何言っているんですか。十分強いですよ。俺の専属の騎士になってもらいたいぐらいですよ。」
「やだよ~。へっぽこ王子の尃属なんて。」
ネロは笑いながら横から会話に入って来た。
「へっぽこ。へっぽこ言うな。昔の自分とは違います。
これからの活躍を見ていてください。」
「頑張ってアレク王子。期待しているわよ。」
サラは相変わらず社交辞令が上手だ。
「ミラさんからは何かないんですか?」
初めて会った時といい、今の会話といい、たぶんアレクはミラに惚れているな。
でもミラは
「ま、頑張って。」
だって。そっけない。
ライオネル城の前まで来た。
相変わらず、検問で大勢の人が並んでいる。
「やったー。ついに帰って来たー」
アレクは本当にライネル城に帰ってきたかったみたいだ。
「相変わらず、すごい行列だね。」
そう言ってミラは行列に並ぼうとした。
「なにやっているんだよミラ。その剣の紋章を見せたらすぐに通してもらえるだろ。
しかも、こっちには王子までいるんだぞ。」
「あ、そうだった。忘れた。」
「王子を忘れたの?」
サラがすかさず突っ込みを入れた。
「え、王子。どこにいるの?」
ミラはとぼけた。
「ここにいますよ。」
アレクはちょっと涙目になっている。
「ふざけてないで、行くぞ。」
そう俺は言って人が並んでいる脇を通り過ぎた。
「あ、王子様だ。」
検問を待っている人々から聞こえてきたが、アレクは恥ずかしそうにしていた。
「あ、アレク王子、お帰りなさいませ。それとユート殿とサラ様、ネロ樣、ミラ様。お帰りなさいませ。」
と門番の警備兵から挨拶をされた。
「検問を通っていいですか。」
「もちろんです。どうぞお通りください。」
そう言ってすんなり通してくれた。
「とりあえず王様に遭いに行くか。アレクを返さないとな。」
そう言って、ライオネル城に向かった。
城下町では、この前来た時よりはだいぶ人の数が減っていた。
祭りが終わったからだ。
城の前に着いた。
城が見えた時にアレクは走り出して勝手に帰って行くと思ったが、素直に俺たちと一緒にいる。
当たり前か。大人だしな。
城の門番に事情を話し、王様との連絡を取ってもらった。
しばらくすると、お城の中から、白髭の執事が現れた。
「お帰りなさいませ。皆様。
王様がお待ちです。どうぞこちらに。」
そう言って、謁見の間に案内された。
今回、王と王妃は既に王座に座っていた。
「父上、ただいま戻りました。今回の旅はとても有意義なものでありました。」
「おうそうか。アレスなんか少し立派になったようだな。」
王様がアレクの様子を見て感想を述べた。
「ええ、ユート殿に体と心を鍛えていただきました。
もう昔の自分とは違います。これからは、国の為に働きます。」
「ほほほ~。言うようになったなアレク。
では、どれくらい強くなったか、あとで、聖騎上との戦いを見せておくれ。」
「わかりました。私の成長した姿をお見せしましょう。」
「ところで、ユート殿。エルフの森のダンジョンの件はどうじゃった?」
「無事に討伐出来ました。」
「そうか。それは良かったな。サラ姫よ。」
王様はひげを触りながら話している。
「はい。実は王様。ダンジョンからゴブリンが這い出てくる寸前でした。」
サラは流石に気品にあふれている。
「ん、大丈夫だったのか?」
「ユート殿が機転を利かせて、対応してくれたおかげで、難を逃れました。」
「ほほ~、ユート殿の活躍は輝かしいのう。どれ、わしの国に仕えぬか。」
「申し訳ございません。私は冒険者ゆえ、まだまだ色々な場所を見て回ることが生きがいでして。」
「そうか。残念じゃ。でも、お主たちは我の大事な客人でもあるし、アレクの師でもある。なにかあったらわしを頼って来てくれ。」
「有り難き幸せ。」
そう言って俺は深々と頭を下げた。
アレクサイド
城の中にある闘技場。
俺の目の前には、聖騎士が立っている。
小さいころから、俺に稽古を付けてくれて、大人になっても全然刃が断たない騎士が。
聖騎士の強さは、冒険者ランクで言うとこの、CからBだ。
俺は自称Cランクだ。
しかもこの聖騎士は騎士の中でも中盤の層の強さを誇っている。
こいつに勝てるだろうか。
でも、父に大きなことを言ってしまった手前、やるしかない。
自分を信じて。
「始め!」
聖騎士長が開始の合図を出した。
相手は、俺がいくら修業したからと言っても、数か月。
完全に舐めているのか、攻めてこない。
とりあえず挨拶代りに、剣を振った。
ガキ~ン。
あれ、聖騎士がよろけたぞ。
もしかしていけるか。
聖騎士もさっきの一撃で俺の剣の重さがわかったのか、構え直し、本気になっている。
俺はどんどん切り付けた。
ガンガンガン。
聖騎士は俺の攻撃に耐えられず、ずるずると後退しながら俺の剣を防いでいる。
「うりゃ~」
俺は、気合を入れ、聖騎士の剣を下から上に弾いた。
すると、聖騎士の剣は主の手から離れ飛んで地面に突き刺さった。
俺は聖騎士の喉に剣先を当てた。
「参りました。王子。強くなりましたね。」
聖騎士は俺を讃えた。
「そこまで!」
聖騎士長は叫んだ。
あれ、勝つちやったよ。
今まで全然勝てなかったのに。
赤オーガでの修業の成果はあったんだな。
ミラさんと戦った時は、全然強くなっていないと思っていたのに。




