アレク王子と再会する
いま、赤オーガの村を目指して森を歩いている。
特に変わったことはない。
ハクがいるおかげで、魔物にも襲われないし。
さっき、エルフの森に行く途中で落ちた川も渡ったが、今回は問題なかった。
俺が女性陣を順番に背負って。ついでにハクも。
前に川を渡った時のように魔力が切れることはなかった。
俺も特に魔物と戦ってはいないが、成長はしているみたいだ。
「アレクは元気でやっているのかな?」
「なに?ユート心配なの?」
「そりゃあ、少しは心配だよ。仮にも王子だし。」
「なによ。預ける時には適当なこと言っていたくせに。」
ちょっとミラは怒っている。
「そりゃあ、そうだけどさ。成長したかどうか心配じゃん。なあ、サラ。」
「そうね。きっと立派になっているわよ。」
そんなたわいもない話をしていると、赤オーガの村に着いた。
「よし、アレクの様子を隠れて見に行くぞ。」
そう言って、俺はアレクを探した。
あ、いた。
村の端にある家の前でアレクは、前に飲み物を注いでくれた赤オーガの女の子と楽しく話しているようだ。
俺は、アレクの後ろからそうっと近づき、相手の女の子は俺たちに気づいたが、口の上に人差し指を立てで
「しー」
とジェスチャーをして、アレクに膝カックンを食らわした。
俺の最強膝カツクンは、くらったら最後、必ず膝を地面に付けるという達人技だ。
やられた本人は、気が付いたら自分の膝が地面についている格好だ。
「クスクスクス」
赤オーガの女の子はそのアレクの姿を見て笑っている。
「誰だ!」
アレクは自分のふがいない格好に気づき叫んだと同時に振り向いた。膝を地面に着けたまま。
「がぶ。」
振り向いたアレクの顔に大きくなったハクが噛み付いた。
甘噛みだけど。
「・・・」
アレクは俺たちと気づいたみたいで、やり返すのを諦めたらしい。
「元気だったか。アレク」
俺は、アレクが無事だったので安心した。
「ユートさん、迎えに来てくれたのですか?」
「ああ」
「良かった~。このままここで暮らしていのかと思っちゃいましたよ。ユートさんたちなかなか戻ってこないから。」
「ごめん。ごめん。エルフの村でいろいろとあったからな。
お、なんかアレク。ちょっと体格が良くなったんじゃないの?」
「そりゃあそうですよ。この子に認めてもらうために頑張りましたから。」
「はぁ、何だ。その不純な動機は?」
「だって、ユートさんたちがいなくなってから、そりゃあもう、俺の待遇はひどかったんですから。
この子なんか、俺のことを無視ですよ。無視。
それとなくサブさんに聞いてみたら、振り向かせたいなら、強くなるしかない。
赤オーガの女子は、強い男が好きだ。ってだからもうめちゃくちや頑張りましたよ。」
「そっか。それで、振り向いてもらえたのか。」
「ええ、これでもおれ、今では赤オーガの村で5番目の強さですから。」
そんな話をしていると。
「おーい。ユート殿。お戻りになられましたか。」
とサブが歩きながらこっちに向かってきた。
その後ろにはホープも付いて来ている。
「おー、この度はありがとうな。アレクを育ててくれて。」
「いえいえ、それでは、こちらでお話をしましょう。」
そう言って、村の真ん中にあるホープの家、赤オーガのリーダーの家に招かれ、俺はリーダーの椅子に座らされた。
「この度は、すまん。」
ホープが頭を下げてくる。
「ん、なんで謝るの?」
「実は、アレクに怪我をさせてしまった。アレクこっちに来い。」
ホープがアレクを呼び、アレクはホープの横に座った。
「左手をユート殿にお見せしろ。」
ホープの指示に従い、アレクは左手を俺に見せた。
あ、指が2本無い。
薬指と小指が綺麗に無い。
「どうしたの?」
俺はアレクに聞いた。
「ブラックウルフを狩っている時、簡単に倒せたので、調子に乗ってしまって。
それで逃げたブラックウルフを一人で追いかけてしまった。
サブの引き返せという言葉を無視して。
そしたら俺が倒したものより一回り大きいブラックウルフが現れ、
戦ったが、簡単に押し倒されてしまって、そのまま上にのしかかられ、
手で追い返そうと思ってブラックウルフの前に手を出したらガブッと。
簡単に2本持って行かれちまった。はははあー」
アレクは笑いながら教えてくれた。
その後は、サブが駆けつけ、難を逃れたらしい。
「油断したんだな。でも命まで取られなくてよかったな。」
「ああ、この一件で、命のやり取りも理解できたし、自分もやられれば痛いとわかったよ。」
「だってさ。ホープ 本人が良いって言っているから問題ないよ。」
「そう言ってもらえるとありがたい。」
そんな話をしていると、次々と食事が運ばれてきた。さすがサブは段取りがいい。
「今夜は宴じゃ。飲むぞ!」
ホーブが叫んでいる。
俺たちが来ると宴ばっかだが、この村の食料事情は大丈夫なのか。
ちょっと疑ってしまうが、たぶん、前のリーダーの時よりは裕福になったのだろう。
俺たちも久しぶりに食べる肉を楽しんだ。
「アレク、どれくらい強くなったのか? 何だったら、ネロと戦ってみるか?」
俺は酒を飲んで酔っ払ったのか、ネロを引き合いに出してしまった。
「ネロさんとは絶対に無理です。勝てる気がしません。ミラさんだったら、いい勝負になるかも。」
「お、私か。いいだろう。相手になってあげる。かかってきなさい。」
ミラも少し酔っ払っているようだ。
ということで、即席の舞台が出来上がった。
地面だけど直径30mの赤オーガの冊が出来上がった。
ほかの赤オーガたちも楽しそうだ。
その真ん中にアレクとミラが剣を構えて、俺の合図を待っている。
「ミラさん。おれ、強くなりましたよ。怪我をしないうちに、降参してくださいね。」
「お、言うようになったわね。いいわ。私に勝ったら、王子の下で一生働いてあげる。」
そんな話を2人でしているが、実力の差は歴然だろう。
「はじめ!」
俺は開始の合図をした。
アレクは本気でミラに切りかかった。
しかしミラに既に見切られている。
そんなことも解らないのか、アレクは次々に剣を繰り出しているが、ミラに当たる気配がしない。
アレクはだんだんと疲れて来ている。
「あれ、アレクもうお仕舞なの?」
「ちょっとミラさん。卑怯ですよ。強くなる薬とか飲んだでしょ。」
「飲んでいません。って言うか、そんなのあったら飲みたいわよ。
アレクもがんばったと思うけど、私はそれ以上に頑張ったってこと。解る?」
「もういいです。降参です。まだまだ僕が甘かったです。」
「は~い。それまで。」
俺は終了を宣言した。
「でも、アレク。自分が甘かったって、わかるだけでも成長していると思うよ。これからもがんばってね。」
俺はアレクを称えた。
周りで見ていた赤オーガたちは、ミラの一方的な強さで、見世物としては面白く無く、不満があるみたいだ。
「じゃあ、次は俺が相手だ。」
そう言ってホープが前に出て来た。
観衆の赤オーガたちは盛り上がって来た。
「え、また私? 面倒くさいよ。」
ミラは嫌がっている。
「いいわ。私がやるわ。リベンジということで。」
サラが立ち上がった。
ホープが大丈夫かって顔をしている。
「おっけ~。次は、赤オーガの村を背負って立つ赤オーガのリーダー、ホープとホープに襲われたサラの対決だ。」
俺は叫んだ。
「サラ、解っていると思うけど。襲われたからって、殺すなよ。手加減しろよ。あと簡単に終わらすなよ。しらけるから。」
「解っているわよ。」
俺とサラはコソコソ話をした。
「ホープ、全力で戦っていいよ。問題ないからさ。」
ホープは本当に大丈夫かって顔をしている。
「ホープ。この前は、よくも襲ってくれたわね。お返しするわよ。」
サラが少し微笑みながら、ホープを睨んだ。
「始め!」
俺は開始の合図をした。
ホープはサラを警戒をして剣を構え、左右にジリジリと動いている。
サラは剣を上段に構え、ホープの様子を伺っている。
「グオー」
先に仕掛けたのはホープだ。
上段から剣を振り上げてサラに切り付けた。
サラは剣を横にして防いだ。
ホープは、一歩下がると、今度は次々と上下左右に剣を繰り出した。
その様子を見た観衆は「おお~」と声を張り上げた。
だが、サラは剣を器用に使い、上手くいなして行く。
ホープは、このままだと勝負がつかないと思い、一旦後ろに引いた。
「どうしたホープ。本気でやっていいんだぜ。」
俺は、ホープに発破をかけた。
「グルル~」
どうやらホープは本気になったようだ。
サラも警戒して、さらに構えに隙が無くなっていく。
ダン
音が鳴ったと思ったら、サラの目の前にホープが突進した。
魔物特有の筋肉での瞬発力だ。
ホープの直進の動きを躱すため、サラは素早く横に移動してかわした。
しかしホープはサラの動きを読んでいたのか、
サラの動きに合わせて、2段階目の瞬発力で地面を蹴り、
サラの心臓を目がけて剣を繰り出した。
「きゃ~」
サラはうまく自分の胸とホープとの剣の間に自分の剣をうまく滑り込ませ防いだが、そのまま観衆の柵に飛ばされてしまった。
「おーい、サラ。大丈夫か~。」
サラは観衆に抱きかかえられ、立ち上がった。
「なかなかやるわね。さすがリーダだけあるわ。なら、私も本気を出すわ。」
そう言って、円の中心に戻った。
「ウインドピオーラ」
サラは魔法を唱えた。するとサラの周りに風が発生したと思うと風がサラに吸収された。
「ホープ。行くわよ。」
バーーン
目にも止まらぬ速さでサラはホープに近づき、
そのまま、蹴りを繰り出し、観衆ともどもホープを吹っ飛ばした。
「あちゃ~。やり過ぎだよ。」
俺はため息をついた。
観衆の赤オーガたちも状況を理解できていない。
「てへ。」
サラはテクテクと俺の所に歩いて来て
「ごめんなさい。やり過ぎちゃった。」
だってさ。
「ユート殿。何ですかあの強さは? たしかサラ殿は私よりも弱かったはず。」
サブがこの惨状を見て文句を言ってきた。
ホープも立ち上がり、俺の所にやって来た。
「ちょっとユート殿、私にも修業を付けてださい。いくら何でもこの結果は悔しいです。」
「しょうがないんだよ。あれは魔法だ。赤オーガは魔法の適正が無いだろ。
サラが使ったのは速さをあげる魔法で、早さが上がると必然的に打撃も強くなるからな。
ま、それを使ってもサラはネロに勝てないけどね。」
ホープとサブは不満だったが、相手をするのが面倒くさいので、適当にはぐらかした。
赤オーガたちが強くなりすぎても良くないので。
アレクは思った。
なんなん。この人たちは。すごいとは思っていたが、俺を置いて戻ってきたらまたすごくなっている。
俺だって、頑張ったんだ。
最初はブラックウルフとの死闘。
指を2本持っていかれ、死ぬかと思った。
その後も、魔物がいれば戦って、いなければサブに稽古をつけてもらって、毎日、本当に頑張った。
今では赤オーガの村で5本の指に入るぐらい強くなった。
ホープとサブは別格だけど。
だからミラぐらいには追い着けるかな。
なんて思っていた。
でも違っていた。
追い着くどころか、差が開く一方だった。
これが現実か。自分なりに頑張って来たが、ミラやサラ姫から見ると俺はまだまだ甘かったってことか。
人生って楽じゃないんだな。今回の経験は本当にためになったよ。
ほんとに辛かったけど。




