ユート、エルフの村にたどり着く
やっと洞窟を抜けた。サラだけがすっごい疲れている。女って怖いな。
「なぁ、サラ。エルフの村まで、あとどれくらい?」
「あと少しよ。」
「エルフの森には、魔物は出ないの?」
「ハイエルフたちが森を制御していた時は、問題なかったけど、今は解らないわ。」
「そうか。警戒していくぞ。」
そう言ってエルフの町を目指した。
途中、遠くに黒い影が見えたが、
ハクが「わん」と言ったら、ハクに気が付いて逃げて行ってしまった。
もしかして、ハクが居るとLV上げできないな。どうしよう。
サラはともかく、ミラはLV上げしないとこれから先、まずいよな。
今は、ハクがいるから、楽でいいけど。
そう言えば、サラが、ダンジョンが出来たって言っていたよな。そこでLV上げだな。
そんなことを考えていると、どうやら村に着いたらしい。
なんで、らしいとかと言うと、見た目が森だからだ。
「サラ、着いたの?」
俺は、半信半疑で聞いた。
「ええ、ここよ。ようこそエルフの村へ。」
「あのさ、まだ、森の中じゃん。」
ネロも疑っている。
「へへ~。村に結界が張ってあって、森に見えるのよ。ここから一歩入れば、解るわよ。」
そう言ってサラは手で示した。
せっかくだから、俺を真ん中にネロとミラと一緒に手を繋いで、一歩、足を踏み入れると、
視界がぐにゃっと潰れ、風景が回転したと思ったら、
そこには不思議な景色が広がっていた。
樹齢1000年はあるであろう、大きな幹を利用してうまく人が住居出来るように、くり貫いてあり、
木そのものが、3階建ての家みたいになっている。
それがいくつもある。
すげ~と思って見ていたら、エルフの村の住人と思われる人が10数人、
こっちに向けて矢を構えている。
既に俺たち3人はロックオン状態た。
「どうする?」
俺はネロとミラに話かけた。
「ちょっとサラが来るまで待ちましょう。」
ミラが言った。
にらみ合いが続いている中、サラが現れ、俺たちの前に出てかばった。
「何しているの。大事な客人に。弓を下して。」
サラは大声を出した。
「何だ、サラ姫か。」
そう聞こえてくると弓を構えていたエルフたちは、警戒を解いた。
すると、奥から杖を持った長老らしき人が現れた。
俺らに近づくと
「サラ、こやつらが、ダンジョンを討伐してくれる者たちか? 」
「ええ、そうよ。ユートさんよ。」
「初めまして、ユートと申します。
こちらはネロとミラです。でこいつがハクです。」
「おお~!」
エルフたちから、どよめきが起こった。
「お主、なぜ、守り神を連れている?」
「これは、ホワイトウルフで、守り神ではございません。」
そう俺が言うと
「なんて、罰当たりなことをしている。」
「え、守り神って、あの洞窟に居た守り神のことではないのですか?」
「なに!あそこを通れたのか。ん~ん。解らない。」
「サラ、どういうこと?」
俺はサラに聞いた。
「私は知らないけど、今の話の流れだと、お父様が言うには、
あのエルフの守り神はホワイトウルフよ。」
「なに!」
俺はハクを見た。
俺の目線に気づいたのか、ハクは顔を下に向けてバツの悪そうな態度を取っている。
ハクめ~。
「お父様、この子ハクは、ユートさんを主と認め、ユートさんの血を受け入れたの。」
「そうなのか。だったら問題ない。ホワイトウルフが認めたんだな。
ん、そっちの女子は、いやいやなんでもない。」
そう言って村長は、ネロから視線を外した。
「とりあえず、ここではなんなんで、どうぞこちらに。」
そう言って村の中に入って行った。
村長の家に向かう途中、村に居る男のエルフと女のエルフを見たが、
地球でよくエルフは美男美女というが本当にその通りだ。
しかも、年を召したおばあちゃんなんていない。どう見ても、みんな30才以下に見える。年齢は相当高いはずなのに。
サラが綺麗だったから予想は出来ていたけど、
実際に見るとなんか世界が違うな。
こんなところには居たくない、住みたくないなって気持ちになる。
普通の男には地獄だな。
でも何人かの女の子が俺に向かって手を振って来た。
はぁ、きっと珍しいものでも見ているなんだ。
つらいな、ここは。
俺は下を向いてサラの後をついて行った。
村長の家は、村の中央にあり、他の木よりも一回り大きい木の中にあった。
入って見るとそこは、12畳ぐらいの広さがあり、足の短い机と座布団みたいなものが敷いてある。
奥にはひと一人が登れる、細いらせん階段があり、2階へと続いている。
「これは、これは、こんな辺鄙なところまで、ようこそおいで下さいました。
こちらにお掛けください。」
俺とネロとミラは座布団に座った。
サラは村長が座っている後ろで立っている。
その他に4人ほど、村長の後ろのに立っている。
サラに似ているので身内の人なんだろう。
村長が語り出した。
「サラに聞いていると思うが、このエルフの森は存亡の危機に面している。
原因は、ここから少し行ったところに出現したダンジョンだ。
そこから出ている魔力で、一人、また一人とハイエルフたちが眠りから覚めている。
先日も4人目が目を覚めました。
全部でハイエルフは10人いるが、
眠りから覚めるスピードがだんだんと早くなっています。
もう時間がありません。ですので、ホワイトウルフ、森の守り神が認めた、ユートさん。
どうか。ダンジョンを討伐していただきたい。」
「あの~、ダンジョンの討伐って?」
俺は知らない。ダンジョンの討伐方法を。
村長は、俺の顔を見て、こいつで大丈夫か、って顔をしたが解りやすく教えてくれた。
「ダンジョンは、世界中どこでも発生する可能性があります。
ですが、数としてはそんなに多くありません。
しかも発生したら そこに魔力が溜まっているため、見つけることも容易です。
ですが、太古の昔からあるダンジョンは、規模も大きくて深いため討伐は困難です。
しかも、ダンジョンをそのまま放っておくと、魔物が出て来てしまい、地上にいる生き物すべてに甚大な被害が出ます。
昔、人間の世界で、ダンジョンからゴブリンが一匹這い出て来て、
一国の城がつぶされたという話を聞いたことがあります。」
「え、ゴブリンが?」
「そう、ゴブリンです。
ダンジョンは下の階に行けばいくほど魔力が強くなり、魔物も強くなります。
ですので、浅い層の魔物は魔力が小さく弱いです。
それが地上に出ると、なぜだか、とても強くなります。
そうして、地上に這い出た魔物は、人間を襲って、人間がダンジョンにやってくるように危機感を持たせます。
もし、ダンジョンが発生して、そのままにしていても、危険が無ければ、たとえ、宝箱が出ても、命の危険を冒してまで取りに行こうとは思わないでしょう。物好き以外は。
たぶんそうすることによって、
地上にいるすべての生物に危機感を持たせて、ダンジョンを無視できないようにしているんでしょう。」
「でも、普通のゴブリンとダンジョンのゴブリンって見分けが付くのですか?」
「ダンジョンの魔物はすべて目が赤いです。
ですからその時のゴブリンは目が赤かったと聞いています。」
「そっか~。ちなみに宝箱はダンジョンにあるのですか?」
「ありますが、基本は落ちてはいません。魔物を倒した時に現れます。」
「なるほど。っていうことは、ダンジョンは人間を誘っていると?」
「その様です。もちろん、下の階層に行けばいくほど魔物は強くなりますが、
魔物からドロップする宝箱も貴重な物になって行きます。
でも、ここのダンジョンは、発生してからそんなに時間が経っていないため、5階層ぐらいですよ。そこにいるダンジョンマスターを討伐したら終了です。」
「調べたんですか?」
「いや、今までの経験からするとだいたいそんな感じです。エルフはダンジョンに潜れません。
エルフはダンジョンの魔力に当てられると毒に犯されたようになり、やがて死んでしまいます。
でも安心してください。案内はサラが行います。」
「え、サラも危険でしょ?」
「あ~、サラなら大丈夫です。
サラは人間とエルフのハーフですので、魔力の耐性があります。
この村に来るときにも、エルフの守り神の所を通ったでしょ。あそこも一応ダンジョンです。」
「へ~、サラってハーフなんだ。」
でも、たしかステータスは種族でエルフだったよな。
例えば、エルフ(人間とハーフ)ってステータスに表記してあったら、クウォターはどうなるんだろう。
しかも、エルフと人間の子がハーフで、それとヴァンパイアが結婚して子供が出来たらどういう表記になるんだろうと考えると、きっとより近い方の種族になるんだな。
なんて、勝手に考えた。
しかもなんでサラだけが人間の町に来たのかも納得が行った。
「わかりました。それでは私たちが挑戦します。
ですがそんなに準備をしていないので、
時間がかかると思いますが、
期限はありますか。」
「装備については、村にあるものを使ってくれ。
期限については、ハイエルフの6人目が目覚める前までに討伐を行ってくれ。」
「わかりました。」
「それではその間、お主らが寝泊まりする場所を案内する。
なにかあれはサラに申し伝えよ。サラ、案内してくれ。」
「わかったわ。お父様。」
そう言って、平屋の小屋を案内された。
「ここに私も住んでいるのよ。」
「あれ、サラ。サラはエルフたちが暮らしている木に住んでいないの?」
「そうなのごめんね。あれは、エルフ専用なの。だから私も住んだ事がないの。」
「はぁ~? なんでサラが?」
ミラは怒っている。
「私ね。さっき聞いたと思うけどハーフなの。
お父さんと人間の間の子どもだから、
古参のハイエルフたちは、私を認めてくれないの。
お父さんも、人間との子供を作ってしまったから、ハイエルフになれないの。」
「サラ、それって生まれてからずぅーとなの?」
俺は聞いた。
「うん。生まれてからずぅーと。もう慣れちやった。」
サラは遠い目をしている。
「なんかむかつくな。」
「そうね。むかつくわね。」
俺の言ったことに賛同してくるネロ。
「サラ、この件が済んだらさ、俺たちと一緒に旅に出ないか?」
「そうよ。こんなところに居るより4人で楽しく旅をしましょう。」
ミラも賛同し、ネロも頷いている。
「ほんとに うれしいわ。ありがとう。でも、お父さんがなんていうか。」
「とりあえず、ダンジョンの件が済んだら、話してみなよ。無理だったら、俺が攫うよ。」
「うん。大丈夫よ、きっと。ちゃんと説得するわ。ありがとう。ユーちゃん。」
「それで、サラはどこで寝るの?」
「みんなが迷惑じゃなければここで。」
「なに言っているの。全然迷惑じゃないわよ。」
ミラが優しくサラに言った。
「よし、明日は準備で、明後日からダンジョンに潜るぞ。因みに最初はミラのLv上げね。」
「いや~。かわいそう! ミラ。」
ネロはミラの肩をトントンと叩いて顔がニヤけている。
「ミラちゃん。頑張って。」
サラも他人事のように言っていたが、
「もちろんサラもだ。」
「え~」
「え~じゃない。」
「さっきまでユーちゃん 優しかったのに。」
「それとこれとは、別。ホープよりは強くならないとダメ。」
「ちょっと 魔物と比べないでよ。」
「何言ってるんだい。ホープに襲われてボロボロだった癖に。」
「む~。」
何とかサラを無理やり納得させた。
「ミラ、お前も俺に助けてもらってばかりじゃ嫌だろ。」
「何、言ってんの。私は望むところよ。」
「おお~、さすがミラ。ネロもサラもこのやる気を見習ってほしいな。」
「ミラの自信はどっから来るの? 弱いくせに。」
ネロがミラに悪口を言った。
「行ったな。ネロ。覚えてらっしゃい。
絶対ネロより強くなってやるんだから。」
そんな話をして夜は更けて行った。




