エルフの守り神
「さぁ、この山を越えたら、エルフの森よ。あともう少しよ。頑張りましょう。」
そう言って、サラは目の前の山を指差した。
俺たちは今、森抜け、少し開けた場所にいる。
その場所は木は生えていなく、最大で3メートル大の岩や大小の石がごろごろ転がっている。200m先には山がある。
山って言うか、岩だな。しかも天然の壁だ。
なんか、エルフの森に簡単に行き来できないようになっている。
上には見たこともない鳥というか、魔物が飛んでいる。
たぶんあれはかなりデカいな。羽を広げたら人間よりデカいんじゃね。
登れなくはないと思うが、あの空を飛んでいる魔物も気になる。
「なあ、サラ。これを登るのか?」
「私は無理よ~絶対。」
ネロは上を見上げて諦めている。
「よし!」
とミラは気合を入れている。
「へへ~、ビックリした? 私だって、こんなの登れないわよ。
こんな山を登ったら命がいくつあっても足りないわよ。
ほら、山の中腹あたりで何匹か飛んでいる魔物いるでしょ。
ワイバーンよ。さらに、その上。
頂上付近にいる鳥がね、ファルコンよ。あ、あれよ。見て。」
そう言われ、サラの指をさす方向をみると、茶色く、
ワイバーンより一回り大きい、鷹みたいな魔物が、
ワイバーンの更に上空を旋回して、雄大に飛んでいる。
「うわ~、大きい。」
ミラが感動している。
そんなこんなで、ファルコンを眺めていると、山の中腹にいる黒い影が一匹、俺たち4人に向けて飛んできた。
「なあ、サラ。こっちになんか向かって来ているぞ。」
「見つかったわ。やばい、逃げるわよ。早くこっちに付いて来て。」
サラは、山に向かって走り出した。
「サラ、逃げ切れるのか? 戦った方がいいんじゃないのか?」
「だめだめ。そんなことしたら、何十匹というワイバーンの仲間が押し寄せてくるわよ。
大丈夫。エルフしか知らない秘密の洞窟があるから、そこからエルフの森に向かうわよ。急いで。」
俺たちはサラに案内されながら、大きい石と石との間を颯爽と走り、その秘密の洞窟を目指している。
「まだか、サラ。もう少しで追いつかれるぞ。」
振り返ると、一匹のワイバーンの後ろを数十匹のワイバーンが後から迫ってきている。
「まずいぞ。サラ、数がスゲー増えたぞ。」
「もう少しよ。あそこよ。」
サラが指をさした場所には岩があった。
「おい、サラ、岩しかないぞ。」
「その裏が洞窟になっているの。急いで。」
俺たちは、岩をよけて、洞窟に入った。
「何とか間に合ったな。ん、ミラは?」
「いないよ。」
ネロはキョロキョロとミラを探ししている。
「まずい。」
俺は、ミラを探しに洞窟を出た。
ミラのすぐ後ろをワイバーンが追いかけている。
「ミラ急げ~」
俺は、叫びながら、かまいたちを放った。
しかし、ワイバーンに当たる前に俺のかまいたちが飛散した。
「何だ、どうしてだ。じゃあこれならどうだ。ファイヤー。」
火の玉がワイバーン目がけて飛んで行った。
「きゃあ」
ミラは火の球が自分に当たると思って走りながら身を低くした。
それはまさしくミラの頭にワイバーンが噛み付こうとしていた瞬間だった。
ちょうど、ワイバーンが口を開けたところに俺の火の球が口に当たった。
その当たった勢いでワイバーンは後方に吹っ飛び、後ろから来ているワイバーンを数体巻き込んでいる。
「ありがとう。ユート。」
ミラは俺の横を通り過ぎ、洞窟に入った。俺もその後を追った。
「危なかったな。ミラ。」
「また、助けて貰っちゃったね。」
洞窟の外では、ワイバーンがギャーギャー騒いでいるが、入り口が狭いので洞窟の中には入ってこれない。
「サ・ラ~、ワイバーンが襲ってくるって、先に言ってよ。」
「だって、みんなが、山とか鳥とか見て感動しているから、忘れちゃって。ごめんね。」
「ま~みんな無事だからいいけど。この洞窟もなんか出るんじゃないの。真っ暗だし。」
「たぶん大丈夫よ。私がこっちに来た時、問題なかったし。」
「それもそうか。でも、明かりはどうする。」
「大丈大よ。少し行くと明るくなるから。」
そう言ってサラは洞窟の奥に歩きだした。
ん、明るくなるってどういう意味だ。
マグマでも流れているのかな。
そう思いながら暗い道を歩いて行くと次第に壁から緑の淡い光が発生している。
不思議だったのでよく見ると、どうやら石が発光しているみたいだ。
「わ~、きれい。」
ミラとネロは洞窟を見まわしている。
俺も見渡してみると、真っ暗の中に大小の緑の光が点々としていて、
まるで星空みたいだ。しかも緑の星。
「この光っているのが、発光石と呼ばれているの。
でも、洞窟から外に出すとまったく光らないの。
普通の石になっちゃうのよね。不思議な石よ。」
とサラが説明した。
その緑の点々とした光は奥に進めば進むほど多くなり、しまいには、
洞窟の壁、天井、足元とすべてが緑に光っており、少し離れていてもみんなの顔が確認できるくらい、明るくなった。
なんか嫌だな。地球で緑に光るって、ウランだよな。しかも高純度の。
でも、さっきサラが洞窟の外に出したら消えるって言っていたし。問題ないだろ。
そう思いながらどんどん進んでいった。
かなり歩いたと思う。急に大きな広場みたいなところに出た。
するとハクが駆け出した。
「おい、どこへ行く!」
そう言って、ハクの向かった先を見ると、体長10m以上はある、大きな白い物体が居た。
「何だよ。あれは!」
俺は、恐怖を感じて止まってしまった。
もちろんネロとミラもだ。
「あああ~やばい。逃げるわよ。」
ネロは来た道を走り出した。
その時、ミラに肩が当たり、ミラは尻餅をついて
「ああああ~」
と大きい白い物体を見て震えている。
俺は、説明を聞くためサラの方を見た。
「あれは、エルフの守り神。大丈夫よ。」
サラは俺たちに安心するように言った。
「守り神って言ってもなあ。怖すぎるだろ。」
そう俺が言ったとき、その守り神が目を開けて俺たちを見た。
やばい。殺される。
俺は目をつぶり、死を覚悟した。どのくらいの時間だったのだろう。
たぶん1秒ぐらいだと思うが、すっごい長い時間に感じた。
でも、特に襲われたりしていない。恐る恐る目を開けてみると、さっきと状況は変わっていない。
白い物体は目を閉じて寝ている。
「サラ、あれは無いだろう。」
「だって、まさか、目を開けるなんて思っても見なかったし。
私がここを通った時は寝ていたし。」
サラも震えている。ネロとミラを見たら、なんか二人で抱き合って震えているし。
俺だって、死んだと思ったし。
すると、ハクが戻って来た。
「主、通っていいって。」
ハクが俺の頭に話かけてきた。
「主、ここは本来エルフしか通れないんだって。
でも、サラ姫と一緒だからそのまま通そうと思ったんだけど、
ヴァンパイアと魔女と人間という珍しいPTだったから、好奇心で見たんだって。」
「え、見ただけ?」
「そう、見ただけ。」
「おれ、殺されると思ったんだけど。」
「それで、害は無さそうだから通っていいって。」
「そうだ、ハク。俺の正体は、ばれたのか?」
「大丈夫。ちゃんと内緒にしてって言っておいたよ。」
「大丈夫なのか?」
「うん。約束してくれた。」
「そうかって、なんでお前、あの守り神と話せるんだ?」
「だって、ウルフ系の守り神でもあるし。
でも、ホワイトウルフだけだよ。意思の疎通ができるのは。」
「そうか。良かったよ。殺されなくって。」
白い守り神はまた眠っている。
「じゃあ行こうか。」
俺は、声を出し、みんなに指示を出した。
「大丈夫なの。ここを通って?」
ネロはミラに抱き着きながら心配している。
「大丈夫よ。エルフの守り神だから襲ってこないわよ。」
サラが説得しているがネロとミラは信用していない。
だって、俺もそうだったけど相当怖かったもん。
「大丈夫だ。ハクも大丈夫と言っているよ。」
俺がそう言うとハクが
「わん」
と小さい声で吠えた。
「ハクが言うなら信じるわ。」
そう言ってミラとネロは立ち上がった。
俺たち4人は、びくびくしながら、その場所を通り過ぎた。しばらくして、
「ちょっとサラ。なんなのよ。あれは。あんなのが居るって一言も言っていなかったじゃないの。」
「そうよ。そうよ。」
ネロとミラは安心したのか、サラに詰め寄った。
たぶん聞かないと心の整理がつかなかったのだろう。
「ごめんなさい。私も何度かここを通ったことがあったけど、
いつも守り神は寝ていたし。この前も寝ていたから大丈夫かなぁと思って。」
「なに言っているの。とりあえず教えなさいよ。魔物がいるって。死ぬかと思ったんだからね。」
ミラはかなりご立腹だ。
「サラ、エルフの守り神つて、ホワイトウルフなの?」
「たぶん違うわ。似ているけど」
「そうか。で、まだなんか隠していないよな。」
そう言って、俺はネロとミラに目で合図を送った。
こちょ、こちょ、こちょ。
ネロとミラはサラの体をくすぐり出した。
「あんた、まだ、なにか隠しているでしょ。」
ネロの目が恐い。
「ここよ。きっと。」
ミラも許さないらしい。
別に物理的に隠している訳じゃないけれど、
お仕置きだな。こちょこちょの刑。
「ごめんなさ~い。もうしませ~ん。助けてユーちゃん。」
サラは笑いながらひいひ~言って俺に助けを求めてきたが、
ネロとミラが満足いくまで俺は見ていた。




