アレク、赤オーガの村に留まる
次の日、俺たち5人は出かける準備をしている。もちろん、アレクだけには話していない。
「そろそろ出発するか。」
そう俺は言って、腰を上げた。他の4人も俺に合せて、立ち上がる。
ホープとサブは俺たちを村の出口まで見送ってくれた。
「それじゃあ、行ってくる。こいつをよろしく頼む。」
「ふむ。」
といってサブはアレクを羽交い絞めにした。
「え、え~」
アレクはかなり戸惑っているみたいだ。
俺はアレクに近づき魔法の袋を取り上げた。
「アレク、俺たちが帰ってくるまで、この村で暮らして待っていろよ。
ホープとサブの言うことを聞かないと死ぬからな。わかったな。精進しろよ。」
「そんな~。こんな魔物の村に置いて行かないで~。せめて魔法の袋は置いてって。」
「あ~。もうその考えが間違っている。
いい加減にしろ。お前は弱い。
しかも、自分以外のものに頼り過ぎだ。
一から出直せ。
いいか、勝手に赤オーガの村を出たら他の魔物に殺されるぞ。
だからお前は、魔物であっても赤オーガたちに、今はすがるしかないだろ。
何もできないんだから。
助けてくれる者を魔物なんて呼ぶな。わかったか。」
「でも~」
アレクはマジで泣いている。この後の自分の事を心配して。
「迷惑をかけるがよろしく頼む。」
ホープとサブに俺はそう言って、アレクを除く4人で、赤オーガの町を後にした。
「置いて行かないで~」
後ろからアレクの泣き声が響いた。
まだ、俺たちは森の中を歩いている。魔物には出会っていない。
たぶんハクがいるからだろう。
「アレク王子を置いて来たけど、ほんとに大丈夫なの?」
ミラがたぶん王子の世間体を気にして心配している。
「大丈夫だと思うよ。赤オーガって見た目は怖いけど、案外、人間っぽいとこあるし。
サブはサラと話していて、何とか意思の疎通ができるし。
それに、アレクは赤オーガの可愛い女の子からお酒を注いでもらってご満悦だったし。」
「いいじゃん。いいじゃん。
もし王子が死んだらみんなで逃げましょう。」
ネロは相変わらず適当だ。
「それもそうね。ユーちゃんと一緒ならライオネル王国も怖くないわ。」
「おいおい。どう考えたって、一国と争うのは無理でしょ。
それにこの前、城に居た、あの執事。相当強いよ。
たぶんあんなのがうじゃうじゃいるんじゃないの。」
「え~ユーちゃんでも倒せないの?」
「たぶん、今は無理。」
「そっか。それじゃ逃げるしかないね。」
「そうだね。」
そんな話をしながら歩いていると前方に大きな川が流れている。
「サラ、ひょっとしてこの川を渡るのか?」
「そうよ。これを渡らないとエルフの村には着かないわ。」
「ひょとして、こっちに来るとき、川を渡ってからすぐに赤オーガに襲われた?」
「そうだけどなんで?」
「ほら、助けた時に泥でぐちょぐちょだったから。」
「そうだったわね、ユーちゃん。私の裸をまじまじと見ていたわね。」
「なんで今そんなこと言うの?」
俺はあたふたした。
「からかうの面白いから。」
俺っておもちゃか!
「それじゃあ、行くわよ。」
そう言ってサラは川に向かって歩き出した。
「ちょっと待った。」
俺はサラを呼び止めた。
「そう言えば俺ってさ~。空飛べるんだよね。なぜか高くは飛べないけど。」
「そう言えば、私のことをおんぶして飛んでいたわね。」
ミラがゴブリンの時の事を思い出したようだ。
「でも、あの時よりもミラは重たくなっているから、飛べるかな。」
「何よ。私が太ったようなこと言わないで。普通に成長しているの。あの時は確か6才の時でしょ。」
「そうだった。ごめん。ごめん。」
俺もミラをからかった。
「じゃあ私、一番。」
ネロが手をあげている。
「私、2番。」
次はサラだ。
「じゃあ私、最後で。」
最後はミラだ。
まず最初にネロを背負った。もちろん俺の手はネロのお尻だ。ってそんなことはいい。
「ウインド。」
風が俺を包み浮き上がった。
「よし、渡ろう。」
そう言って俺は、川の上を宙に浮いて渡っている。
川の幅は25mぐらいだ。
ネロを向こう岸に運び、また飛んで戻ってきて、今度はサラを背負って飛んだ。
やばい。かなりキツイな。さすがに成人を背負って飛ぶのはつらい。ミラまで持つかな。
そんな心配をしながら、ミラの番だ。
「大丈夫。顔色悪いわよ。」
「たぶん、ぎりぎり行けると思う。任せて。」
そう言ってミラを背負って飛んだ。
かなりふらついていたので
「もう少しよ。頑張って。」
とミラが心配そうに声を掛けてくる。
「お~」
気合を入れつつ、やっぱ無理かも。
と思いながら頑張って飛んだが、気を失った。
目を開けると、3人が俺の顔を心配そうに覗き込んで見ていた。
「大丈夫? ユート。」
俺の顔を上から覗くようにミラが心配してくれた。
たき火からは、ぱちぱちと音が鳴り、温かい空気が辺りを包んでいる。
あ~たぶんMPが限界になって気を失い、川に落ちて、ミラが助けてくれたのかな。
ミラが俺のおでこに手を当てている。
子どものときにはよく気絶していたが、最近は気絶することが無くなって、油断していたな。
まさか、人を乗せて飛ぶのに気絶するほどMPを消費するとは。
最近は鍛練もしていないし、俺も、鍛えないとまずいな。
あ、この状況は、ミラの膝枕だ。なんかいいなぁ、膝枕。
初だよ。初。
「ユーちゃん、これ飲んで。」
そう言ってサラは小瓶を取り出した。
ミラに頭を支えられ、俺は口を開けた。
「ごくっ」
まずい。
「何これ?」
「これは、魔力の回復薬よ。まずいでしょう。」
「まずいよ。」
「でも、少しはよくなったでしょ。」
「うん。だいぶ良くなった。ありがとう。」
そう言って、俺は起き上がった。
たき火の周りには、俺たち4人が座っている。みんな服がビショビショだ。
3人に話を聞くと、俺はミラをおんぶしてあと2mぐらいの所で、
気を失って川に落ちたらしい。
それを心配したのか。ネロもサラも川に飛び込んで俺を助けてくれた。
「結局みんな濡れちやつたね。」
サラが笑いながら言った。
「ごめんね。みんな。結局濡らしちゃつたね。」
「いいわよ。別に。普通は飛べないものね~、みんな。」
「そうだよ。」
と許してくれた。
あ、そうだ。いいこと思いついた。
俺は、左手にファイア、右手にウインドを唱えた。
今、はやりのPPAP。
「うっ」
ド·ラ·イ·ヤー 。
俺の左手と右手の真ん中から暖かい乾いた風が出ている。
これを俺の横に座っているネロに向かってかるく風を当てた。
「暖か~い。」
ネロは髪がなびいて、嬉しがっている。
髪や洋服を乾かすのに少し風を強くしたら、だんだんとネロの洋服が乾いてきた。
これは濡れた時に乾かすのに使えるなと思い、
調子に乗って、もう少し風を強くした。
そうしたら、ネロのスカートがめくりあがり、綺麗な足が見えた。
「あっ」
ネロは慌てて、両手でスカートを押さえつけた。
「またやったな。ユート君のスケベ。」
他の2人の目も怖い・・・・。
ちなみにハクは、自分で泳いで渡ってきそうだ。
ブルブルとやって、体の水を弾き、今はたき火の前でまったりとしている。




