アレク王子、赤オーガの村に行く
次の日の朝、俺たち4人は、城の前で王子樣を待っている。
「なかなか王子、出てこないじゃん。逃げたんじゃないの?」
ネロは文句を言っている。
「まったくしょうがないな。」
そう言って俺は、門番の所に行き、剣の紋章を見せ、王子を連れてくるように伝えた。
「え、アレク王子のことですか。問い合わせて見ますので、しばらくお待ちください。」
と言って門番は城の方に走って行った。
30分ぐらい待ったかな。
やっと城から出てきたアレクは重装備で固めている。
銀のプレートメイルが、朝日に当ってキラキラと輝いている。って言うかまぶしい。
「もうなんなのあいつ。」
ネロはちょっと迷惑そうだった。
「待たせたな、ユート。では、まいろう。」
「ちょっと待ってアレク。その鎧いらない。」
俺は、アレクの装備を全否定した。
「は? どうして。これからダンジョンの討伐だろ。必要ではないか?」
アレクはあたかも俺の考えがおかしいと思っている。
「あのさ~。ダンジョンの討伐だけどさ。ここからどれくらい歩くと思っているの?
そんなの着ていたら、邪魔。というか、もしかしてずっと着ている訳?」
「ああ、道中も魔物に襲われるかもしれないしな。準備は大切だ。」
「バカ。」
後ろでミラが、ぼそって言った。
「誰がバカじゃ~。わらわに向かって。不敬罪だ。」
「もう、朝っぱらアレクうるさ~い。
俺の命令だ。その鎧は置いてこい。
まさか、俺の言うことが聞けないのかな?」
「わかったよ。じゃあ置いて来るからちょっと待ってて。」
そう言って、城に走っていった。っていうか普通に歩くよりも遅いが。
本人は一生懸命走っているつもりだ。
「あらら、アレク王子は、籠の中でぬくぬくと育ったんだね。」
サラは仕方がないと思っているが、
「は~。先が思いやられる。」
ミラは不安みたいだ。
アレクは、30分ぐらい経ってやっと出てきた。今度は普通の格好で。腰には剣と袋を下げて。
「なあ、その袋は、魔法の袋か?」
俺はアレクに聞いた。
「そうだ、これから長旅に出るからな。いろいろ入っている。」
「あ、それ、あとで没収な。」
「え、それだけは勘弁してください。」
「だめだ。そんなの持っていたら、修業にならないから。
もちろん、修業が終わったら返すからな。」
そう言って俺たち5人はエルフの森に向かって歩き出した。
城下町を出る時にアレクから
「あれ、馬で行くんじゃないんですか。」
と聞かれたから
「歩きだ。」
と答えたら
「え~、そんな~」
ってアレクはとても残念がっていた。
ミラの馬は、そのまま、馬屋で預かってもらっている。
「サラ、来た道を戻るから案内して。」
「ええ、わかったわ。」
「あの~エルフの森はあっちじゃないんですか?」
アレクは道になっている方を指さして言った。
「いいの。いいの。こっちの方が近いから。」
そう。一応、ライオネル城からエルフの森の方に行く道はある。
だけど安全な道なのでかなり遠回りだ。
しかも馬があれば早いが、徒歩だとどれくらいかかるか解らない。
だから、森を抜けるコースだ。
もう丸一日くらいライオネル城に来るときに歩いた道を進んでいる。
その道中、ミラは結構アルクに話かけていた。たぶん、いろいろな情報を得るために。
そんなところがミラはすごいなあと思った。
ネロはアレクに無関心だ。
「こっちよ。」
サラが道から森の中に入って行った。
俺とミラはサラの後をすぐに追ったが、アレクが入ろうとしない。
「ユートさん、森の中に入ったら危ないですよ。」
そう言って、森に入ることをためらっている。
「アレク。早く来い。」
俺は急かしたが一向に森に入ろうとしない。
「ドン」
ネロがアレクのお尻を蹴ったのだ。
その勢いでアレクは森の中に入った。
「いちいち、面倒さい男だね。早くおいき!」
「おのれ~、俺の尻を蹴ったな。お父さんにも殴られたことないのに。お前は、絶対に死刑にしてやる。覚えていろ。」
と王子の威厳を使ってネロに反抗してきた。
「そうだアレク。このパーティーでは、お前が一番下っ端な。」
「え~おれ、王子なのに。」
「別にここでは、王子は関係ないし。」
ネロは当たり前の様に言った。
「どうして、俺がこんな女の下なんだ?」
まだ、食い下がるアレク。
「お前が一番弱いから。何だったらネロと戦うか?」
俺がそう言ったらネロの目がす~と細くなって、アレクを見た。
アレクはその目線に気づき、さっきまでの威勢がどこかに飛んでいってしまったようだっだ。
しばらく森を歩いていると、
「おい、みんな隠れろ。」
俺は緊張感を漂わせて言った。
俺が、遠くの方を指さすと、白い魔物がこっちを見ている。
「ホワイトウルフよ。なんでこんなところに!」
ミラがみんなに聞こえるように話した。
ネロとサラはハクだと気が付いたようだ。
だが、ミラとアレクはそのことを知らない。
「まずいわ、私たちが見つかって、襲われたら、全滅するわよ。」
ネロは俺の話に乗っかって来た。
「誰かが囮になれば、他の4人は助かるわよ。」
とサラが言った瞬間、みんなでアレクの方を見た。
「え、俺ですか。勘弁してください。仮にもライオネル王国の王子ですよ。
普通は俺を助けるために、みなさんが盾になるんじゃないんですか!」
「いや、でもしょうがないよ。ホワイトウルフが相手じゃ。俺の方から王様にはうまく話しておくからさ。」
「いやいや、それはだめでしょ。ユート。いくらなんでも。」
「そうか。ならミラがアレクを助けてやれ。」
「え~、無理よ~。」
「だってアレクと仲良かったじゃん。」
「別に仲良くしてないわよ。」
「じゃあ、よろしく。」
「ちょっと、ユート~」
ミラは不満そうだったが、俺とネロとサラは猛スピードでその場から逃げ出した。
ミラとアレクはその場で、置いてけぼりだ。
そんな2人の様子を見るために、俺たち3人は木の物陰に隠れて見ている。
ホワイトウルフは少しずつ、ミラとアレクに 近づいている。
よく見るとなんか一回り大きい。
ハクも俺たちの茶番に気が付いたようだ。かなりの殺気を放っている。
なんかやり過ぎじゃないかと思っていると、アレクはミラの腰に手を回し、腰を抜かしている。
「ちょっと離しなさい。戦えないじゃないの!」
ミラはかなり焦っている。
「ひ~。もうだめだ。殺される~。助けてお母さ~ん。」
アレクは泣き叫んでいる。
ホワイトウルフは、二人の前をうろつくと、ミラにジャンプして襲いかかった。
ミラは剣で一撃を受け止めたが剣は飛ばされ、
ミラはそのまま後ろに倒され、ホワイトウルフに両手を足で抑え込まれた。
「うわあああ」
アレクは腰を抜かし、座りながら後ずさっている。
ホワイトウルフはミラの顔をめがけて、大きな口を開けた。
「ためだ。やられる!」
ミラは目をつぶり、死を覚悟した。
だが、一向に痛みは無い。恐る恐る、目を開けると、顔を舐められた。
「うわ。どういうこと!」
先ほど死を覚悟したのでテンションが高く声が大きい。
「く~ん」
ホワイトウルフは怖がらなくてもいいよみたいに言っている。
ホワイトウルフはミラの体からどいて、
ミラの上半身が起き上がったところで、
俺たちは、ミラとアレクに近づいて行った。
「ハク、久しぶり会いたかったよ~。」
ネロはハクに抱き着いている。
「ちょっと。どういうこと?」
安心したのか、怒っているのか複雑な感情で俺に聞いて来た。
「このホワイトウルフ、俺の仲間でハク。よろしくな。」
「はあ?。仲間ってどういうことよ。っていうか、だましたわね。」
「最初は騙すつもりは無かったんだけど、
ネロとサラとハクが俺の話に乗って来たから、
引くに引けなくなって。」
「私は、ユーちゃんの指示に従っただけです。」
サラがあたかも、俺が発案者みたいなことを言っている。
「私も私も。ユート君の命令です。」
ネロまで。
「わんわん。」
ハクまで もうこいつらずるい。
「ほんとに怖かったんだからね。
昔のユートだったら助けてくれたのに、
今回は見捨てるように逃げて行ったし、
ユートの性格、変わっちやったのかなって。
それが一番怖かったわよ。」
ミラは泣き出した。
「ほんとごめん。悪ふざけが過ぎたよ。
もうこんなことしないからさ。」
そっと俺はミラを抱きしめた。
「ほんとだからね。もうしないでね。」
「解った。」
そう言ってミラから離れた。
次にミラはハクの方に近づきハグの頭をなでなでしている。
「く~ん」
ハクはごめんねと言っているようだった。
で、アレクは、この状況が理解できたのか、恐怖心から戻って来た。
ミラが仲良くホワイトウルフと遊んでいるので、触っても大丈夫だと思い、手を伸ばしたら
「がるる~」
と威嚇されて、また腰を抜かしてしまった。
たぶんハクはワザとだし、女好きだ。
そんなこんなで、アレクが歩けるようになるのに1時間ぐらいかかった。
それから、さらに森の奥に行くと、見覚えのある風景が広がって来た。
もうすぐ赤オーガの村だ。
俺はサラの顔を見たら、
「もうやめましよう。」
と言われた。ネロも鋭いがサラも鋭い。
さて、どうやって顔合わせするかなぁ、なんて考えていたら向こうからやって来た。
サブとホープだ。
「赤オーガだ~!」
アレクは叫んでミラの後ろに隠れた。
ミラも腰の剣に手を置いた。しかし、他のみんなが妙に落ち着いている。なんでだろう。
その時、
「ユートさん。よく戻って来てくれました。」
サブがユートに声を掛け、ホープがユートと握手を交わしている。
「はあ~。もうだめだ。理解できない。どうなっているの?」
「これもまた、ビックリしたでしょう。」
サラが諭すかの様にミラに言った。
「当たり前でしょ。赤オーガは魔物よ。」
「そうなんだけどね、ユーちゃんが赤オーガの前のリーダーを倒したら、
ユーちゃんが赤オーガのリーダーになったの。だからそういうことなの。」
「無理、それでも理解できない。」
「ユーちゃん優しいから、俺がリーダーになったからには、この村は俺が守るとか言って、面倒を見て上げたの。」
「もう解ったわ。ハクといい、赤オーガといい信じるわ。
ユートは人間の常識を超えているわ。前から知っていたけど。さらに確信したわ。」
「あら、理解が早いのね。」
「当たり前でしょ。だてに幼馴染じゃないわよ。」
なんかミラは俺のことを非常識人間て言っているな。うん。
怖がるアレクをネロが引きずりながら赤オーガの村に向かった。
赤オーガの村に着いたら、いつも通り歓迎された。
「赤オーガって、怖い顔だから、みんなそうだと思ったのに、かわいい子もいるのね。」
とミラが感心していた。
「そうなんだよ。俺も最初、同じ様な顔がいっぱいいるのかと思ったけど、
かわいい子が居てびっくりした。」
「ユート君のスケベ。」
ネロの悪口だ。
アレクも女の子を見ている。
リーダーの家に着いて、俺はリーダーの席に座らされた。嫌と言ったのに。
ホープの彼女が俺に飲み物を注いでくれる。相変わらず、かわいい。
まだまだ食料はいっぱいあるらしく、盛大な宴になっている。
「サラ。」
俺はサラを呼び出した。
「ん。なに?」
「食べているところ悪いが通訳をお願い。」
「うん。いいよ。」
「ホープ、今日はここで泊まらせてくれ。それで明日からエルフの町に向かいたいと思う。」
ホープは頷いてくれた。
「それでだ。あそこにいる男、アレクをその間預かってほしい。
そして、鍛えてほしい。」
「俺らは大丈夫だが、アレクといったか。俺たちと暮らせるのか?」
サブは心配した。
「わからない。でも普通に対応してほしい。普通の赤オーガみたいに。」
「いいけど、人間でしょ。すぐ壊れるよ。」
ホープは怖いこと言ってくる。
「わざと壊すのはやめてくれ。ある程度は配慮してほしい。お願いだ。頼む。」
「いいよ。俺は無理だからサブが面倒を見てよ。」
とホープは面倒事をサブに押し付けた。
「ユート殿の頼みだったら断るわけにもいかない。善処する。」
「ありがとう。」
そんな話をされているとは思わないアレクは、
俺の連れとして、赤オーガの可愛い女の子に歓迎を受けていてすごいご満悦だ。
明日から地獄だから、今日ぐらいは、いい夢みろよ。




