魔法の袋を手に入れる
「ここが商業ギルドよ。」
サラに言われ、建物を確認すると、
「で、でかい。」
声が出てしまった。
他の建物は2階建がほとんどなのに、
この商業ギルドは5階建てだ。
しかも一般の建物の広さの3倍はある。
「すご~い。」
ネロも感心している。サラが先に入り、俺とネロは恐る恐る中に入った。
「いらっしゃいませ。サラ様。」
「どうも。」
と言って店員とサラは気軽に話をしている。
え、サラ様ってここの常連。しかも様付で呼ばれていたぞ。なんか心強いな。
「魔法の袋はこちらでございます。」
店員に案内された。
そこには、同じ袋がいくつも飾られてあった。
「サラ、見た目は全部同じなの?」
「そうよ。ほとんど同じよ。一般の袋と変わらないわよ。」
「へ~そうなんだ。」
「当たり前でしょ。一目で魔法の袋って解ったら、盗賊に襲われるでしょ。」
そりゃあそうだ。襲ってください、と自分から言っているようなものだな。
しかも魔法の袋自体が高価だしな。
「それで、一番安いのはいくら位で、どのくらい入りますか?」
「うちで取り扱っているのは、大金貨1枚からです。
容量は、そうですね。2m四方で、品数は50品までです。」
だめだ、全然買えない。
いろいろ気になることを聞いたが、買えないんだからしょうがない。
他を探すか。もっと小さいものを。
「だめだ。サラ、とてもじゃないが買えない。もっと安いとこないの?」
「無くは無いけど。信用できないわよ。」
「そうだよな。でも無理だし。お金を貯めるよ。
あっ、そうだ。ここは買い取りもやっていますか。」
「買い取りもやっております。」
店員さん答えた。
「これなんだけど。」
そう言って俺は、カイロが入った箱を出した。
そう、ゲンさんにもらったトリュフに似たカイロだ。
店員さんは箱を受け取り開けた。
「え、これはカイロ!」
とてもビックリした様子だった。
「ちょっと確認させていただいてよろしいですか?」
と言って、奥に持っていこうとしたので、
「ちょっと待って。
ここで確認して。疑っている訳じゃないが、どうもまだその辺の感覚が解らないから。」
と言って店員を引き留めた。
「申し訳ございません。それでは、別室を用意しますので、こちらにいらしてください。」
と言ってカイロの箱を返され、簡単な応接間に通された。
「鑑定する者をお呼びしますので、少しお待ちください。」
と告げられた。サラは俺の箱を見て不思議そうな顔で見ている。
「サラ、これ見たことある?」
「知らない。」
「そうなんだ知らないんだ。すごい香りが良くて、料理にすごく合うんだよ。」
自分でもカイロの価値が解らないくせにサラに自慢しているネロ。
「しらないわ。」
「私より長生きしているのに知らないの。」
「年齢は関係ないでしょ。」
サラを馬鹿にしているネロ。
「いい加減にしろ。ネロ。」
俺が注意をしたらシュンとなっているネロ。
そんなくだらない話をしていると奥の扉が開き、恰幅の良い おじちゃんが現れた。
「ちょっと見せていただけるかな。」
そう言われたので、カイロが入っている箱を渡した。
おじちゃんは臭いを嗅んだり、大きさを計
ったりしていた。
「ちょっと伺ってもよろしいかな?」
「はい。どうぞ。」
「これはどこで手に入れたものですか?」
「これは、カイロの村でいただきました。」
「ほほ~。カイロの村ですか。購入したのですか?」
「いえ、いただきました。村長さんの息子さんのダンさんに。」
「そうですか。これを売りたいということでよろしいですか?」
「はい。そうですが。」
「それならば、この白カイロ、黒カイロ。併せて、小金貨1枚でどうでしようか?」
「そんなにするの。ネロはどう思う。」
「私、解んない。」
ネロは相変わらず適当だ。
「サラはどう思う。」
「私も解りませんわ。初めて見ますから。」
「そうか。じゃあ、どうするかな。」
「それでは、サラ様のご紹介ということで、小金貨2枚に致しましょう。どうですか?」
おじちゃんが俺たちの話に割り込んできた。
ん、上げて来たぞ。ま、どっちにしろ、最初の店で売ることは考えていないし。
確か、ラサールの町のギルドの職員のリーゼは、白カイロは小金貨10枚って言っていたよな。
リーゼからはいろいろな店で確認した方がいいよ。って聞いているし。他の店も当たるか。
「ごめんなさい。今回はどれくらいで売れるのかと参考にさせていただきたいと思いまして。他の店にも当たりたいと思います。」
「ちょっと待ってください。それでは、小金貨5枚ではどうでしょうか?」
なんかおじさんは焦ったように言ってきた。
お、なんかどんどん上がって来たぞ。ここは吹っかけるしかないぞ。
たぶんここにいるサラは、有名人だ。周りの反応でわかる。
「そんなもんだったら、サラにあげようかな。」
「え、私に頂けるの?」
そんなのもらってもうれしくないという顔で反応した。
でも、おじちゃんには効果てきめんだった。
「少々お待ちを。」
そう言って店員と二人で奥の扉から出て行った。
「ユートさん。私、それいらないわよ。」
「ごめん。ごめん。サラにあげるつもりはないよ。交渉のネタとして使わせてもらったよ。」
「ん?」
サラはよくわかっていなかった。
もちろん、ネロもだ。
再び奥からおじちゃんが店員とともにやって来た。
「え~と、お客さまは、たしか魔法の袋をお探しで。」
「そうですが。それが何か?」
ちょっと話に魔法の袋が出て来たので踊る心を押さえて無表情で答えた。
「これは、先ほどお問い合わせいただいた、魔法の袋です。
売値で大金貨1枚します。これと交換していただけないでしょうか?」
とおじさんが下手に出ている。
ん。なんだこの変わり様は。
そんなにこれに価値が有るのか。俺としては全然問題ない。
というか有り難い。仕入れ値がいくらか解らないが、今は喉から手が出るほど魔法の袋が欲しい。
でも気になる。たぶん交渉として、価値を聞くことはいけないと思うが、教えてくれたらラッキーだから聞いてみよう。
「すみません。このカイロってこんなに価値があるものなんですか?」
「この交渉が成立したら教えて上げます。もちろん今のこの条件は、この場で決めていただくことが条件です。」
「わかりました。魔法の袋とカイロを交換ということで、お願いします。」
「ありがとうございます。」
そう言って、おじちゃんは、俺に握手を求めてきた。
「それじゃあ、手続をしますので、一旦預かりますね。」
そう言って店員は俺のカイロと魔法の袋を持って奥に言った。
俺は心配そうに、その後を目で追った。
それに感づいたのか、おっちゃんは
「大丈夫ですよ。商売は信用ですから。しかもサラ様のご友人に失礼なことはできません。」
と言ってきた。サラって何者なんだろう。
「それでは、お約束なのでお話しします。カイロは貴重な食材ってことは知っていますよね。」
「はい。」
「そのカイロの産地である、カイロの村で、このところ全くカイロが取れなくなりました。その原因はオークです。」
俺とネロはうんうんと頷いている。
「ですので数年前からカイロが流通することが全く無くなってしまい、価値がどんど
ん上がって行きました。
それでも、小金貨1枚はしません。しかし、今回は王国から直接依頼がありまして、
どうにかして手に入れようと、
我が商業ギルドでも社運をかけて王国に献上できるものを
あらゆるつてを駆使して探し回ったけれども、
質の悪いカイロは見つかるものの、王国に献上できる品物では無かった。
そこにあなたです。白カイロといい、黒カイロといい一級品です。
うちも今回を逃すとたぶんもう手に入らないと思いまして頑張らさせていただきまた。
あ、そうだ私はまだ名乗っていなかったで
すね。
私は、商業ギルドの店長のオータルと申します。以後、ご贔屓に。」
「私は、ユート。こっちはネロで、サラは顔見知りみたいだからいいか。」
オータルはサラの顔を見て首をかしげているが俺は特に聞かなかった。
サラがきっと自分の正体を話してくれるだろうと思って。
「噂で、カイロ村の周辺のオークが討伐されたと聞いていますが、ご存知ですか?」
「さ~。解りません。」
「そうですか。もし、ご存じだったら、お礼をしたかったです。
うちの商業ギルドもカイロで一儲けさせていただいておりますので。」
「そうですか。良かったですね。」
そんな話をしていると、店員さんが魔法の袋を持って来て渡してくれた。
「あの~。魔法の袋の使い方はご存じですか?」
「すみません。知りません。教えてください。」
「わかりました。まずはせっかくなので腰に下げてください。」
俺は言われるがまま、腰に魔法袋を下げた。
「それでは、ステータスをオープンして何かものを入れてください。そうですね。お金でいいと思います。」
俺は大銀貨を1枚、手に持ち、魔法の袋の入り口に入れた。
すると吸い込まれるように手元から大銀貨が無くなった。
「どうですか。ステータスに現れていませんか。」
「あ~見えます。魔法の袋って書いてあって、その下に大銀貨1枚って。」
「そうです。ステータスに魔法の袋の中身が一覧で現れます。
出すときは、品物の名前を念じながら魔法の袋に手を突っ込むと、そのものが掴めて取り出せます。」
「お~すごい便利だ。」
「ただ、お気をつけください。
魔法の袋は見た目、普通の袋ですが、
お解りの様に大変貴重なものです。
魔法の袋を狙った盗賊も居ます。ですので扱いには十分お気をつけください。
特にあなたたちはお若い。恰好の標的になりますので。」
「例えはどうやって気を付けるの?」
「そうですね。むやみやたらに人前で物の出し入れをしないとか。
普段使う物は、お連れの方に持ってもらうとかですかね。」
「わかりました。気を付けます。ありがとうございます。」
「それでもう一つ聞いていいですか?」
「はいどうぞ。」
「魔法の袋は、人が作っている物なんですか?」
「無理ですよ。人ではこんなものは作れませんよ。
これは、ダンジョンから出てきたものです。
ダンジョンでは、武器や盾など貴重な物も出てきますので、もしダンジョンに行かれて、処分に困ったら、
うちでお引き取りますのでよろしくお願いします。」
やったぁ。ダンジョンだ。しかも宝まで出るとは。これは行くしかないでしょ。
でも、どこにあるんだろうダンジョン。ま、いいや。そのうち見つかるだろう。
「いろいろ教えてくれて、ありがとうございました。」
そう言って、手続も終わり冒険者ギルドを出た。
ついに魔法の袋を手に入れた。しかも、ほとんどタダで。これも人徳かな。
これからもがんばろう。
そう思っているとサラが
「ね~。あれ、喫茶店じゃない。アイス食べたいな~。」
なんて言ってくる。
「そうか、休憩しようか。サラは何か用事あるの。」
「特に無いわよ。」
「じゃちょっと寄って行きますか。」
「やった~。」
ネロはガッツポーズをしていた。
オータルは思った。先ほどの好青年ユートと言ったっけ、交渉がうまかったな。こっちが譲歩するなんて、恐れ入ったわ。
たぶんあの子たちが、オークを討伐してくれたんだと思う。本人たちはしらばっくれていたけど。
商業ギルドの情報網を甘く見ないでほしいね。
でもまさか、こんな形でカイロが手に入るとは、しかも依頼されていない白カイロまで。
これを王家に売れば、ライオネル城での商売は数十年は安泰だな。




