ネロのお母さん
だいぶ日が傾き、辺りは暗くなってきている。
今は、ネロのお母さんも含めた俺たち3人は、たき火の前に居た。
先ほどまで争っていた場所は、ところどころ木が燃えて焦げている。俺が飛ばした火の玉の場所は道の真ん中だったので、土が大きく焦げているがよく見ないと解らない。でも、ネロのお母さんが飛ばしたところは、あたかも、魔術師と上級魔物が争ったような惨状になっている。
「この惨状、まずくない?」
俺は、ネロに言った。
「とりあえず、朝になったら逃げましょう。」
「それもそうだな。」
オークの件といい、しらばっくれることが日常化してきた。
「ユートさん、改めまして、私は、ネロの母でカーラと申します。このたびは、申し訳ございません。」
カーラはローブのフードを頭から取り、神妙そうな顔で言った。
「別に、もう気にしなくていいです。事情を聴きましたから。」
ネロのお母さんカーラは、20才後半ぐらいに見えて、とてもネロのお母さんって言われても信用できない。だって逆算すると、ネロは確か1 7才だから、ネロのお母さんが30才としても、13才の時にできた子ども。
ん~ん解らない。
でも、ネロと同じくらい。いや、女の色気っていうのか。そういう雰囲気で、お母さんの方が綺麗だ。長くて赤みが掛かっている髪の毛も艶があり綺麗だ。
「なに? 私とお母さんを見比べて、見ているのよ。」
相変わらずネロは鋭い。
「だってさ、ネロのお母さん。余りにも若いから。本当にネロのお母さんなの?」
「まあ。」
カーラは、若いと聞いて嬉しがっているようだ。
「お母さんの年齢は400歳を超えていて、私を入れて6人子どもがいるのよ。」
「ちょっとネロ、ばらすんじゃないわよ。」
「なに言ってんの。ユート君は、渡さないわよ。」
「今度、ユートさん、私の村にぜひ、遊びに来てくださいね。」
「なんなのこの変わり様は。さっきまで一族が滅びるとかなんとか言っていたくせに。」
「いいじゃない。ユート君を見ていたら、村のことなんてどうでもよくなってきたの。」
「よくそんなこと言えるわね。」
「だって、あんな力を見せつけられたら、敵になるより、味方になってもらった方がいいし。」
「はぁ~。お母さんってそんな性格だったっけ。もっと怖い人だと思ってた。」
「私にも人間から一族を守らないといけない使命感みたいのがあったの。でも、ネロとユートさんのやり取りを見ているうちに、人間とわかり合えるんじゃないかなぁと思って。これからは、ネロの時代だし、あとはネロに任せるわよ。」
「え~、どうして急に私に一族の運命を託しているのよ。信じられない。さんざん、人間は信用できないって言ってたくせに。」
「それは、私たちが、昔からの言い伝えを信じて、頑なに守って来たからなの。でもネロが行動して示してくれたおかげで、自分の目で見て確かめること。それが大切だって気づかせられたのよ。でも、全ての人間を信用するわけではないわ。だから今までどおり、生き方は変えないと思っているわ。でも、ネロが人間に魔女のことを。魔女に対しての印象を変えて欲しいの。きっとユートさんと一緒なら出来ると思う。ユートさん、迷惑だと思いますが、ネロをよろしくお願いいたします。」
「あ~、はい。出来る範囲でなら。」
「それで十分です。」
「そう言えば、さっきステータスを覗いたとか言っていたけど鑑定スキルをお持ちなんですか?」
俺は、カーラに聞いた。
「いや、これは魔女の目と言って、種族固有のスキルのようなものです。」
「そっか~、魔法じゃないのかぁ。相手のステータスが見えたら便利だったのに。って言うか、ネロは使えたの?」
「いや、私はまだ、使えないの。」
「この子は、魔女の癖に、魔法関係が苦手で、たしかクリーンしか出来ないのよね。お父さんが戦士系だったから、そっちの血が濃いのかしらね。」
「他に魔法はありますか?」
俺は魔法を覚えられるチャンスだと思い、ここぞとばかりに聞いてみた。
「いろいろ魔法は有るけど、種族固有のものが多いですから、たぶん言っても解らないと思います。」
そっか。なんかネロのクリーンの魔法を勝手に取ったら悪いかなぁと思って、試していなかったけど、確認するためにやってみ
るか。
「クリーン」
ネロに向かって唱えた。
「何を急に。私に向かってクリーンって。ユート君が出来る訳ないでしょ。魔女の特権なんですから。」
自慢げにネロに言われた。
ちぇ。できたら、すっげ~便利だったのに。ま、いいか。ネロは俺と冒険するみたいだし。
「ユートさん。相手のステータスを見る方法がありますが、知っていますか?」
カールが教えてくれた。そんな方法があるのか。
「私の魔女の目みたいなものでは無くて一般的に知られている事なんですが、ネロ、ちょっといい?」
「なあに、お母さん。」
「ユートさん、ネロと手をつないでください。」
ネロはちょっとびっくりしている。俺も恥ずかしいがカーラに言われて手を繋いだ。
ネロは顔が少し赤くなっている。
「ネロ、ステータスをオープンしてみて。」
「ステータスオープン。」
すると俺の目の前にネロのステータスが現れた。
「おー、ネロのステータスが見えるぞ。」
と俺が声を上げたら
「おかあさん、何やってるの!。勢いでステータス、開けちゃったじゃない。手を繋いだせいで。どうしてくれるのよ。」
ネロは怖い顔をカールに向けていた。
「あらいいじゃない。もう隠し事は無いんだから。それに、ユートさんの信用を獲得するためよ。」
カーラはニヤニヤと笑っている。
「ちょっと、ユート君、ユート君のステータス見せなさいよ。」
ネロは俺に八つ当たりをしている。取り合えず、ステータスをネロと同じように書き換えて、ネロにステータスを見せた。でも種族は人間として。今更、人間じゃありません。ヴァンパイアです。って言えない。
それで最後に、一般的な魔法のことについてカーラに聞いてみた。
「火、水、風、土、雷と白魔法と黒魔法の基本魔法があり、ある程度才能が有れば使えるみたいです。ただ、人によって得意、不得意があり、私は火が得意だから使えますが、その他の魔法は才能が無くて使えないわ。」
と教えてくれた。
ためしに、水のウォーターの呪文を聞いたので、誰も見ていないところで唱えてみたが、特に何も起こらなかった。うすうすとは感じていたが、たぶん、実際に目で見ないとダメか、才能が無いかどちらかだろう。
「私そろそろ、村に戻るわ。ネロ、必ずユートさんを村に連れて来てね。ユートさん。お会い出来て良かったわ。ネロをよろしくね。」
「え、帰っちゃうんですか。もう真っ暗で今帰るのは危険ですよ。朝まで一緒に居ましょうよ。」
俺は心配した。
「これから一晩中、ユートさんとネロがイチャイチャしている
のを見ていられないので私、この暗闇の中を帰ります。」
「なに言ってんのお母さん。」
「それは冗談よ。魔女の目は、暗闇でも見えますのでご心配なく。それじゃあ。」
と言ってネロのお母さんは暗闇に消えて行った。
「もう、お母さんたっら」
ネロは顔を赤くしている。
俺は、魔女の目って便利だなあ。ひょっとしたらヴァンパイアの目とかもあるのかな。なんて淡い期待を胸に眠りについた。




