ラサールの町を出る。そして襲われる。
次の日の朝、
急だけど、宿のおばちゃんに、お城に行くと言ってお礼をして宿を出た。
おばちゃんは、
「また、泊まりに来てね。気を付けて。」
と快く送り出してくれた。
今は、食料を買いに来ている。
しかし、5日分を買うのは無理だ。せいぜい、荷物入れの関係で、3日分が限度だ。
こういう時に早く魔法の袋が欲しいと思う。
「ネロ、とりあえず、3日分干し肉や何やら買ったけど、これでいいか。道中、食べられる魔物とか動物が居たら、それを焼いて食べよう。」
「賛成。ユート君に任せる。」
「じゃあ、火お越しセットとクシも買っていこう。」
そうして簡単な買い出しは終わり、
ライオネル城に向かいラサールの町を出た。
本当は、馬車に乗って行きたかったが、
ライオネル城にいく馬車が少ないのか、満員だった。
じゃあ、馬は、ってことになるが、借りると借りた場所に返さなくてはいけないので、却下。
じゃぁ、馬を買うということも考えられるが、
馬は貴重なので、本当に高い。最低でも小金貨1枚はする。
その他にロバとかもあるが、それだって高い。
オークの討伐で報酬をもらったから買えなくもないが、魔法の袋を買うために節約するのだ。
それと、冒険らしくするために。因みに、ライオネル城まで徒歩で5日かかる。
1日目の道中は、何事もなく過ぎて行った。
ネロが他愛もない話しをよくしていて、あきることがなかった。
お腹が空いたら、道の脇に腰かけて、干し肉を食べた。
夜も、火を焚いて、大きい葉っぱを何重にも敷き、順番に睡眠をとった。
2日目も、
たのしく旅をしていたが、夕方になり、そいつは現れた。
そもそも、道中、人をあまり見かけないが、
俺たちの前方30m先の道の真ん中に、黒いローブを着た長い髪の女性らしき人が立っている。
「ん。こっちを見ているような。なあネロ。」
と話しかけたら、ネロは俺の背中に隠れた。
「何しているの。」
と言いながらネロを見たら少し震えているようだった。
するとそのローブ女が
「その後ろにいる女を渡せ!」
と少しドスの効いた声で言っている。渡す訳がない。
俺は少し構えた。
「渡さないつもりだな。なら、お前、どうなっても知らないぞ。」
とロープ女は警告してきた。
俺「・・・」
「そうか渡す気が無ければ焦げちまいな。」
って言ってローブ女が腕を前に構えた時、
「やめて~。お母さん。今から私、そっちに行くわ。」
と言ってネロはローブ女の方に駆けて行った。
「お母さん?」
俺は、少し混乱した。
ネロはローブ女に近づくと震えながら何やら話している。
俺は、その様子を遠くから見ていた。
そしたら急にローブ女は、こちらに体を向けると右腕を俺の方に向けたと思ったら、「ファイヤー」と叫んだ。
俺に向かって火の塊がすごい勢いで飛んできた。
俺は左に素早く飛んで避けたが、とっさの出来事だったので右腕にかすってしまい、
当たった場所は皮膚が黒くただれ、血がにじんでいる。
ちっ。あいつは敵か。
そのローブ女はまた、俺に手を向けて照準を合わせた。
「お母さん。やめて~」
ネロが叫びながらロープ女の腕を掴み、俺への攻撃を邪魔した。
「やめて、お母さん。ユート君を殺さないで。」
ってネロが叫んでいる。
でも、それを聞いた俺は、ネロがお母さんと呼ぶローブ女を敵とみなした。殺すという言葉を聞いて。
ローブ女はネロを振り払い、
「私たちの存在が人間に知られたら、終わりなんだよ。
今、この場所であいつを始末しなければ。
ファイヤー、ファイヤー。」
と言って両手で右手、左手と交互にいくつもの火の球を俺に向けて飛ばしてきた。
俺は、それを避ける途中、ローブの女が唱えた「ファイヤー」を聞き逃さなかった。
次から次へと飛んで来る火の玉を躱している中、
ローブ女とネロから見えないように、
自分の背中で右手を隠すようにして、
かるく「ファイヤー」と唱えた。
すると右手から、小さい火の玉が現れ、意識を逸らすと消えた。
「よし!」
たぶん出来ると思っていた。
ウインドの時もそうだったが、呪文を唱えれば出来ていたからだ。
俺は、火の球を躱しながらローブ女の正面に立ち、うつむき加減で仁王立ちした。その距離30mぐらい。
「はははあ~。私の攻撃から逃げられなくなって諦めたのだな。死を覚悟するとは、賞賛に値する。
私の最大の魔法で焼き殺してやる。死ね~。」
ローブ女は、両手を前に出し、
「ファイアボール」
と唱えた。
ロープ女の両腕の前にどこから現れたか解らないが、
人間一人がまるまる入るぐらいの大きい火の塊が出現し、
先ほどのファイヤーのよりも速い速度で飛んできた。
「ユート君、逃げて~」
ネロは泣きながら俺に向かって叫んでいる。
俺は、両手を前に出し、全力で「ファイヤー! と唱えた。
すると俺の目の前に、ローブ女が出した火の玉より倍くらいのでかい火のが発生し、
相手のファイヤーボールを飲み込んだ。
「へ。・・・」
ローブ女とネロは、同じリアクションを取っている。
やっぱり親子だ。
そう思いながら俺は、ロープ女にその大きい火の球を投げつけた。
それは、ゆっくり山なりでローブ女に向かって飛んでいる。
ローブ女は危険を感じて、我に戻ったのか、
ネロの方に駆けて飛んで身を躱した。
しかしローブ女は、ビックリして反応が遅れたため、
両足のくるぶしより下が炎にまかれ、黒く焦げている。
俺は、すぐに火の球は飛散させ消した。
ネロはローブ女と俺を交互に見ている。
ローブ女は足が焼け焦げていて、痛そうにしている。
「ネロ、そいつはお前のお母さんか?」
と俺はネロに近づき言った。
「おのれ~人間め~。」
ローブ女はまだ、反抗的だ。
「やめてお母さん。ユート君は信用出来る人なの。」
「なあ、ネロ。この人、俺を殺そうとした。敵として、対応して
いいか。」
「ユート君。ごめんなさい。これには訳があるの。」
「ネロ、人間に話しちゃだめだ。一族が滅びる~。」
「黙っててお母さん。もうこれ以上、ユート君を怒らせないで。
怒らせたら、どっち道、助からないよ。さっきの戦いで解ったでしょ。」
ローブの女はその言葉を聞いて黙った。
「ユート君、実は私たちは魔女なの。」
と神妙そうな顔でネロは言った。俺は無言だ。
「魔女は昔から人間に忌み嫌われているの。
昔話とかで聞いたことがあるでしょ。
そういう存在なの。
でも、私は信じられなかった。
だって実際に人間に遭ったことも無かったから。
真実は違うんじゃないかって。
だから、村を勝手に抜け出したの。
そしてユート君に出会い、いろいろな体験をさせてもらった。
アイスも食べさせてもらった。
そういうユート君を見て、人間ってやさしいんじゃないかって。
思えるようになった。
だから私の考えていることは間違っていなかったって。
でも、私のせいで、ユート君を傷つけてしまったね。
ごめんね。
これ以上一緒にいると迷惑だよね。」
ネロは泣いている。
「ネロ、お前はどうしたい?」
俺はネロに聞いた。
「私、村に帰ります。このままだとユート君に迷惑がかかるから。」
「お前は、本当にそれでいいんだな。」
「・・・いい訳無いじゃない。ずーとユート君と一緒にいたいよ~」
ネロは俺に悲願するように言った。
「じゃあ、ついて来れば」
おれは、普通に答えた。
「え、いいの? たぶん迷惑かけるよ。お母さんも黙っていないと思うし。村の人も。」
「別に俺がいいって言っているんだから、いいんだよ。」
そんな俺とネロとのやり取りの間にローブ女が、割込んできた。
「お主のステータスを覗かせてもらった。
人間らしいが、人間があんなこと出来る訳がない。
お前は一体なんなんだ。勇者か?」
「え、勇者?なにそれ。」
俺は聞き返した。
「ま~いい。解った。私は、手を引く。
これからもネロをよろしく頼む。」
「え、いいのお母さん?」
「いいも悪いも、私が全然、刃が立たないのに、他の村人がどうにかできるわけがないだろ。」
「そうだよね。やったー。
これからもユート君と一緒に居られる。」
「ユートと言ったか。今回は見逃してくれるか。」
「いいよ。ネロのお母さんだし。」
「ありがとう。」
そう言って、ネロのお母さんは自分の足に「ヒール」と唱え、キズを直し、普通に立ち上がった。
俺は、「ヒール」を聞き逃さなかった。
「あら、ごめんなさい。右腕を怪我させちゃいましたね。今、直します。」
「あ、大丈夫です。」
そう言って俺は自分の右腕に向けて「ヒール」を唱えた。
すると見る見るうちに火傷は綺麗に無くなった。
「ユート君てさあ。ヒールまでできるの? ファイヤーもすごかったし、どういうこと?」
あきれた顔をしてネロは聞いて来た。
「どういうことって言われても、俺って変なの?」
「変じゃないけ常識を超えているって言うか、魔女の常識は超えていると思う。」
「ああ~俺もちょっとやり過ぎた感はあるな。
ただ、俺もその辺の常識って言うのが解らないんだよ。
冒険者として、直接、知っているのって、ネロ以外ではあの変なデブの冒険者、ギースとか言ったけ、それぐらいしかいないし。
冒険をしていく中でそのへんの常識が解ってくるかなぁと思ってた。
でもさ、なぜか知らないけど、青オーガといい、ネロのお母さんといい、なんか強そうなのに絡まれるんだよなあ。」
「え、青オーガと戦ったの?」
「うん。やっつけた。」
「一人で?」
「うん」
「信じられない・・・。」




