ユート、黒カイロと白カイロを手に入れる
次の日、帰り支度をしている。
村長には
「もう少しゆっくりしてってくれ。」
と言われたが、ネロが
「早くアイスが食べたい。早くラサールの町に帰ろう。」
と急かされたので帰ることにした。
ま、今回は、ネロは頑張ったし。
村長が
「私のお古だが、よかったら使ってくれ」
といって、皮の胸当を譲ってくれた。
ネロも孫娘のリンが
「私の洋服であれは、好きなのを上げるよ。」
と孫娘のリンに言われリンの部屋に一緒に消えて行った。
帰る準備と言ってもほとんどないのだが、村長から貰った胸当てを装着して、靴を履いてネロを待っていると奥の方から
「じゃ~ん」
と言ってネロが出てきた。
髪の毛はポニーテールになっており、白いリボンがつけてあった。
洋服は白を基調とし、肩の所にフリルが付いていて少しメイドみたいな感じ。
スカートは膝上で、ワンピースの様だ。
腰には細めの茶色いベルトで体の線を少し引き立てるようになっていた。
俺は、見入ってしまった。
ゲンは「ほ~」と言っている。
「似合う? 似合う?」
とネロは俺に近づいて来て意見を求めてくる。
とりあえず
「すごい似合っているよ。」
と褒めた。
ネロは満足そうに帰り支度を始めた。
「ネロの頭なんか、赤毛の馬の尻尾じゃん。」と思った。
ってか、そう思わないと完璧すぎて直視できない。たぶん俺の中でネロはもう、赤の他人ではない。
村の出入り口付近。
「もっとゆっくりしていけばいいのに。ネロともっと遊びたかったな。」
孫娘のリンは残念そうだ。
「また、近くを通ったら寄らせてもらいますよ。」
「ああ、気を付けてな。」
村長は言った。
「なんか逆にいろいろ気を遣わせてしまってすみませんでした。ありがとうございました。」
「さようなら。」
ネロは手を振っている。
俺たちは、ラサールの町を目指して歩き出した。
すると村の方から
「おーい、ちょっと待ってくれよう」
と聞こえてきて、ゲンさんがこちらに向かって走ってくる。
「これ、約束だ。」
そういうと小さい箱を渡してくれた。
中を見ると、白カイロと黒カイロが入っていた。
「いいんですか、こんな貴重なもの?」
「いいの、いいの。村の救世主だしな。
近くに来た時でも気軽に寄ってくれよ。元気でな。」
「ありがとうございます。ゲンさんもお元気で。」
「ネロちゃんも元気でね。」
「ばいばい~」
そう言って別れた。
報酬の受取はギルド経由になっていて、
すぐにはもらえない。
3割は強制的徴収されるからだ。
なぜなら冒険者が直接もらうと、ギルドが依頼経過を把握できないのでそういう仕組みになっている。
ネロのLVが12になったようだ。
そりゃ~さすがにあれだけオークを狩れば上がるわな。
でも、LVがあがったからって実際には体感しづらいな。
比較できる人もいないし。
俺と比較しても俺は、たぶん異常者でネロは普通だと思うから比較できないし。
ま~そのうちわかるだろう。
やっとラサールの町に着いた。
「アイッス、アイッス」
とネロは口癖のように言っている。
ただ、今はもう暗い。でもネロがうるさいから喫茶店に向かったが、やはり今日はもう閉店していた。
ネロはしょんぼりしている。
「ははは~、残念だったなネロ。また明日、来ようね。」
「うん。」
まったくどこの小学生だ。
宿屋についた。
「あら~どうしたの? 戻ってこないから心配しちゃったわ。」
あ、そうだった。宿のおばちゃんに言うの忘れてた。
「ごめんなさい。忘れてました。」
「たぶんそうだと思ったわ。
本来なら、ゆるさないところだけど、アリスさんとこの息子さんだしね~。
ま、今回は大目に見てあげるわよ。
でも、宿泊料は通常どおりいただくからね。
これからはちゃんと伝えてね。」
「はい。反省しています。料金はそれでいいです。」
「それでオークの討伐は終わったのかい?」
「なんでそれを?」
「心配になって、冒険者ギルドに聞いたの。」
「本当にすみません。オーク討伐は無事に終わりました。」
「そうか、そうか。でもあんたら臭くないね?」
「村でお風呂を用意してもらって、本当に体中よく洗いましたから。」
「それで夕飯はまだなんだろ。そこに座ってまてて待ってて。」
俺たちはいつものテーブルに座った。
「なに、まだ落ち込んでいるんだよ。」
「だって、アイスのために頑張ってきたのに。」
「まったくもう、明日、一番で連れて行くよ。」
「本当に。」
「本当だよ。」
「絶対だからね。」
そうして話しているとおばちゃんが
「お待ちどう」
と言ってどんぶりを置いた。
「今日は珍しいものだよ!」
と言って厨房に戻って行った。
いつものパンがない。どんぶりには野菜が入っている。
フォークを差すとその下にはなんと麺だ。
見た目は白い。その麺を口に入れると。
ん、普通にうまい。
パンがあるなら、うどんもあるのか。
と思いながら食べた。
って 、言うか、ちゃんとしたうどんだ。
スープは醤油が無いから塩ベースで透き通っているが、
野菜のうまみとこの何の肉だかわからないが、
よくだしが出ていて、しっかりした味になっている。
おいしい。
ネロも一本一本、ちゅるちゅると楽しそうに食べている。
そのネロの様子を見て。
「何だこの体の大きい幼児は。」
と思ってしまった。
その目線に気が付いたのか、ネロが
「なんか私のこと馬鹿って思っているでしょう。」
って聞いてきた。するどい。
部屋に戻りこれからのことを話した。
「ネロ、明日、冒険者ギルドに行って、報酬を受けとってからこの町を出て、ライオネル城に向かいたいと思っている。」
「いいよ~私は。」
「それでネロさ、ネロはこれからどうするの?」
「この前も言ったけどユート君に付いて行く。」
「ほんとにそれでいいの? 俺のやりたいことに付き合させていいの?」
「いいよ別に、私、やりたいこともないし。」
「ま、ネロがそういうふうに言うだったらそれでいいけど。
じゃあ、ここでちゃんと伝えます。
・・・ネロ、
・・・僕とパーティーを組んでください。」
ネロは、真顔で
「え、パーティーって食べれるの。アイスよりおいしいの」
って。
はぁ~だめだこりゃ。
断られたらどうしようと緊張して話したのに、俺よりも頭が悪い。
「いや、ごめん。このままの関係でってこと。」
「そんなの当たり前じゃないの。私はユート君に付いて行くと決めていますから。」
「そうか。これからもよろしくな。」
「よろしく」
「もう寝よ。」
「うん」
ネロは寝る前に考えた。
さっきはビックリした。
告白されるのかと思った。
違ったけど。ユート君ってまじめだよね。
改めてパーティーを組もうなんて。
適当にはぐらかしたけど。
でもいいのユート君について行けば、
憎たらしい人間のことが解ると思うし。
それにユート君、謎が多くて面白いし。
こんな子を手放すなんてもったいない。
それにおいしいものも食べられるしね。
明日はアイスだ。楽しみだなぁ。
次の日、アイスを食べるために、喫茶店の前にいる。
まだ開店していない。
「まだ、やってないよう。いつ開店するかな。」
「もうすぐだよ。」
「早く食べたいな。」
「こらこら、そわそわしない。子どもじゃないんだから。」
「あ、今、子どもって言った。
わたし、子どもじゃないもん大人だもん。」
「はいはい、大人は、そんなそわそわしないぞ。」
「ん~。ユート君のバカ。」
「ははは~」
なんて会話をしていると、扉が開いて
「どうぞ」
と店員の笑顔で知らせてくれた。
今、ネロの目の前にオーク討伐からの憧れのアイスが目の前に置かれている。
それは、ガラスで出来た入れ物に、
白いアイスとクッキーが1枚、横に添えてあった。
「これがアイスとクッキーなの?」
とネロは、うれしさと憧れの眼差しでアイスを見ながら聞いて来た。
「そうだよ。今回、ネロはオーク討伐よく頑張ったね。アイス本当においしいから。食べてみて。」
それを聞いたネロは、スプーンでアイスを少しすくって、口に入れた。
「ん~。冷たーい。甘くておいし~い。幸せ~」
と言いながら左手を左の頬に手を当てている。
俺も一口食べた。うん。おいしい。
味は、地球と大体同じ。
バニラアイスだが、滑らかさが足りないというか、
ジャーベットに近い感じだけどこれはこれでおいしい。
クッキーも少し甘しょっぱいがアイスに付けて食べるのでとても合っているなあ。
などと考えていたら、ネロは食べ終わったらしく、
まだ物足りないのか、ガラスの器をスプーンで一生懸命、
解けたアイスをすくって、口に運んでいる。
さすがに器をなめたりはしていない。
「いいよ、ネロ。俺のも食べて。」
「いいの?」
すっごい可愛い笑顔で聞いて来た。
そんな笑顔を見て、だめと言えるわけがない。
「いいよ。」
ネロは申し訳なさそうに、俺のアイスが入っている器を取り、今度はスッゴイゆつくり食べ始めた。
俺は、ネロは完全に子どもだなと思ってネロの顔を見ていた。
そしたらネロは眉を少しびくつかせたが、
今回は何も文句は言わなかった。
ネロは俺の気持ちが解るのか、ちょっと不安だった。
ネロは考えている。
これがアイスかぁ~。
うっすらと白くなっているガラスの器に置かれている半球になったアイス。
その横には、ギルドカードより小さめの茶色のクッキー。
待ちに待つたアイスとクッキー。早く食べたいな。
ユート君が食べていいと言っている。
それでは、待望のアイス。
ちょっときれいでもったいないけど、
アイスにスプーンを入れて少し食べてみたら、
幸せを通り過ぎてる。
おいしい。おいしすぎる。
だめだ。止まらない。
クッキーもアイスを付けて食べてみた。
はぁ~。
ため息が出るほどサクサクしておいしい。
アイスが冷たくて、クッキーがサクサクしていて、
これも止まらない。
ああ~もう少しでなくなっちゃう。でも止まらない~。ああ~無くなってしまった。
まだ、器にアイスが解けたのが付いているわ。スプーンで取るわ。
なんて一生懸命、スプーンですくっていたらユート君が俺のも食べていいよ。だって。
え~。嬉しすぎる。ユート君大好き~。
これはゆっくり食べよう。と思ったとき、
また、ユート君が変な顔で私を見ている。
でも今回は仕方がない。
なにも言えない。・・・




