オークの討伐が終わって
川に着いた。
もう俺とネロは血を落としたくてうずうずしていた。
「川に入って、早く洗おう。」
俺たちには、洋服を着たまま、
少し深くなっている川に一緒に飛び込んだ。
川の水がオークの血を洗い流してくれる。
でも、洋服についている血はなかなか落ちない。
ネロは、川の中で洋服を脱ぎだした。
俺も、臭いで頭がおかしくなっていたのか、
一緒に脱いで洋服を川岸へと投げた。
それを見たネロも同じ様に川岸に洋服を投げた。
二人は自分のありとあらゆるところをまんべんなく洗った。
「背中が届かない・・・」
俺は、ふと思った。
ネロも同じように思ったのか俺に背中を見せて、
手を背中にやりながら首を曲げてこっちを見ている。
俺は、緊張しながらネロに近づき、
血が付いている背中に手をやり、血を洗い流した。
「背中きれいになったよ。」
俺が言うと
「じぁ、私もやってあげる。」
そういうとネロは急に振り返った。
俺は慌てて、背中を向けた。
ネロの胸が少し見えた。
ネロが俺の背中を触ってくる。
すっげ~恥ずかしい、どうしよう。よく考えたら、俺たちはすっぽんぽんだ。
しばらくすると、ネロか俺の背中に胸を押しつけてきた。
「うわ~」
おれは、ビックリして、2mぐらい飛び跳ねてしまった。
その勢いのまま、陸に上がり、新しい服に急いで着替えた。
「ふふふ。ちょっとからかってやったわ。
まさかあんなにびっくりすると思わなかったけど。
でも、すっきりしたわ。
っていうか、私の胸が当たったんだから喜んで欲しいわ。
でも、ちょっとやり返してすっきりした。」
とネロは思いながら、川岸に上がりタオルで拭いて洋服を着た。
村に戻って来た。
まだ体中からオークの匂いがする。もう染みついているって感じだな。
とりあえず村長に
「オークを退治したら村に戻ってくるなっ!」
て言われているから、村の手前、
1 0 0mぐらいで今、村人を待っているが、誰も気づいてくれない。
川に入って洗ったから臭いはそこまでしないからかな。
とりあえず、少しづつ村に近づく。すると、村人がこちらに気づいた。
「おーい」
と俺は叫んだ。
俺の後ろではネロが両手を高く上げてぴょんぴょん跳ねながら手を振っている。
村人はこちらに来てくれたが、近くに来ると鼻を押さえた。
「ネロ、やっぱり結構臭うみたいだな。俺たち。」
「そうね。」
村人は、来た手前、引き返す訳にもいかず、
仕方なさそうに鼻に手をやり
「どうしました?」
と話しかけてくれた。
「臭いのにすみません。
村長の息子のゲンさんを連れて来てほしいのですが、
オークを駆除してきました。」
「わかった。伝える。」
そう言って、村人は向きを変え、村に走り出した。
途中、鼻をつまんでいて、息が続かなくなったのか、
「はあはあ」して、息を落ち着かせ、
逃げるように村のなかに入っていった。
「なんか俺たちって招かざる物って感じだな。
みんなから避けられるってこんな感じなんだなきっと。」
「失礼しちゃうわね。
村の人たちのためにオークの駆除をしてあげたのにね。」
「ははは~それは言わない約束だろ。
報酬も貰うし、仕事だよ。」
「そうだけどなんか悲しいね。」
「そんなもんだよ。」
ネロは納得していないみたいだが、そんな話をしていると
「おーい」
とゲンが小走りでこちらに走って来た。
顔には、ちゃんと鼻と口を隠せるようにタオルを巻いて。
「どうした、なんかあったのか?」
タオルを巻いているから声の音がこもっている。
「オークの討伐、終わりました。」
「おわったよ~ん」
2人で言うと、
「え、こんなに早く。終わるはずはない。
臭すぎて諦めたんでしょ。
前も、興味本位で依頼を受けた冒険者が、3日で謝ってきたよ。
「ごめんなさい。報酬はいらないので勘弁してください」
って。」
「信用していないんですか。
もうここの村長をはじめとして、たぶん村人全員が捻くれているわ。」
ネロが諦めたように言葉を吐いた。
「ま、証拠がありますから、確認をお願いします。
オークの鼻の数も数えてください。
では、北の開けた場所まで。」
と言って俺たちはまた森に入って行った。
ゲンは思った。
本当にこいつらは、オークを倒したのか。
いや、出来る訳がない。
せいぜい出来たとしても5匹ぐらいが関の山だ。
冒険者ランクE級がオークを相手にした場合、
絶対に怪我をする。
オークはD級以上の獲物だ。
ん、待てよ。
前を歩いている2人をよく見ると汚れていない。
綺麗だ。怪我もしていないようだ。
は、あ。
もっと訳が解らない。
ひょっとしたら俺を騙す気か。
なんてことを考えていたら、
オークの匂いがだんだんと強くなってきた。
「なんかすごい臭いな。」
ゲンはロのタオルの上から臭いを遮るように手で押さえた。
そろそろ着きそうなので、俺は信用していないゲンを驚かすために、
「あ、ネロちょっと待って。足に枝が刺さった。
ゲンさん、すぐそこですので先に行ってください。」
とゲンさんを先に行かせた。
ネロには目で合図して、俺と一緒にゲンさんの背中を目で追っている。
「ぎゃ~。何じゃこりゃ~。」
ゲンさんは大声を挙げ、立ちすくんでいる。
そうりゃ~そうだろう。オークの死体が約40体転がっている。こんな光景を見たら誰でも叫ぶわ。
「げほ、げほ、げほ。」
驚きすぎたのか、肺に臭いが入ったのか、ゲンさんはむせている。
ゲンさんは次第に落ち着き、喋りだした。
「なんだ、これは、あの2人がやったのか。
信じられない。
よく見るとほとんどが、首から上が切り落とされている。
まさか2人で。
こんなことが出来る冒険者なんて聞いたことがないぞ。」
「ゲンさんどう?信用した?」
俺は後ろから声をかけた。
「ああ、本当に2人でこれをやったのか?」
「そうです。」
俺は、満面の笑顔で答えた。ほとんどやったのはネロだけどね。
「すごいでしょう。私たちのことちょっとは見直した?」
ネロもすかさず、ゲンさんに聞いた。
「ああ、見直した。
ここまで、しかも3日間でやるなんて信じられない。」
ゲンさんはもう放心状態だ。
「ゲンさん、あそこの袋にオークの鼻が入っているから数を確認して。」
オークの鼻が入っていて、
大きく、黒ずんでいて、臭いが見えるぐらいの悪臭を発生している袋を俺は指さした。
ゲンさんは、後ずさった。
「もういい。で、全部で何体倒したんだ。」
「46体。」
「わかった。」
そこでネロがすかさず
「確認はされないのですか?」
とワザと聞いた。
「ごめん。疑ってばっかで悪かった。
お前らは信用できる。大丈夫だ。」
「でもな~。後からいちゃもん付けられても困るしな~。」
俺もネロの話に乗っかってゲンさんを困らせた。
「もうわかったって。そんなこと絶対しない。村長の息子として誓うよ~。」
「ま~、そうまで言うなら別にいいけど~。」
とネロは言った。俺も頷いた。
「ゲンさんちなみに、村から半径1 0 kmぐらいのオークをここに集めて処理しましたから。
取りこぼしはないと思いますし、
そこいらじゅうにオークの死体が転がっていることはないと思います。
ただ、駆除した外側から来たものは知りませんけど。
あと、ゴブリンはこの森に数体います。」
と俺は説明した。
「いや、もう十分だ。助かる。もう早く村に戻ろう。」
そう言って足早にオークの地獄から離れた。
村に着いた。
俺たちはまだ村の外にいた。
ゲンさんは村に入って行ったが、他の村人に避けられている。
村長は報告をゲンさんから受けたのか、俺たちの元にやってきて、いの一番で
「オークを討伐してくれてありがとう。」
とお礼を言ってくれた。
「いま、村人総出で、村の裏手に簡易的な仕切りを建ててお風呂を準備している。しばらくここでお待ちください。」
「え、いいんですか。確か、町には入るなって。」
「いや、入って下され。私たちはあなた方を、客人としてお招きする。
それも最高の。
私どもの村にとって、貴方達2人は、村の救世主だ。
オークのためにこの町は廃れてしまい、村人が路頭に迷うところでした。
しかもゲンからの報告によると、ただ適当に討伐しただけではなく、一か所に集めるなんて、
本当に村からしてみれば有り難いことじゃ。
早速、北以外でカイロを探すことが出来る。」
「いえいえ、俺たちは、依頼をこなしただけですよ。」
「そんな謙遜なさるな。
このような思いやりがあることが出来る人はそうはいない。」
「いくらでもいるよな、なぁネロ」
「います。います。」
ネロは取り合えず、俺に返事を合せたったぽい。
そうこうしているうちに、風呂の用意ができたようだ。俺たちは、村人に連れられ、風呂に向かった。
「どうぞこちらで、汚れを落としください。
で、こちらが着替えになります。
脱いだ服はこちらの籠にお入れ下さい。これは処分します。」
と言われた。
「ネロ、風呂に入り終わったらクリーンを唱えてくれないか。
もうだめだ、鼻の中までが臭い。」
「わたしもそう思ったところ。わかったわ、また後でね。」
俺は服を脱いで風呂に入った。
「あ~やっと一息付けたな。今回はネロに悪いことをしてし
まったな。
振り返ってみたら、地獄だった。
あれ以上の悪い経験はそうそうないな。
ラサールの町に行ったらアイス食べさせないと。」
と思いながら風呂を満喫した。
「あ~幸せ。こんな経験はじめて。
これ、お風呂って言ったっけ。
温かくて体の中まで温まる~。あ~しあわせ~。」
と隣からネロの声が聞こえてくる。
もう既にオーク地獄のことは忘れているようだ。
2人はお風呂から出て、洋服を着てからクリーンを使った。綺麗さっぱり、体にしみ込んだ臭いが無くなった。
付き人の女性から、村長の家に促され、お伺いしたところ
「ちょうどよかった。食事の用意が出来ましたので。こちらへ」
と孫娘のリンから案内された。
いつもの座敷には村長が既に座っていた。その横に息子のゲンさんがいる。
いつものようにテーブルに着くと村長から
「改めて礼を言う。このたびは本当にありがとう。」
「いえいえ、仕事ですから。」
「私たちが思っていた以上の成果を出してくれた。いつぞやは疑ったりして、本当に悪かった。すまん。」
「いいのよ、解ってくれれば。」
ネロは満足げだ。
「少しばかりだが、食事を用意した。
お口に合うか解らんが、お腹いっぱい食べてくれ。」
「おお~」
ネロが声を上げた。顔はニヤけている。
そういえば、この3日間食べ物は食べていたけど、
何を食べていたが思い出せないくらい臭かった。
もうあんな思いはしたくないと俺は思った。




