ユート、翼を手に入れる
目を開けると、蝙蝠男が3人、俺の目の前に座っている。
「どうだ?」
蝙蝠男から声をかけられ、俺は起き上がり、体を確認したが特に変わっているところは無い。
だが体の中から 熱が発生しているようだ。
「すごく体の中が熱いんだけど。」
「ああ、それはしばらくしたら落ち着く。ちょっと俺たちの羽みたいに背中から羽が出ることを考えてみろ。」
「背中から羽が生えるってまっさか~」
と返答しつつ、イメージをしたらなんと、背中がバキバキとものすごい音を立てた。
やべ~。痛すぎる。
何だこの痛みは。
俺は目をつぶり、痛さに耐えられなくなって、うずくまってしまった。
すると背中から腹を伝って血がぽたぽたと地面に落ちている。
よく解らないけど俺はここで死ぬんだな。
そう思いながら背中の痛みを我慢していたら、急に痛みが引いた。
俺は、恐る恐る目を開け、自分の影を見ると背中から、羽が生えているではないか。
蝙蝠男と同じような羽が。
俺は立ち上がり、直接、自分の目で見るために首を振った。
しかし、俺が首を左に回すと背中は右に曲がり少ししか見えない。
当たり前なのだが、興奮して、首を左右に振って一生懸命、羽を見ようとした。
「おいおい、自分で羽を広げれば見えるだろ。」
あ、そうか。気が付かなかった。
俺は、羽が広がるイメージを思い浮かべた。
すると、バサっといって、羽が広がった。
おお、蝙蝠みたいな羽だ。
天使の羽とは違う、悪魔の羽に似ている感じ。
すげ~。ついに羽根を手に入れたぞ。
「おい、飛んでみろよ。」
「え、どうやって飛ぶの?」
「お前がいつも思い浮かべているやり方でやってみな。いつも浮いているんだろ。」
「ああ、空中に浮くのね。」
俺はウインドを唱え、浮いた。
すると、いつもなら、MPをかなり消費するのに、全然減らない。
10分の1、いや100分の1って言ってもいいぐらいだ。
蝙蝠男は空を指差して行けと俺に合図してくる。
俺は、飛んだ。
「うぉ~~~」
あっという間に空高く飛び上がり、ダンジョンの天井にぶつかるところだった。
「あっぶね~」
何とかギリギリ止まることが出来た。
俺は、ゆっくり、蝙蝠男が待つ場所に降り立った。
「どうだった。空を飛んだ感想は?」
「ありがとうございます。感動です。ヴァンパイアになればひょっとしたら空を飛べるかな~、と思っていましたけど本当に飛べるなんて。
「ん。パンパイアになれば?」
「いえいえ、こっちの話です。本当にありがとうございます。」
「面白い奴だなお前は。それと俺の体液を体に入れたから、かなり力が底上げされてると思うよ。あ、他にも面白いことが起こると思うけど、それはおいおい楽しみにしていな。」
「他にもあるんですか。ありがとうございます。楽しみに待っています。」
「おう。俺達は、砂漠地帯の先に居る。良かったら遊びにきな。」
そう言って蝙蝠男たちは飛んで行った。
俺はそれを見送った。
っておい、ちょっと待て。この羽はこのままか。
これだと、地上に戻ったら変人扱いされる。まずい。イメージ、イメージ。
するとまた背中がバキバキと音がし出した。
「うお~」
俺は痛さで叫んでしまった。
羽を出した時と同じように痛みが襲ってきた。
しばらく耐えていると羽は背中の中に納まったようだ。
「ふう」
飛べるのはいいが、痛いってもんじゃない。気を失うレベルだ。
もう羽を出したくないと思うぐらいのレベルの痛さだ。
自動回復機能があるからいいけど、普通の人は絶対無理だな。
といっても、人間には羽は生えないけど。
そんなことを思いながらメーテルの元に戻った。
「お帰りユートさん。ん、ちょっとその背中どうしたの? 服に穴が開いているじゃない。また、無茶したの?」
「あ、これね。背中から羽が生えたんだ。」
「あらそう。良かったわね。」
「それだけ?」
「ん、なんで?」
「だって、背中から羽が生えたんだよ。すごくないですか?」
「ユートさん。ヴァンパイアだから普通だと思うわよ。」
「あ、ヴァンパイアは普通なのか。」
「ええ、普通。」
「そっか。普通なのか。知らなかった。」
「ユートさんはまだ若いから羽が生えていないと思っていました。あ、そうだ。ちょっと羽を出してみてよ。それに合う洋服を作ってあげるから。」
え~。
と思いながら、痛いのを我慢してメーテルに見せた。
「ちょっとグロイわね。ビックリした。」
そりゃあ、そうだろう。血だらけだし。
「でも、わかったわ。ちょうど肩甲骨の辺りから骨が出て来てその後に羽が出て来たから、上手く作れると思うわ。ありがとう、もう仕舞っていいわよ。」
もう俺の気持ちも知らないで。
相当痛いんだぞ。
でも、仕方がないか、メーテルさんだし。
俺は、痛みを我慢して、羽をしまった。
しかしあれだな。この痛みにも慣れないといけないな。
ちゃちゃっと出来るようになれば、負担も少なくなるのかな。
羽を出すこと自体は、MPを消費するわけでも無いし、痛いだけだから我慢して練習する必要があるな。
頑張ろう。
そう言えば、他にヴァンパイアの特性って有るのかな。
他に考えられるのは変身ぐらいか。
でも、蝙蝠男になるのだけは避けたいな。だってあいつら本当に蝙蝠なんだもん。
マジで顔が蝙蝠。鼻も潰れているし。
体は人間だけど、うっすらとたくさんの毛が身体中に生えていた。いくらか強くなるって言ってもあれだけは嫌。
でも、変身以外にもあるかも知れないから期待していよう。
「さぁ~て、今日から山岳地帯だ。とりあえず、あのでっかい虫を探すか。」
と植物が一切生えていない岩だらけの山を歩いている。
しばらくすると案の定、虫の方からやって来た。
俺を食べるために。
大きさはジェネラルホーン位だが、羽を広げるともっとデカい。
形はゲンゴロウみたいだがもっと分厚くした感じ。長い2本の触覚があり、目は全体が黒い。ぱっと見、ゴキブリと間違えそうになる。
俺は、飛んでくる虫に対して、ジェネラルホーンの剣を投げた。
カキーン。
硬い殻に弾かれた。
やっぱりダメか。ここの魔物は硬いやつが多いな。
じゃぁ、ファイヤーボールだ。
虫は炎によって、羽が燃えて、地面に落ちた。
お、火は弱点か。これで地上で戦えるぞ。
と思ったら急速に俺に近付いてきた。
シュシュシュシュっと。
足を高速に動かして。気持ち悪い。
これだけ大きいと動きが良く見えて逆に気持ち悪い。ゴキブリみたいな足使い。
俺は、またファイヤーボールを放った。
しかし、簡単に避けられてしまった。
多分、あの触覚が反応して避けているらしい。
俺は、急いで落ちている剣を拾い、虫に対峙した。
虫が俺に体当たりをするために迫ってきた瞬間、上に飛び上がり避ける時に2本の触覚を切った。
すると虫は触覚がを切られたことによって、その場でくるくると回りだした。
どうやら切られた触覚で回りの状況を確認しているらしい。
目はほとんど見えないのか。
と思った瞬間、目からレーザーが飛び出してきた。
「うぉ~。なんだこいつは」
俺はすぐに地面に伏せた。
俺の上を幾つものレーザーが飛んでいる。
「やばいな。あの虫は、あたり構わずって感じだな。」
しばらくすると、燃料が切れたのか、レーザーが途切れ途切れになって来た。
もうすぐで切れそうだぞ。
そう思っていると。ピタッと俺の方に向いて照準を当てて来た。
まずい。
先ほどより太いレーザーが俺の前を地面をえぐりながら俺に迫って来る。
俺は間一髪体を転がして躱した。
すると次々とレーザーを発射してきた。
もうなんだよ。
レーザーって嫌い。
なんでここの魔物はレーザーが多いんだよ。
避けにくいし。強力だし。近づけないし。
特にこの虫はレーザーが途切れない。
縦横無尽に放ってくる。
辺りはもう砂埃がすごい。
ん、どうやら砂埃で俺を見失ったらしいぞ。
レーザーが明後日の方向に飛んでいる。
俺は、青いファイヤーボールを放った。
すると、虫に命中し、その炎が虫全体を覆い、焼きだした。
しばらくすると、炎は消え、真っ黒な焼き虫が残った。
あれ、やっつけちゃつたよ。
やけに簡単だったな。
もっと威力が強い魔法じゃないと殺せないと思っていたが、
これは嬉しい誤算だ。
たぶん蝙蝠男のおかげで力が底上げされたのだろう。




