004-僕婢の契約
静まり返った広場で亜人の娘が再び問いかけてきた。
「きみは?」
「さっきも聞いたよね?僕は、人だよ?あんたは?」
亜人の娘が聞きたかった答えだとは、思わないが何を聞きたいのか、タロウにも分からず、不本意ではあるがぶっきらぼうな返事をタロウは返した。
「それは、分かってます。きみも勇者なのか聞きたかったの・・・・・きみは、まだ子供だね?」
タロウは、彼女の言葉を聞き思った。
勇者?こんな空間に引き込まれた時から嫌な予感がした、なるほど。
「僕は、12才だから子供かな?あなたが、15才ぐらいでそっちの子は、僕と同じぐらいかな?それと、2人は女性だよね?」
「そうよ、私は15で、ハクは10歳。・・・女性か?て聞かれたのは不本意ね。私もこの子も正真正銘の女だよ。」
タロウが、彼女たちの年齢だけで無く性別も疑問形で言ったのは、
『・・・僕は、人だよ?あんたは?』この質問の返答が無いからだ。
さっき殺した生物の外見も、子鬼と言ったが亜人で、いま話をしている者も亜人だとタロウは、思っているからだ。
子鬼は、身長が、1m前後で油ぎった赤黒い肌でボディービルダー顔負けのムキムキの身体で額に角の様な突起があり下腹部には、男を示す物がさがっていた。
いま話している2人の女性もあきらかに普通の人間の様相と違う。
顔と髪は、我々と同じで違和感は無いが
頭の上にある獣耳がビクピク動き、
尾骨から伸びる細長い尾の先端が彼女の顔の後ろでゆらゆら揺れ動いている。
顔・首・手・足と首から胸全体と鳩尾からへそ周りにつづき下腹部から脚の付根までの部分が人間と同じ無毛の地肌であり女性の特徴と一致している。
それ以外の肌には獣と同じ短毛があり地肌が見えないのだ。
両者とも人間と似て非なる生物だからだ。
「いや、僕が無知でそっちの3人のような人しか知らなくて失礼なことを言って、ごめんなさい。もう一つ質問していいかな?」
「そんなにかしこまって話さなくても大丈夫だよ。疑問・質問・雑談でも話していいよ。こっちもまだ君に聞きたいこともあるから。」
彼女の許可を得てタロウが言った。
「なぜ、みんな裸なの?」
みんな、はっと我に返ったとみえ両手で胸と股を押さえて隠しだした。
いじめられっ子のハルコとケンジの2人は隠す事無く普通に痴態を晒したままだが・・・
「あっぁぁ・・・・これは、鬼から逃げる途中で剥ぎ取られただけで元から裸だったわけではないんだ・・・・君が違和感なく話してるから・・・・・忘れてただけだ。」
「それなら、いいんだ。この世界は、裸で暮らすのかと思って少し不安になったが、服を着るのが普通の様で安心しました。」
「それと、僕は、勇者では無いです。普通とは言いませんが他人に賞賛される様な者ではありませんし、成りたいとも思いません。僕は、自分の為に生きるただの一般人です。」
タロウの今の話に、アユミが反応する。
胸と股を両手で隠しながら立ち上がり
「あなた、雅家の末っ子でしょ!」
「はい、雅家の末っ子ですが、何でしょうか?」
「偉そうに!ここに、あなたの姉は居ないのよ!学園と違うのよ!」
「お姉さんが言う通りです。ここは、異世界で、僕の姉は、あの場に居なかったのでこの空間には、いないと思ってます。」
12歳の太郎の余裕の態度にアユミは、我を忘れ文句を言い続けた。
「あなたみたいな子供が偉そうな態度がとれるのは、雅家の家名と、あなたの姉の鬼畜な暴力に逆らえないからでしょ!あなた1人で何をした?上級生があなたに手を出さないのは、あなたの姉が怖いだけなの!あなたの力じゃ無いの!子供が偉そうなことを言っても、意味ないの!」
タロウは、思う。ヒステリックな女だ・・・・・やっと黙ったかと。
「ここが、異世界で身近に命を狙う敵が居る事に納得出来ず死にかけてたのは、お姉さん達の方では? 僕が手を出してなかったら今文句も言えなかったと思うのですが?」
ヒステリックな女には、冷静に事実を話すのが効果的だ。
「・・・・・・・・」
見事に反応できず口をパクパク動かすだけで言葉が出ないようだ。
「話は、終わりでいいですね? 僕は、先に行きますので失礼します。」
5人を残し来た道を戻り始めると
「まってください!」
ハルコがタロウの背中に抱き着いてきた。
思っていた以上のボリュウムとやわらかさにタロウは、幸せを感じた。
「私も一緒に連れて行ってください。」
タロウを抱きしめる身体が小刻みに揺れている。
さきほど子鬼を殺した罪悪感?
死闘とまでは言えないが、子鬼の爪が肌を切り裂き命の危険を感じながらも戦い生き残れた喜び?いや恐怖でなのか分からないが、タロウを強く抱きしめ震える体と声を精一杯使って訴えている。
そんなハルコに、タロウが、問いかけた。
「僕に着いて来るのはかまわないけど、僕の指示に従える?」
「はい!あなたの指示には、全て従います。ですから私をこの洞窟から救ってください!」
生き延びたい一心のようだ。
ここを抜けるまでには、多くの敵と戦う事になるし連れて行っても問題ないだろうとタロウは、判断して口をひらいた。
「お姉さん?敵の中に一人で飛び込めって僕が言ったら迷わず敵に突っ込めますか?」
タロウの質問に、ハルコは、はっと顔を上げタロウの顔を見て一瞬考えた。
「・・・・・それは、・・・・その・・・その指示で、私は死ぬのでしょうか?」
ハルコは、言葉を選び話そうとしたようだが、言葉がみつからず、思ったことを口にした。そんなハルコにタロウが
「僕は、自分が敵と判断した者には残忍な性格です。僕に敵対したり僕が大事にする家族や知人に危害を加えないかぎり仲間に非道なことはしません。仲間に成った者が僕を裏切ったとしてもこちらから関わりを絶つだけです。僕の指示を信用できなと感じたら迷わず僕を裏切ってください。お互いの利益が合致しないと仲間は、成立しないと、僕は、思ってますので。」
タロウの話を聞きハルコが考え込んだ。
しばしの沈黙の時が過ぎハルコがゆっくり話しはじめた。
「それは・・・・・最悪になれば私を助け出しに来ると言う事ですか?」
「絶対とは、言い切れませんが僕も、お姉さんが死ぬのは見たくないです。」
そう言って、タロウは、微笑んだ。
「・・・・・・ちょっと不安・・・・でも・・・あなたの言葉の後の微笑を信じます!」
「それでは、僕の下僕となる事を誓いますか?」
「はい!誓います。」
ハルコが下僕の誓いを述べるとタロウは、白きドラゴンの袋からネックブレース を取り出した。
あご下から胸元を覆う形の白い龍皮にシルバーの縁取りで細かく輝く魔石と銀の粉かなラインで飾られたネックブレース をハルコに見せると、それを首に取り付けてあげた。
「これは?下婢の私が着けていいの?」
「僕の下部に成った契約の証だから、つねに身に着けていて下さい。それと女性としての扱いは、しないと思うので下婢では無く下僕ということでよろしく。」
ハルコは、ネックブレース が覆う肌からやさしく暖かい力がゆっくり自分の中に流れ込む感覚に高揚してる様子で頬をうっすらピンク色に染め、ネックブレース を自分の両手で撫でている。
裸体にネックブレースだけとは・・・・・・シュールな光景である。