オープニングのオープニング
某ゲームを再プレイして懐かしくなり執筆
『ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』
(… … …は?)
暗闇から抜け出したと思ったら、いきなりの轟音が鼓膜を振るわせる。
ガタンガタンと、体も上下に振動、って痛い痛い肩に何か食い込んでる!
目の前には揺れる風景。
轟音と共に耳に入る、不安をかき立てる警告音。
全くもって意味がわからない。
<トレビアンジェル!大丈夫か!?おい!>
「え?え?何だこれ?」
目の前の風景の一部が、突如男の顔に変わる。
見たこと無いおっさんだ。
…いや、どこかで会ったか?
てか、轟音以上の声が耳に痛い!
よく解からないまま、前の風景を見る。
…山と森と、遠くに街が見えるが…これ宙に浮いてないか?
飛んでるのか?それとも落ちてるのか?
ここは…所謂コクピット?
改めて周りを見ると、様々なボタンや計器を見る事ができる。
ただ、それらは見るからに異常を伝えてる、気がする。
<…無事のようじゃな、カレッジ君、動けるか!>
「…無事とは言いづらい、ですがね。何とかやってみますよ、っとぉ!」
前からはおっさんの声、後からは女性の野太い声。
誰かいるのかと振り向こうとすると、体が一層揺れる。
「うああああああああ!?」
「お嬢、ちっとばかし無茶しますよ!」
『ジュゴォォォォォォォォ』
まるで、熱した鉄を水に入れたときのような音。
目の前も蒸気か煙かわからないが、白い気体で埋め尽くされる。
「ちょ!一体何が!」
「まさか飛行訓練を狙われるなんてね…、舌噛むから黙ってて下さいな」
変な方向からの重力が体にかかり、気持ち悪い。
白い気体の向こうには、さっきより大きくなった森が見える。
<トレビアンジェルの飛行部位、被害甚大!>
<自衛隊より連絡!敵4体撃墜!>
<敵指揮官型は依然健在!ゲキテツ苦戦中>
<あぁ、くそ!おい、さっさと援護にきやがれ!>
「着地後に問題が無ければいくよ!それまでがんばりな!」
矢継ぎ早に聞こえてくる、様々な会話。
理解は出来ないが、俺が置かれた現状はなんとなくやばい気がする。
色々と把握したいが、振動と轟音がそれを許してくれない。
赤いライトが点滅しだしたぞ、何だってんだほんとに!
<トレビアンジェル着地8秒前!6、5、4…>
「お嬢!衝突に備えな!」
「備えるって言われぐぎぃぃぃぃぃい!」
『ズウゥゥゥゥゥゥゥウゥッゥッドドドドドド』
「いでででだだだだ!」
尻と、肩と、背中が痛い!
洗濯機の中に放り込まれている気分だ。
だが、徐々に痛みが軽くなっている。
<トレビアンジェル着地成功>
<現在位置、有浦山中腹…人的被害無し!>
<今のショックで多くの異常が発生!>
「くそっ!反応しない!」
後ろから、ガッチャガッチャと音がする。
警告とか、ランプの点滅とか、目にも耳にも五月蝿い!
というか、本当に誰なんだ?
そこで、ふと、とある単語が引っかかった。
ん?…トレビアンジェル?
それって…。
<機体再起動に必要な魔力が足りません!>
<魔導回路損傷の可能性あり>
<…仕方ない、2人とも機体を降りるんじゃ>
「あぁクソッ!おいゲキテツ!後は頼んだよ!」
<くっ…!やるしかないか…>
<すまん甲斐君、急いで援護を回す>
<なるだけ早めにお願いし、うぉっっとぉ!>
ガコンと音が鳴り、体を締め付けていた固定具が緩くなる。
それと同時に、体と首を捻って後からの声の主を見る。
…あぁ、やっぱり。
「カレッジの姐御だ」
「…はぁ!?おいお嬢、あんた大丈夫か!?」
筋肉質で身長180近く。
小麦色に焼けた肌と、勝気な目。
ショートヘアーで、グラマーな体。
アメリカンハーフのスチュワート=カレッジ=水島…の姐御25歳。
設定資料集のまんまの彼女が、そこに居た。
「…ぼー、っとして、どうしたんだい?いいから出るよ!」
今、目の前に居るのは間違いなくゲームのキャラだ。
となると、本当に現状を理解できない。
いや、理解というか…そんな事ありえるのか?
そもそも、俺は一体…いや、姐御と一緒に乗ってるんなら予想はつく。
予想というか確信というか、でも俺、男だぞ?
「えと、もしかして俺は蓮集院天音、ですか?」
一応、確認を取るかと姐御に尋ねてみる。
すると、姐御は一瞬ぽかんとし、なにやら慌てだした。
「おい!救護班を呼んどくれ!お嬢の様子が変だ」
まぁ、そういう反応になるよな。
やっぱ俺は蓮集院天音、か。
…俺、男なんだけどな。
しかしコレはどうしたものか…てか、俺はどうなったんだ?
…夢見てるのか?
<蓮集院君が!?どうした、頭でも打ったのかね?>
「いえ、大丈夫です…貴方は如月所長ですね?」
<いきなり何を…確かに、いつもと感じが違うな>
「えと、俺は今ゲームの中に居るって、ことなんですかね?それか、夢?」
<…救護班を回す!カレッジ君、彼女を頼むぞ!>
<ゲキテツに敵の攻撃が直撃!>
<畜生!畜生畜生ちくしょぉぉぉぉ!>
…なんだろう、体がだるいし頭も痛い。
うまく言えないが、記憶がごちゃごちゃだ。
姐御が俺の体を抱きかかえ、外に出る。
あぁ、コレは始まりだ。
何回も見た事がある、ゲームの始まり。
「…おい、そこのあんた!何してるんだい!」
「すみません、この子、貸してください!」
…頭がズキズキする。
「無駄だよ、一般人がそいつを動かせ…え?」
「…いい子だね、お兄ちゃんを助けるの手伝ってくれる?」
機械的な音を響かせ、トレビアンジェルが立ち上がった。
その振動が体を揺らすので、頭の不快感がより強くなる。
「嘘、でしょ…」
姐御が歩き出すトレビアンジェルを見て、そう漏らす。
さっきの声は女だったな…なら、女主人公ルートか。
なら、ゲキテツとそのパイロットを助けに行ったんだろう。
ゲーム通りなら、この後に女主人公が敵を倒す。
初めての戦闘なのに、だ。
その事がきっかけとなり、物語が始まるはずだ。
これが夢なのか現実なのかは判らない。
だけど、間違いないだろう。
ここはゲーム『魔導甲冑マジェスティア』の中。
今のやり取りからチュートリアルが始まるはずだ。
しかも、俺はその中のキャラになっているみたいだ。
もちろん知っているキャラだ。
知っているだけに、目の前が真っ暗になりかける。
簡単言うとライバルキャラ。
ステータスが低くて、他キャラとの関係が良くないキャラ。
そして、進め方で異なるもののゲーム中盤で死亡。
もしくは廃人となり表舞台から消えるキャラ。
(お先真っ暗じゃねぇか…)
心の中の悪態をつきながら、頭痛と眠気に飲み込まれる。
俺は、途中離脱確定のライバルキャラ。
蓮集院天音ってキャラになってしまっているようだ。