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とある日常

作者: 早瀬悠斗

「すいません。部長。緊急事態です!」

「うん、何だ。どうした?」

「地下鉄が事故で止まっちゃったんですよ。今車内から電話してるんですけど。」


「地下鉄が止まった? 動き出すまでにどれくらいかかるんだ?」

「それが、何か少なくとも一時間ぐらいは動かないみたいです。」

「何だと? 念のために聞いとくけど、橘商事さんにはもう連絡したんだろうな?」

「は、はい、それはもうしました。でもどうしましょうか。先方もあまり時間ないみたいですし、これじゃ下手したら契約が中止になって別の会社が受注しちゃうんですよ。」


「し、しかし、これはもうしょうがないよな。全く何でこんなときに地下鉄の事故が起こるんだよ?」

「え、えーと、車内放送によると線路上に障害物があって、それにぶつかってしまったのことです。先頭車両では負傷者も出てるみたいです」

「ということは悪質ないたずらか。全く勘弁してくれ。何でよりによって、こんなときにそんなことするんだよ? あれはすごく重要な取引なんだよ。失敗したら下手すりゃこの四半期の利益が0になるんだよ!」

「ぼ、僕に言われても困りますよ!」


「あ、そうだ。地下鉄が止まったっていうけど、どの辺りで止まったんだ?」

「比良坂駅と岩戸駅の間、かなり比良坂駅寄りです」

「それじゃあ、すぐ近くじゃないか」

「そうなんですけど、なにぶん地下鉄が動いてくれないことにはどうしようもありません」


「にしたって、歩いたら10分ぐらいの距離なんだろ?」

「確かにそうですけど、それがどうかしたんですか?」

「そのあたりに駅員はいるか?」

「いませんね。みんな負傷者が出た先頭車両に移動してるみたいです。どうしてそんなこと聞くんですか?」


「それは良かった。もう1つ聞こう。車内に非常用のドア開閉ボタンはあるか?」

「ありますけど。…ああ、部長が考えてることは分かりました。」

「うん、君は察しがいいな。今度の人事異動では昇進できるかもしれないぞ」

「『かもしれない』なんですよね…」




「お、おいあんた何してんだ?」

「すいません。これから重要な取引があるんです!」

「にしたってな…」

「失礼します。」



 ”ドアが非常で開きます。ご注意ください。”







「何とか線路上に出ました。駅員も追ってこないみたいです。」

「よし、よくやった。比良坂駅に到着したらまた連絡してくれ。これは本当に重要な取引だから、君の時間通りの到着と取引の成功を期待している!」

「まあ何とかご期待に添えるようにって、あれ、あれは何だ?」


「うん、どうしたんだね?」

「向こうに誰かいるんですよ。もしかしたら応援の駅員かもしれません」

「何だって?」

「こっちに近づいてきます。と、とりあえず身を隠そうにも、隠れる場所がありません」

「壁にへばりつくかなんかして、何とか姿を隠せ!」


「ダメです! こっちに近づいてきます。う、うわ何だあれは?」

「ど、どうした。」


「あ、あれは駅員じゃない!人間ですらない!」

「いきなり何だ? 君は頭がおかしくなったのかね?」

「ほ、本当なんです!何か犬みたいな顔をした二足歩行の化け物です!そいつが何体もこっちに近づいてくるんです!何だあれは、全くわからない。あんなものは見たことがない!」



「落ち着け。いきなり訳のわからないことを言うんじゃない。一体何だ。私をからかっているのか? こんなときに冗談はやめてくれ!」

「本当なんです! 奴らが近づいてくる。ゴムみたいな体をしてて蹄がある。ああ、目が赤い! 赤い目がこっちを見てる!」

「もういい! 帰ったら精神科を紹介してやる。とにかく取引が終わるまでは平静さを保ってくれ。頼むから」


「し、信じてください。奴らはもう僕を包囲してる。ひどい臭いだ。ああ、やめてくれ。助けて! 食われる! う、うわ携帯が!」

「お、おい!?」


 

 バキッ

 

 ”おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、または電源が入っておりません”

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― 新着の感想 ―
[良い点] 駅名が日本神話ゆかりの名前なのでものすごく嫌な予感を感じました。音声の言葉のみでやり取りされていて、相手の様子が分からないために、余計想像力を掻き立てられると思います。小説ならではの表現だ…
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