ハゲウス、草を刈る
「なんだこれは、ゲームの世界に転移したとでもいうのか?」
見渡す限りの丘、その上から悪戯をする子供の様に笑うケルビムが俺の問いに答えた。
「此処は私が支配する7つの世界、その内の一つ《至高天》に位置する神々の農園。」
吹き付ける風がコートをはためかせ。
そうして俺は異変に気付く。
「俺の格好がさっきと変わっていない…?」
風が自慢のハゲ隠しヘアーを暴き、落ち武者へとジョブチェンジさせる。
クソァァァァ!!!!
「呼んだ理由は単純明快、貴方に入社試験を受けて貰う為ですよ。」
随分と楽しそうじゃないか。
そんなにハゲ散かしが面白いか。
「はっ!まさかここでペーパーテストしようってわけじゃあないんだろ?」
「ええ、ちょっとした実技試験ですよ。どっちみちこれを生き残れなければ雇ってもすぐ死ぬだけですから。」
そんな事を言いつつ楽しそうにするケルビムを見つつも、規則的に吹き付ける風に違和感を覚える。
「ここで一日生き延びられたら合格にしてあげますよ、ハゲウスさん。」
嗤うケルビムの姿が消えると、同時に後ろから緑の山が聳え立つ
ぬらぬらとした光沢の内に輝く炎は、一瞬にしてケルビムが居た場所を焼き尽くす。
「なんだあれは!ドラゴンか!?なんなんだよほんとにこれは!!!」
爆風にもう髪はメチャクチャにハゲ散ってる。
打ち付ける熱だけでも肌がチリチリする。
焼かれれば一瞬で黒こげになれそうだが、幸いして風上に居る為に焼け死ぬことは無さそうだ。
突如ドラゴンから鳴き声が漏れた。
「グガァガァガァ」
何だ…?笑ってやがるのか?
直後翼を羽ばたかせこちらに風を送り出す。
すぐに俺は意図に気付いた。
こいつ焼き殺す気だ!
勢いを増した炎が押し寄せる。
「遊びのつもりか!!ふざけやがってぇぇ!!!」
全力で逃げるしかない。
追い風を受けながら走るが、それと同じ速度で炎が俺を追いかける。
とにかく草が無い場所に逃げなければ焼き殺される!
走っている内に気がついたが、ここは元々畑の様で朽ちたかかしや錆びた農具が刺さっていた。
走り続け、丘陵を越えた先には、見渡す限りの草原があった。
これは無理だ、この勢いで逃げ続けられる気がしない!
何か無いか何か!
消火する道具などあるはずもなく、水路も井戸も無かった。
「どういうことだよ!どうやって作物育ててたんだよ!!!」
ハゲウスは激怒した。
それによりさらに禿げた気がした。
「そうだ!鎌でもあれば!」
俺は天才だった。
そして日本人でもあった。
古事記によると、かつてヤマトタケルは草原で火計を受け死にかけたが剣で草を刈り難を逃れたと言う。
つまり先に草を刈ればいいのだ!!
見つけたボロボロの鉈で、なんとか目の前の草を刈っていく。
正直なぎ倒すレベルだが、明らかに後ろからの炎は勢いを失い通り去っていった。
「民草ニシテハ、ナカナカニ知恵ガマワルモノダ。」
笑いながら、俺で遊んでいた奴がそんな事を言い出しやがった。
「これでも大学には行ってたんでね、2年だけだけど。」
興味深そうに俺を覗き見る目玉が見開き。
緑の龍は俺を追い回していたときよりも大きく笑いだした。
響く重低音が内臓まで振るわせる。
「奴モ面白イ者ヲ見ツケルモノダ」




