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居候猫の父の気がかり  作者: 小高まあな
第三幕 猫には首輪を。
7/34

3−2

「ただいま」

 スーパーでの買い物を終えて、家に戻ると、

「おかえりなさーい」

 ぱたぱたとマオが玄関まで出て来た。

「走らない」

「走ってない!」

 うそつけ、走っていただろうが今。

 テレビはニュースを流している。ああ、飽きたんだな、さては。

「夜ご飯なにー?」

 スーパーの袋を覗き込んでくる。

「んー、シチュー。っていうか」

 野菜達と一緒にいれていた、ペンダントの袋を渡す。

「これやる」

「え? なになに?」

 小さな袋を受け取ったマオが、驚いたような顔をする。

「あけていい?」

「どーぞ」

 びりびりと、酷く乱暴に袋をあけたマオが、

「わー」

 出て来たペンダントを目の前にかざして、きらきらと顔を輝かせた。

「え、なに、どうしたの? どういう風のふきだまり?」

「強引に売りつけられた。あと、吹き回しな」

 また優しいから気味が悪い、とか言われないように言い訳する。浮かれたマオは、そんなこと聞いちゃいなかったが。

「えー、わー、嬉しい! 猫、可愛い! 緑お揃い!」

 えへへ、っとだらしなく頬を緩ませる。

 思っていた以上に喜んでくれたので、こちらも小さく唇を緩ませた。

「ね、つけて! つけて!」

 はいっと渡される。自分でつけろよ、とは思ったが、ここまで喜ぶのならば、多少サービスしてもいいかもしれない。

「後ろ向いて、髪じゃま」

 後ろ向いたマオが、髪の毛をひとまとめにする。ペンダントをそっととめた。

「はい」

「ありがとー! 大事にするね!」

 こちらを向いて、マオがまた、さらに笑う。首元の猫を指で弾く。

 かわいいねーなんてペンダントに向かって話かけていたが、

「そうだ!」

 ソファーに置いてあった自分のケータイをとってくる。

「写真撮って!」

 そしてそれを隆二に渡した。

 途端に、渋い顔になったのが自分でわかった。撮ってって、お前。

「もー、待って」

 それを見て、マオが呆れたような顔をしながら、ケータイを操作する。

「はい、これで大丈夫。あたしに向けて、そのカメラのマークそっと触ればいいから」

 ご丁寧にカメラを起動させてくれた。

 しぶしぶ、それを持ってマオに向ける。

 浮かれた顔をしたマオとペンダントが画面にはいるようにして、言われたとおりカメラのマークに触れた。

 かしゃっと音がする。

「撮れた?」

 横からひょいっとケータイを奪いとられた。

「あ、うん、撮れてる撮れてる。ほら」

 見せられた画面には、確かに浮かれたマオの写真があった。

 よかった、取り直しを要求されなくて。

「そうだ」

 隆二のズボンのポケットからひょいっと、隆二のケータイを抜き取った。

 今度は何を企んでいる。

「マオ」

 呆れて名前を呼ぶと、マオは手慣れた様子で隆二のと自分のケータイを操作しながら、

「これ、隆二のケータイの待ち受けにしてあげる!」

 とんでもない発言をした。

「ちょっ」

 慌てて取り返そうとすると、それよりもはやく、マオはひょいっとソファーに飛び乗った。

「跳ねない!」

「もー、あとちょっとなのー!」

 ソファーのうえに立ち上がり、隆二からケータイを庇うように背中を向ける。

「ちょっとじゃなくて、返せ」

 近づいて手を伸ばすと、マオはそれを避けるように身をよじった。ソファーの端っこでそんなことをするから、バランスを崩して倒れそうになる。片足がソファーから落ちる。

「ひゃっ」

「マオっ!」

 それほど高くないとはいえ、足を捻るぐらいはしかねない。慌てて手を伸ばし、その体を支えた。

「わ、びっくりしたー」

 無事着地したマオが、驚いたような顔をする。

 びっくりしたのはこちらの方だ。頼むから、むやみやたらに怪我するようなことをしないで欲しい。なんで家の中でまで、こんなに肝を冷やさなきゃいけないんだ。

「マオ! お前な」

「助けてくれて、ありがとー」

 小言の一つ二つ言ってやろうと口を開いたが、笑顔でそうお礼を言われて言葉につまる。わかっているのか、わかってないのか。

 マオはそんな隆二のことは気にせず、ケータイを操作し、

「あ、はい、できたよ」

 隆二にケータイを返した。

 受け取ってみると、確かに待ち受け画面がさっきの浮かれたマオの写真になっていた。

「勝手になにすんだよ!」

 直せないだろうがっ!

「それが嫌なら隆二が、自分でがんばって直せばいいんだよー」

 どうせ無理でしょう? と言いたげに勝ち誇って笑われる。実際無理なのだが。

 しばらくケータイを睨みつけていたが、

「……まあ、いいか」

 誰に見せるものでもないし。

 そう自分を納得させると、諦めてケータイをテーブルの上に置いた。

「……怒った?」

 ここにきて、急にマオがそう尋ねてくる。恐る恐る、隆二の顔色を伺うようにして。不安になるぐらいなら、最初からこういうことするなよ。

「呆れてるだけ」

 溜息まじりにそう言うと、片手でその頭をぞんざいに撫でた。それにマオが、安心したようにちょっとだけ笑う。

「あと、あんまり飛び跳ねたりしないように。危ないし、下の人に迷惑になるから」

「……危ないし、心配?」

 なんでそこでちょっと嬉しそうな顔をするんだ。

「下の人の迷惑になるから」

 後半の理由を強く推すと、

「……はぁーい」

 ちょっと頬をふくらませる。

「ほら、夕飯作るから」

 ちょっとどいてて、と言おうとすると、

「手伝う!」

 元気よく言われた。

 手伝う、ね。台所って刃物も火もあって危ないんだがなー、とは思いつつ、

「じゃあ、とりあえず買って来たものしまっといて」

 無難なところを頼む。

「はーい」

 マオは持っていたケータイをテーブルの上に置くと、代わりにスーパーの袋を手にとった。

 マオのケータイには、猫のぬいぐるみがついている。ストラップにしてはでかすぎだろ、とは思うが本人は気にしていないらしい。裏返しておかれたケータイ。そこには、この前とったプリクラが貼られていた。最初の、一番うまくとれたやつ。

 それを見て少しだけ微笑む。

 まあ、マオが楽しそうだし、いいか。

「りゅーじー!」

「はいはい」

 台所で手招きしているマオの方へと向かった。

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