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居候猫の父の気がかり  作者: 小高まあな
第三幕 猫には首輪を。
6/34

3−1

「マオ、買い物行くけど、どうする?」

 テレビの前に座ったマオに尋ねる。今は絶賛実体化中だ。

「んー、待ってるぅー」

 テレビから目を離さずにマオが言う。

 だと、思ったよ。

 今やっているのは、四苦八苦久美子、だ。疑心暗鬼ミチコと同じ美少女四字熟語シリーズでありながら、実写版は予算の都合で作成されず、アニメ版ではじめて作成された話だそうだ。

 まあ、当然のことながら、マオはそれに夢中だった。もう今更、それには何も言うまい。

 しかし、ウェディングドレス姿で戦う少女が四苦八苦とは。なんというか、皮肉っぽいよなあ。

「留守番しとけよ、勝手にでかけんなよ」

 一応釘を刺しておく。一人で出かけた先でなにかあったら困るから、一人での外出は禁じている。

「んー」

「マオ」

「はーい」

 片手をあげての返事に、逆に不安になりながらも、家を出る。

 マオが実体化して、隆二が助かっていることがあるとすれば、テレビの操作をマオ自身が行えるようになったということだ。前は、やれ電源いれろ、チャンネル変えろと寝ていようが本を読んでいようがおかまいなしにリモコン代わりに使われていたが。

 久美子が終わって次の番組がつまらなくても、適当にチャンネルまわして楽しい番組を見つけてくれるだろう。

 マオの相手は、テレビに任せておくことにする。まったく、優秀なベビーシッターだ。

 今日の夕飯は何にするか、考えながらスーパーに向かう。

 手を抜いてコンビニで買うことも多いが、やはり自炊の方が体にいいのではないか、と気づいてから、それなりに積極的に料理するように気をつけている。簡単なものしか作れないが。

 こんなことになるとわかっていたら、京介に料理でも習ったのになー。そんなことを思う自分に苦笑する。

 しかし、仮定の話、自分の心の中での話とはいえ、京介のことをこんな風に思い出すことができる。それに思い至ると、なんとも言えない気分になる。

 思い出すのが辛くて避ける時期は終わった。そのことを意識すると、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかわからなくなる。

 そんなことをつらつら思いながら歩いていたからだろうか。

 前方に、なんだか見覚えのある黒髪が見えた。

 そろそろ切った方がいいんじゃないか、と思うぐらいの長さの黒髪。

 思わず、早足になってそちらに向かう。

 地面に座りこんだ、その体格は似ている。

 神野京介に。

「きょっ……」

 近づいて呼んだところで、その人物が顔をあげた。

 確かに似ている髪型で、体格だったけれども、見えた顔は女のものだった。

 違った。当たり前だ。

 やっぱりまだ、踏ん切りがついていない。

「……すまない、知り合いに似てて」

 怪訝そうな顔をする女にそう告げる。

「あら、昔の女にでも似てた?」

 言いながら女がくすくすと笑った。

「いや男」

 正直に答えると、

「うわっ、失礼な! 何か買いなさいよ」

 地面に座り込んで何をやっているのかと思ったら、路上でアクセサリーを販売しているらしい。

 まあ確かに、男に間違えるのは失礼だったな、いくら、よくいえばスレンダーな体格が似ているからといって。

 並べられた手作りアクセサリーとおぼしきそれらを眺めていく。

 まあしかし、眺めたところでどうしたらいいのか。適当になんか安いの買って逃げるか。

 そんなことを思っていると、視線が一点でとまった。

 猫のチャームがついた、ペンダント。猫の横にちょこんっと緑色の石がついている。

「それねー、キャッツアイ」

 隆二の視線を追って、女が言う。

「キャッツアイ?」

「そー、猫目石。光があたると、猫の眼っぽい筋がでるから」

「へー」

「えっとね、邪悪を祓うとか、そういう効果があるらしいよ」

 適当で投げやりな台詞。売る気あるのか。

「触っても?」

「どうぞ」

 それを手に取って、目の前まで掲げる。そっと値札を確認したが、お手頃価格だった。

 緑色、猫。おまけに邪悪を祓うとか。

 これはもう、ぴったりだろ。家でテレビを見ている、緑の瞳を持つ居候猫に。

「……じゃあ、これ」

「どーも」

 手渡すと、女が袋に入れてくれる。

「カノジョに?」

 金銭と引換に袋を受け取りながら、その質問に苦笑いを返す。

「いや? 猫に」

「猫?」

「そういえば、まだ首輪をつけていなかったんでね」

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