表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居候猫の父の気がかり  作者: 小高まあな
第九幕 迷い仔猫の同居人
32/34

9−3

 その準備の連絡は意外とはやく、一週間後には、いつでも引っ越せますよ、などと言われた。それならば、マオが実体化しているうちに引っ越してしまおう、と連絡を受けた二日後には、新天地に向かっていた。

 どうせ荷物なんて、たいしてないし、面倒な手続は研究所任せだし。

 電車を乗り継ぎ、目的地につく。切符の購入も乗り継ぎの案内も、全部エミリに頼んだが。

 人の少ない駅で降り立つと、ちらほらと視線が向けられた。

「やっぱり目立つのかな」

 向けられる視線に、マオは右手を隆二にくっつけて隠そうとする。必然的に腕を組んだような形になって逆に目立つような気もした。

 研究班の寄越した義手をつけているから、ぱっと見はよくわからない。それでも、右手のことは気になるらしい。こればっかりは、慣れてもらうしかないな、と思っている。

「そんなことありません。うちの研究所はバカばかりですが、その腕は優秀ですから。わたしたちが可愛いのに神山さんがむっつりしてるからですよ」

 そういって微笑むエミリ。お前の服が真っ赤だから目立っているんだよ、と思うのはどうやら隆二だけらしい。

 とはいえ、赤は赤だが、エミリの服はいつもと違っていた。

 今までのエミリは、いつも同じような、赤いジャケットに、かろうじてオレンジ色っぽいスカート。赤いブーツ、赤いベレー帽と全身赤コーデだった。

 今日は白いブラウスに赤いカーディガン、赤いチェックのスカートで、靴は黒のパンプスだ。帽子も被っていない。

 赤は赤だが、いつもと違う。控えめだ。

 その理由を考えながらエミリを見ていると、

「なにか?」

 視線に気づいたエミリに、不思議そうな顔をされた。

「いや、別に?」

「そうですか」

 駅から先は隆二を先頭に歩いて行く。

 ところどころ、見慣れた景色がある。自然に、歩く速度がはやくなっていく。

「隆二、はやい」

 マオの抗議の声に、慌てて歩く速度を落とした。

 でも、もうすぐそこだ。

 その角を曲がれば……。

 角を曲がって、その場所を見た時、一瞬息を呑んだ。

 そこは昔と何もかわっていなかった。

 近代化にのりおくれたようにぽつんと家が立っていた。寂しげに。

 もうずっと来ていなかった場所。一条茜と過ごした場所。そして、これから住む場所。

「……ただいま」

 崩れかけた門扉を撫でながら小さく呟いた。

 感傷に浸る隆二の横を、すすっとマオが通り抜ける。

「へー、ここに住んでたんだ」

 言いながらマオが家に向かう。

「マオさん、鍵あけますね」

 それをエミリが慌てたように追う。

 まさかまた、ここに住むようになるとは思わなかった。未だ一条の持ち物だったらしいが、持て余していてすぐに購入できたらしい。一条稔が親戚筋だったことも関係しているらしい。ありがたくもない話だが。

「隆二ぃ、はやくぅー」

 家の方からはしゃいだマオの声がする。それに苦笑しながら返事をした。

「今行くー」

 部屋の中は、一通り掃除と修繕がしてあるようだった。

 ゆっくりと辺りを見回し、茜との日々を思い出そうと、

「お風呂が変!」

「ああ、五右衛門風呂だから」

「あ、知ってる! テレビで見た! 釜ゆでにされるのね」

「ああ、まあ……」

「ねぇねぇ、あれはー!」

 思い出そうとしたけれども、出来なかった。はしゃいだマオの声が色々と話かけてくる。

 それに答えながら、まあいいか、とも思った。今後一緒に住むのはマオだ。茜じゃない。茜のことを今、無理に思い出さなくても。

 大事なのは、今とこれからだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ