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居候猫の父の気がかり  作者: 小高まあな
第七幕 猫の手だって厭わない
27/34

7−6

 マオ探しを続けていた隆二は、ポケットのケータイが震えたことで足を止めた。

「わかりました」

 電話の相手、エミリは前置き無しでそう言った。

「車の持ち主は、一条稔」

「……一条?」

 偶然なんだろうが、嫌な名字だな。

「お知り合いですか?」

「いや、悪い、続けてくれ」

「一条は、研究所の事務担当の一人です」

「研究所か。そうか、それならマオが霊体に戻っても見えるし触れるな」

「はい。諸々のことから、一条がマオさんを攫った可能性が高いと考えられます。それで、その、諸々のこと、なのですが」

 そこで珍しく、エミリが一瞬口ごもった。

「一条には、一人娘が居たんです。名前は花音。三年前、十五歳の時に亡くなっているんですが。……その外見が似ているんです、マオさんと」

「は?」

 言われた意味がわからなくて問い返す。

「写真、あとでケータイに送ります。本当に似ているんです。髪や目の色が、マオさんとは違って漆黒なぐらいで、あとはまったく一緒です」

「……あいつら、マジな人霊を使ったってことか」

 Gナンバーは人工的に作られた幽霊。その原理についてエミリが以前色々言っていたが、研究班が嘘をついている可能性もある、とも言っていた。やはり嘘をついていて、本当に亡くなったというその一条の娘の魂を使って、マオを作ったというのか。死して必ず幽霊になるわけでもない。成仏するはずだったその魂を、現世に縛り付けたとでも?

「わかりません。それが本当だったとして、一条が実験に絡んでいるのかもわかりません。だけど、一条、娘の幽霊を見たって最近言っていたらしいんです。テレビで!」

 エミリの声が高く、大きくなった。

「テレビで?」

「父の、知人なんですっ。わたしがオカルトクエストのDVDを渡した!」

 マオのあの、浮かれた心霊写真が採用されたテレビ番組。

「それって、あの心霊写真ですよね? どうしよう、わたしが、送らなければっ。そしたら、一条がマオさんのことに気がつくこともなかったのに、わたしのせいでっ」

「落ち着け。嬢ちゃんのせいじゃない」

 確かに、その写真を見て娘の幽霊の存在に気がついたのかもしれない。だからといって、エミリのせいなわけじゃない。

「だけどっ! エクスカリバーもないんです、一つっ!」

 上擦った声に、一瞬思考回路がとまった。

「……エクスカリバーが?」

「さっき電話かかってきて。わたしが持ち出したと思われたみたいでっ」

 なんだそれ。マオが元々人間で? マオの父親がマオを攫って? そしてエクスカリバーを持っている? どういう状況だよ、これ。

 何も言えない隆二にかわって、電話の向こうのエミリは早口でまくしたてている。

「もうやだなんでっ! 研究班が隠し事しているのはわかっていたけど、まさかここまでっ! ダディもあんなだし、なんなのよっ!」

 それは素の彼女の言葉だった。普段冷静な彼女の、取り乱した声を聞いていたら逆に冷静になれた。

「嬢ちゃん」

「はい?」

 なんだか泣きそうな声に、

「頼む、助けてくれ」

 頼み込む。一人じゃ動けない。一条がどこに行ったのかもわからないようじゃ。

 エクスカリバーを持っているのならば、はやくしなければ。霊体に戻ったからといってマオが無事だとは限らない。

「でも、もうこれ以上は」

 電話の向こうの声はなんだか、慌てたようだった。

「ダディもあんなだし、研究所として動きようが……。研究班としては一条のことは隠したい出来事でしょうし、この後はきっと隠蔽合戦になって、わたしも動きようが……。これ以上動いたら確実に睨まれて」

「頼むよ」

 エミリのおろおろとした言葉を遮る。

 エミリに頼ってはいけない。エミリは研究所の人間だ。命令に背けということを、エミリに願ってはいけない。それは踏み込んではいけない領域だ。そんなこと、わかっている。

 わかっているけれども、頼むより他がないのだ。

「頼む、エミリ」

 強い口調で、しっかりと告げた。彼女の名前を呼んで。

「……ずるいです」

 一呼吸置いて、電話の向こうが絞り出すようにして言った。

「わかってる」

「なんで……、こんな時にはじめて、名前で呼んでくださるなんて」

 声が震えている。

「うん、ずるいんだ、俺」

 使えるものならなんだって使う。それが結果発生を阻止してくれるのならば、躊躇わない。例え、どんなに罵られても。非人道的でも構わない。マオを助けられるのならば。

「手伝って欲しい、エミリ」

 駄目押しのようにもう一度。

 電話の向こうではしばらく沈黙が続いていたが、

「……わかりました」

 次に聞こえた声は、どこかふっきれたように聞こえた。

「わたし一人で、どこまでお役にたてるかわかりませんが、マオさんのためですから」

「ありがとう」

「だけど、一つだけ、いいですか?」

「なに?」

 すぅっと息を吸う音が聞こえる。なんだ? と思っていると、

「このっ、ひとでなしっ!」

 大声で一言、罵られた。

「っ」

 慌ててケータイを耳から離す。不意の大音量に、耳が痛い。

「すっきりしました」

 落ち着いた声が聞こえて、また耳にあてる。

「今の……」

「ずっと言いたかったんです。それじゃあ、車の行く先など、わかったらまた連絡します」

 言ってぷつりと、ケータイが切れた。

 ひとでなし? 上等だ。

 唇を皮肉っぽく歪める。

 ひとじゃないんだ、ひとでなしだ。もう一人のひとでなしを連れて帰るためならば、そんな誹りいくらでも甘んじよう。

 だからマオ、

「もうちょっと待ってろよ」

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