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居候猫の父の気がかり  作者: 小高まあな
第七幕 猫の手だって厭わない
25/34

7−4

 隆二はケータイを取り出し、時間を確認した。午前九時。マオの実体化がとける時間だ。

 今頃どこにいるのか。変なところで実体化がとけて、面倒なことになっていなければいいが。

 思ったところで、手の中のケータイが震えた。見知らぬ番号。慌てて出ると、

「もしもし。えっと、コンビニ店員の菊です」

「ああ。なにかわかったか?」

「カレシがこの写真に似た人を見たって。あと」

 そこで菊は一度躊躇うように口ごもってから、

「……このペンダントに似ているのと、なんか服が落ちているって」

 さすが、若者の情報網。

「場所は?」

 ペンダントや服が落ちていること事態は、危惧することではない。実体化がとけたからだろう。つまり、実体化がとけるまでマオは近くにいたことになる。

 近くにいたのに、なんで戻って来なかったのかはわからないが。

 菊から場所を聞くと、そこに向かって走り出した。


 件の場所に行ってみると、大学生ぐらいの青年がケータイ片手に立っていた。

「あの」

「あ、あなたが菊の知り合いの?」

 そう問われた言葉に頷く。

 こっちなんですけど、と案内された駐車場の影。そこにはペンダントと洋服、ポシェットが落ちていた。

「これ、そうですよね?」

 指差されたペンダントをそっと拾い上げる。マオのものに間違いない。

 辺りを見回すが、霊体に戻ったマオがいる様子はない。

 大事にするねと笑っていたこれが、こんなところに無造作に落ちているわけないのに。

 少し、期待していたのだ。町中で元に戻ってしまって、途方に暮れているんじゃないかって。だけれども、やっぱり、ここにも居ない。

 ついさっきまでは、ここにいたはずなのに。一体どこに行ったというんだ。もしかしたらここで会えるんじゃないかと思っていた。その分、失望の念を禁じえない。

「男に追いかけられているの見たんです」

 ペンダントを握ったまま何も言わない隆二をみて、青年がそう話はじめる。

「なんかヤバそうだなと思って、警察呼んだ方がいいか悩んで、一応あと追いかけてみて。見失ったと思ったらこれがあって」

 地面に散らばった衣服。ああ、どうみても事件性大だ。

「これ、ヤバいですよね? 警察にとどけますか?」

「……いや」

 それになんとか、首を横にふった。

「わけありなんだ。それはできない」

「そうですか」

 予想以上にすんなり頷かれた。

 それが意外で、青年に視線を向けると、彼は苦笑した。

「菊の紹介してくる人なんて多かれ少なかれそうですよ」

 どんな人付き合いしているんだ、あの小娘は。それに助けられた自分が言うべきことじゃないが。

「あ、あとこれ。その男がそのあと車に乗って立ち去るの見かけて」

 言いながら、青年が自分のケータイを操作する。

「一人だったんですけど。念のためナンバー写真とって」

 渡されたケータイには、確かに黒い車のナンバーがしっかり映っていた。それにしても、

「……なんでそんなことを」

 用意周到過ぎるだろ。

「子どもの頃から探偵に憧れ続けるとこうなっちゃいます」

「ああ」

 その言葉に苦笑する。なんとなくわかってしまって。マオみたいなものか。

 渡された写真にうつるナンバーを覚えると、電話をかけた。

「見つかりましたか?」

 電話の相手、エミリは出ると同時にそう言った。

「手がかりだけ。嬢ちゃん、車のナンバーから持ち主調べられるか?」

「わたしの権限外ですが……、父に頼めば、恐らく」

 訊いといてなんだができるのか。相変わらず嫌な組織だ。それでも、頼るしかない。研究所の力に。

「頼む」

 問題のナンバーと、軽く経緯を説明すると、

「わかりました。なるべく早めに連絡します」

 言って通話が切れた。

 地面に落ちているマオの衣服と鞄を拾い上げる。それらはぞんざいにまとめたが、ペンダントだけは無くさないように、そっと財布の中にしまった。ここが一番安全だろう。これはちゃんと、マオに渡さなくては。なくしたなんてことになったら、きっとあいつは怒るから。

「あの」

 青年が躊躇いがちに声をかけてくる。

「助かった。ありがとう」

 それに頭を下げた。

「あ、いえ。……あの?」

「このあとはこちらでどうにかするから大丈夫。万が一、またその車を見かけたら連絡ください。あのコンビニの子にもお礼を言っておいてください」

 早口で告げる。

 車の行方はエミリに任せるとして、隆二は隆二でマオを探すことをやめるわけにはいかない。立ち止まっているなんてできない。まだ、近くにいるかもしれないから。

 じっとなんてしていられない。止まっていることは怖いから。

「本当にありがとう」

 困惑の表情を浮かべる青年にもう一度そう言うと、足早にその場を後にした。


 残された菊のカレシ、志田葉平は立ち去った隆二の背中を見て首を傾げた。

 まったく、一体あの人はなんなのだろうか。ナンバー照会をどこかに依頼していたが。

 怪訝に思っていると、ケータイがなった。菊から電話だ。

「もしもし?」

「葉平、無事に常連さんに会えた?」

「会えたよ」

 とりあえず手がかりぐらいにはなったみたい、と続ける。

「っていうか、菊、あの人は何者?」

「バイト先のコンビニの常連さんで。んー、内緒って言われたんだけれども葉平にだけは教えちゃう」

 内緒って言われたなら内緒にしとけよ。

「内緒だよ、あのね、吸血鬼さんなの」

「……ああ、そう」

 気が抜けた返事をかえす。

 声をひそめて、さも重大なことのように言うから何かと思ったら、またそんな夢物語か。

 なんで俺のカノジョはこんなに夢見がちなんだろう。未だに探偵なんていうものに、僅かな憧れを抱いている自分が言えた義理じゃないけど。

 一つ、溜息をついた。

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