6−5
隆二は、一度試しに家に戻って来た。入れ違いになっている可能性も考慮して。けれども、やはりそこにマオの姿はなかった。
舌打ちすると、マオのケータイをテーブルの上に置く。戻って来たら連絡しろ、のメッセージをつけて。
それから、ブレスレットの袋も隣に置いた。マオから直接渡されるまで、これは自分のものじゃない。
時計を見る。夜中の三時だ。
ここまで本当に姿が見えないなんて、本当になにかあったんじゃないか。もう、戻って来ないんじゃないか。
考えると、心臓がぞっと凍える。
と、ポケットにいれたケータイが震えた。
慌てて取り出す。着信表示は、進藤エミリだった。
「もしもし。夜分にすみません。今、留守電聞きました。今日は珍しく、ずっと外だったので」
眠気を噛み殺したような声。
「どうしました?」
「マオが帰って来ないんだ」
告げると、電話の向こうの空気が変わった。
「いつから?」
返ってきた声は、張りつめていた。
「夕方から」
言いながら、ここまでの出来事を説明する。
「……わかりました」
返事をしたエミリには、もう眠気は感じられなかった。
「わたしもすぐにそちらに……」
「いや、それは大丈夫」
エミリがここに来るまでには、また時間がかかってしまう。研究所とは距離が離れているし、もう電車もない時間だ。それにあんな赤服に夜間出歩かれたら、また別のトラブルを引き起こしてしまうだろう。
それよりも、
「調べて欲しいことがある」
「はい」
それを告げるには、勇気が必要だった。一拍おいてから、早口で。
「夕方から今まで、うちの辺りで起きた事件事故、調べてくれないか」
電話の向こうで、エミリが息を呑んだのがわかった。
「神山、さん。それは……」
「そうじゃなければいいと思ってる。だけど」
なんらかの事件事故に巻き込まれたんじゃないか。そして怪我なりなんなりして病院に搬送されて、連絡先がわからず隆二のところに連絡が来ない。その可能性だって十分考えられる。
「可能性を否定して、見逃すなんてことの方が、あってはならないだろ」
怪我をしているのならばはやく会いにいってやりたいし、最悪なことがあるのだとしてもはやく傍に行きたい。このまま見逃してひとりぼっちにさせてしまうことが、一番あってはならないことだ。
絞り出すように発した言葉に、エミリは少し躊躇ってから、
「わかりました」
力強い声で返事した。
「なにかわかったらすぐに連絡します」
「すまない、夜遅くに」
「いつものことですよ」
「頼む」
「はい」
通話を終える。
何もないのが一番いい。だけれども、何もないままここまで連絡がないわけがないのだ。何かあったことは、否定できない。
もう一度マオを探すために部屋を出た。
覚悟はしている。だけど、希望は捨てない。次にこの部屋に入るときは、二人一緒に、だ。




