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居候猫の父の気がかり  作者: 小高まあな
第六幕 The cat is in the cream pot.
20/34

6−4

 ぜぇぜぇと、自分の呼吸が乱れているのがわかる。それでも足を止めることはできない。

 ビルとビルの間の細い隙間。そこに目をつけると、マオはするりと身を滑り込ませた。

 ぎりぎりなんとか入り込めた。胸がないとか悩んだりもしたけれども、今は感謝だ。

 横歩きで奥に進み、ビルの影にしゃがみこむ。

 男が走って行くのが見えた。

 ふーっと一息つく。

 駅ビルから出た後、途中までは順調に帰れていたのに、安心しきったところであの男はまた現れた。

「花音!」

 なんて叫びながら追いかけてくる。

 本当、いい加減にして欲しい。きっと、なんか変な人なのだ。

 今、何時ぐらいだろう。辺りはすっかり暗い。あちらこちらのお店のシャッターも閉まっている。

 隆二、心配しているだろうな。

 胸元に手を伸ばし、ペンダントに触れる。

 そうすると、少しだけ安心できた。

 明日の午前九時には実体化がとける。

 それならばいっそ、ここに隠れて実体化がとけるまで待っていようか。幽霊に戻ってしまえば、あの男に追いかけ回されることもないだろう。明日の午前九時まで、何時間あるんだか知らないけれども。

 ゆっくり奥に進むと、少し広いスペースがあった。ビルとビルに囲まれた場所。

 そこまで行こうと、横歩きを継続していると、

「いったっ」

 置いてあった木の板、その破片で右腕を引っ掻いた。

「ああもう」

 血が出て来た。痛い。

 痛いのには慣れていない。ずっと感じたことがない感情だったから。幽霊のときは、痛いとか熱いとか寒いとかそんなこと、関係なかった。痛いのは、実体化しているときだけだ。

 そこまで考えて、嫌なことを思いついた。

「あたし、酷い怪我したら、どうなっちゃうんだろう」

 今の今まで考えたことがなかった。人間と同じように、身の危険が生じるんだろうか。ああ、だから、だから隆二はあんなにも気を使ってくれていたのか。全然気がつかなかった。だから、一人で出かけるなと言っていたのか。こんなことになるから。

 視界がぼやける。

 ビルの影に座り込む。膝を抱える。

 実体化がとけるまでここにいよう。あとどれぐらいの時間があるのかわからないし、それまで隆二に心配をかけることになってしまうけれども、ヘタに動き回ってあの男に見つかるよりもずっといい。

 一人にしないと誓った。約束した。

 だから、帰らなくちゃ。なんとしてでも、彼のところに。

 一人じゃないから大丈夫だと、約束したのは自分なのだから。だから、帰らなくっちゃ。絶対に。

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