流れ星
空には数えきれない程の光が満ち溢れていた。全てが、ぼやけて見えた。
「流れ星に3回願い事をすると、その願いは叶うんだよ」
そう教えてくれたのはおじいちゃんだった。
まだ私が幼かったころだと思う、小学校に入る前くらい。その一言はずっと私の中に残っていて、いつか流れる星を見つけて願いを叶えたいという気持ちを強く持たせた。
そんな私が流れ星に願ったのは、8歳になった冬だった。
大好きだったおじいちゃんも、だいぶ年老いてしまい、体も弱っていた。夏が終わり、風邪をこじらせて容体が悪化し、入院生活を送っていた。
「もうおじいさんも長生きしたものねぇ」
目を閉じて眠るおじいちゃんの顔を見ながら、幼いながらにもう長くはないと悟ってしまった。
それでも、私はあきらめられなかった。
11月、世間はしし座流星群の話題でもちきりだった。8歳の私は何を疑いもせず、その日を待ち、子供には真夜中と言える時間に星を探していた。
ひら、ひらと少しずつ流れ出す星屑。流れる数も幾分増え始め、流星群という名に相応しい空を見上げる夜になった。
「おじいちゃんが元気になりますように」
私はそれだけを言い続け、いつしか意識を失い、眠りについていた。
次の日、その話をおじいちゃんにすると、とても嬉しそうにありがとう、と言われた。そのあと、また星を見上げたら、今度は自分の幸せを願ってくれよ、と。
けれど、その冬、おじいちゃんは元気になることはなかった。
所詮迷信、そんなことを学んで少しずつ大人になってきた私。あれから、夜空を見上げても流れ星を探すことはなくなった。願いが叶うなんて、そんなことないから。
12年が過ぎた。
大人になった私に、12年前と同じ季節に、しし座流星群の極大日が近づいてきた。
その日は結局眠れなくて、星を見に行こうと熱心に誘う友人達と共に山へ行った。
夜更けすぎ、2度目の流星群を見上げた。
そして目を疑った。
子供だった私は、あまりに必死すぎた。
夜空に散らばる星の姿が、目に映っていなかったのかもしれない。
目の前に広がるのは美しすぎる光。
そして、おじいちゃんの言葉がふと頭をよぎった。
そして願った。
おじいちゃん、私、今すごく幸せだよ。この気持ちが届いてほしい。
空には数えきれない程の光が満ち溢れていた。全てが、ぼやけて見えた。