表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

05 第三の密室

そこは緑の部屋だった。


「地は草を芽生えさせ、それぞれの種を持つ草と、それぞれの種を持つ実をつける木を芽生えさせた。神はこれを見て、良しとされた。夕べがあり、朝があった。第三の日である」

 それが闇の声、猟犬アランの三番目の序文だった。

 そう、光、空。創世記の流れから順当に、今回は草木――自然を連想させる深緑の空間が「Let there be light.(光あれ)」の掛け声と共に、私の眼前に現れたのだ。


「聖なる緑の世界――か」


 なにか黙示的な予感がするのは気のせいだろうか。


「緑」というのは、キリスト教、ユダヤ教と同じ絶対神を崇拝するイスラム教にとって、特別な意味合いを持つ崇高な色。生命のシンボルを示唆しているのである。


 イスラムでは「最後の審判」の日に、絶対神アラーによって死後の行き先が天国か地獄であるかの審判が下される。そして天国には、麗しき女神と妖精ニンフが戯れる聖なる泉と、緑豊かな樹々が繁っている。神を信じ、正しい道を歩んだ信徒には、緑の楽園が約束される。


 リビアのカダフィ大佐の著書「緑の書」。近代の自由民主主義的西洋思想を全否定し、独自の民族的社会主義を理論化したその表題にも、イスラムの民が帰るべき緑の楽園、聖地メッカへの郷愁の念が集約されているのだ。


「行き先は天国か――それとも地獄か」


 樹々の森に迷い込んだ企業戦士。この部屋には一体、どんな恐るべき聖戦ジハードが待ち受けているというのだろうか――アランの不吉な捨て台詞が、私の脳裏で反芻する。


~今度の密室は少々手強いかと存じ上げます~


 躊躇している場合ではない。私は気を取り直して、緑の部屋を見渡しはじめた。


「これまでの部屋と、さして変わりはなさそうだが」


 私は前回、前々回と同様、先ずゴミ箱を漁り、丸められた紙切れに書かれたメッセージを広げた。


「なるほど、ヒントは◇◇――か。これまでの流れからして、一筋縄ではいかないのだろうが……」


 疑念を抱きつつも、◇◇に近寄る私。そのまま◇◇を隈なく丹念に調べあげた。


 すると――


「あっ」


 なんと今回は◇◇が、ほんの少しだけ動いたのだ。


「や、やはり、答えは素直に◇◇にあるのだろうか。そう、例のあの部屋のトリックのように素直に……」


 私は期待に胸を膨らませながら◇◇の◇◇を覗き込んだ。しかし、そこに待ち受けていたのは――


「ああっ!」


 そこは樹海の流刑地だった。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ