雨の精との契り
ある雨の日の夜。
私は駅の改札口で、真っ赤な傘を差し、夫の帰りを待っていた。深夜0時になる時間。既に人は疎らである。夫は雨に濡れる女を妬けに嫌がる。トラウマを抱えているのだろう。私はそんな夫を驚かせてやろうと、ちょっとした好奇心で指している傘を手放した。ちょうど、その近くに小さな稲荷神社があったので、それに私の傘を差してやった。
雨が私に降り注いでくる。天を仰いで、雨は私の全身を包んでくる。
「はぁ~、なんて気持ちが良いのだろう」
そんな時、夫が電車を降り、改札口を出て来た。私はびしょ濡れの状態で夫に話し掛ける。だが、夫は私を見たのか、見なかったのか、残念そうな顔をして、私を置いて行ってしまった。私は傘を取りに戻ったが、あの稲荷神社はどこにも存在しなかった。
私は仕方なく、びしょ濡れのまま家路へと向かう。家に着くなり、私は玄関先で夫を呼び掛けた。すると夫は誰かと話しているようで気付かない。私は夫と2人暮らし。こんな夜中に、いったい誰が訪問しているのか。さらに、私は夫を呼び掛けるが返事がない。私は堪らず、大声で怒鳴ったが反応がない。
すると、夫は、
「こんな夜は思い出すな~」
と誰かと話している。私はびしょ濡れであったが、気になってピチャピチャと音を立てながら、リビングまで向かう。そこを覗き込んで見ると、夫の向かいには私が居た。私は震えが止まらなかった。
すると、夫は私に気付き、
「俺は雨の精と結婚したんだ。なあ? お前は何人目のお前だ?」
と訊く。
玄関の扉が開く。そこへやって来たのは、びしょ濡れになった私の姿だった。あの私は何人目の私だろうか?
狐の仕業であったら、どんなに嬉しいことか。
プチ怪談です。
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