屋根裏部屋の天体望遠鏡
今晩は皆既月食が見られるというので、早々に会社から帰って、屋根裏部屋に籠った。
部屋などと言うと大層な感じがするが、二人も入ればギチギチになってしまう、屋根裏のちょっとしたスペースだ。
祖父が自分で改装して作った空間。
天体望遠鏡が置いてある。
そう、ここは星空を眺める場所なのだ。
祖父も父も天体観測が好きで、僕も自然と興味を持つようになった。
大人になって、息子に星の名前をつけるぐらいには、天体観測が好きになっていた。
息子も、やはり星が好きなようで、子供用の図鑑を買ってやったら、そこに載っているほとんどの星の名前は、すっかり覚えてしまったようだ。
その息子と、皆既月食を見ようというのが、今夜の企みだ。
天体望遠鏡をセットして、月を探す。
1〜2cmのずれが、広大な星空では数kmのずれになるので、あんばいが難しい。
望遠鏡を覗きながら調整していると、ぼんやりと星空が目の前に広がった。
ん?これは、ちょっとおかしいな。
星の姿をとらえることはあっても、風景全体が見えるというのは、これまでに無かったことだ。
僕は、ぼんやりとした星空にピントを合わせた。
そして、とんでもないものを見つけた。
汽車だ。
星々の間を汽車が走っている。
銀河鉄道だ。
僕は少なからず興奮した。
乗っているのは二人の少年か。
それとも、少年と謎の美女との二人連れか。
僕は、汽車の車窓へとレンズをズームさせた。
見える。
汽車には、たくさんの人が乗っていた。
国民服、というのだろうか。カーキ色の服を着た男が煙草を吸っている。
新聞を読んだり、弁当を広げている男もいた。
モンペを履いた女性が、おかっぱ頭の女の子にリンゴを剥いてやっている。
あの汽車の中は、戦時中なのか?
あの人たちは汽車に乗ったまま、ずっと星空の中をさまよっているのか?
あの人たちを見ていたら、思い出したことがある。
僕は実の祖父の顔を知らない。
僕の父が生まれたばかりの年に戦地にかり出され、そのまま帰って来られなかったらしい。
僕が知っている祖父は、その親友だ。
僕のよく知っている祖父は、あの汽車の中に、かつての親友の姿を見たのだろうか。
今となっては確かめようもない。
夜空の彼方に、汽笛の音がフゥーーーと、たなびいたような気がした。




