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終焉の約束---あの日「天使」と交わした契約  作者: MIKA_05


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第9話 episode1 旅立ち

翌朝、村の広場には多くの村人が集まっていた。


 昨夜の間に噂は広まり、村中が「聖痕を持つ者が現れた」と沸き立っていた。人々は期待と興奮、そして少しの畏怖が混じった顔で、シャムを見ている。


 神父が前に出て、シャムに祝福を与えた。村長が、旅の資金と装備を渡してくれた。剣、鎧、そして地図。村の全員が協力して、一晩で準備してくれたものだ。


「シャム」


 村長が前に出て言った。


「王都で確認を受けてきなさい。そして、もしお前が本当に選ばれた者なら...頼む、世界のために戦ってくれ。だけど無理はするな」


 村長は優しく微笑んだ。


「そして、いつか必ずこの村に帰ってきなさい。待っているからな」


「はい...」



 村人たちが拍手する。歓声が上がる。



 でも、シャムの心は重かった。



 これは本当に、正しいのか?


 自分は本当に、選ばれたのか?



 その時――



 人混みの中から、一人の少女が現れた。



 エルペだった。



 彼女は、昨日とは違う表情をしていた。笑顔ではない。真剣な、そして少し悲しい顔。


「シャム」


 エルペがシャムの前に立った。


「本当に...村の外に行くんだね」


「...うん」


「昨日まで、まだ実感がなかった。でも、今朝起きて...この光景を見て...」


 エルペは広場を見回した。


「本当なんだって、思った」



 シャムは何も言えなかった。



「私ね、昨日の夜、ずっと考えてた」


 エルペは空を見上げた。


「シャムが選ばれた者になるって。世界を救うかもしれないって。それって、すごいことだよね。嬉しい。でも...」


 彼女の目に、涙が浮かんでいる。


「本当は、まだ一緒にいたかった」



「エルペ...」



「あの日、丘の上で約束したよね。一緒に勇者になるって」


 エルペはシャムを見つめた。


「でも、シャムは先に行くんだね。私より、ずっと先に」



「ごめん...」



「謝らないで」


 エルペは首を横に振った。


「これは、シャムの運命なんだから。神様が決めたことなんだから」


 彼女は小さく笑った。


「私は、ここで待ってる。村を守って、強くなって...そして、シャムが帰ってくるのを待ってる」



 エルペは手を差し出した。小指を立てて。



 指切り。



「約束だよ、シャム。必ず、帰ってきてね」


「...うん。約束する」



 シャムは自分の小指をエルペの小指に絡めた。温かい。あの日と同じ、温かさ。でも、今回は違う。これは、別れの約束。



「行ってらっしゃい」


 エルペは涙を流しながら、笑顔を作った。


「勇者様」


____________________


 シャムは村の門をくぐった。


 後ろを振り返ると、村人たちが手を振っている。エルペも、父も、村長も、神父も、みんなが手を振っている。


 シャムも手を振り返した。そして、前を向いた。



 聖痕を持つ者として。


 王都へ向かう者として。


 でも、心の中では、まだ迷っている。



 あの光は、本当に神だったのか?


 自分は本当に、選ばれたのか?


 代償とは、何なのか?



 答えは出ない。



 でも、進むしかない。



 村が遠ざかっていく。



 エルペの姿が、小さくなっていく。



 シャムは前を向いて、歩き続けた。


 ____________________


 村を出てから、三日が経った。


 シャムは森を抜け、小さな街を通り過ぎ、ひたすら東へと歩き続けていた。地図によれば、王都まではまだ二週間以上かかる。長い道のりだ。

でも、急ぐ理由もない。ゆっくりと、この世界を見ながら進もう。そう決めていた。


 この三日間で、シャムは多くのことを学んだ。野宿の仕方、火の起こし方、食べられる木の実の見分け方。全て、旅の途中で出会った行商人や旅人が教えてくれた。人々は優しかった。この世界は、思っていたよりも温かい場所だった。



 その夜、シャムは森の中で野宿をしていた。


 焚き火を囲んで、乾パンをかじりながら、シャムは星空を見上げていた。

村では見られないほど多くの星が、空一面に広がっている。

こんな景色を見られるなら、旅もいいものだと思った。


 焚き火が、パチパチと音を立てている。木が燃える音、虫の鳴き声、風が木の葉を揺らす音。全てが、穏やかで平和な夜だった。


 シャムは、エルペのことを考えていた。今頃、彼女は何をしているだろう。村で、父の手伝いをしているだろうか。それとも、もう眠っているだろうか。同じ星空を、彼女も見ているだろうか。



 その時――



 茂みが、揺れた。



 シャムは反射的に剣に手をかけた。心臓が激しく鼓動する。何かが、近づいてくる。足音。獣の、足音。



 茂みから、一匹の生き物が現れた。



 狼だった。いや、狼に似ているけれど、普通の狼ではない。体が一回り大きく、目が赤く光っていて、牙が異様に長い。そして、その体からは微かに黒いもやのようなものが立ち上っている。



 魔物だ。



 シャムの体が硬直する。怖い。足が震える。こんな生き物、見たことがない。村では魔物の話は聞いたことがあったけれど、実際に見るのは初めてだ。

魔物はシャムを見つめていて、その赤い目が焚き火の光を反射して不気味に光っている。低く、うなり声を上げている。


 シャムは震える手で村を出る時に父から貰った剣を抜いた。剣を持つのも、これが初めてだ。

どうやって戦えばいいのか分からない。でも、戦わなければ。逃げれば追いかけてくる。ここで、倒さなければ。


 魔物が一歩近づいてくる。シャムも一歩後ずさる。魔物の目がさらに鋭くなって、獲物を狙う目で、明確な殺意を感じる。



 でも――



 シャムの心の中に、別の感情が湧き上がってきた。この魔物も、生き物なのではないか? 

お腹が空いて、食べ物を探していただけなのではないか? 

生きるために狩りをしているだけなのではないか?


 

 でも――



 魔物が飛びかかってきた。



 シャムの体が、勝手に動いた。剣を振る。一閃。刃が魔物の体を捉える。


 魔物は悲鳴を上げた。高く、鋭い悲鳴。それは痛みの叫び、苦しみの声。そして地面に倒れ、黒い血が地面に広がっていく。


 魔物はまだ生きている。苦しそうに呼吸をしていて、赤い目がシャムを見つめている。その目には恐怖と、そして何か別の感情が浮かんでいる。



 シャムは剣を握りしめたまま、立ち尽くしていた。自分が今、何をしたのか。生き物を傷つけた。殺そうとしている。



 魔物の呼吸が弱くなっていき、やがて動かなくなった。そして、その体が黒い煙となって空気に溶けていった。



 跡形もなく、消えた。



 シャムはその場に座り込んだ。剣を地面に置いて、両手で顔を覆うと、手も体も激しく震えていることに気づいた。自分が今、何をしたのか。生き物を傷つけて、殺そうとして、そして本当に殺してしまった。


魔物だから仕方がない。

そう頭では分かっている。襲われたから、自分を守るために戦った。それは正しいことで、誰も責めないだろう。

でも、心が、どうしてもそう思えない。あの悲鳴が耳に残っていて、苦しそうな呼吸が、恐怖に怯えたあの赤い目が、忘れられない。



 シャムは長い間、そこに座り込んでいた。焚き火の火が少しずつ弱くなっていくのも気づかないまま、ただ自分の手を見つめていた。星空は変わらず美しく輝いているのに、シャムの心は暗く沈んでいた。


 これから、こういう戦いが何度もあるのだろうか。魔物を倒し、人を守り、世界を救う。それが、聖痕を持つ者の運命なのだろうか。でも、シャムは優しすぎた。戦うことに、向いていないのかもしれない。



 それでも、進まなければならない。エルペとの約束がある。村の人々の期待がある。そして、背中の聖痕が、シャムを前に進ませる。



 シャムは顔を上げた。涙を拭って立ち上がり、剣を拾い上げて鞘に戻すと、焚き火に新しい薪を足した。火が、また強く燃え上がる。その火を見つめながら、シャムは心に誓った。


 優しさを失わないこと。戦う時は最小限の力で、殺さなくてもいい時は殺さないこと。そして、いつか魔物とも共存できる世界を作ること。それが、自分なりの勇者の姿だ。シャムは、そう決めた。



 夜はまだ長いけれど、朝は必ず来る。シャムは焚き火の前で、ゆっくりと目を閉じた。明日も歩き続ける。王都へ、そして自分の運命へ。



 運命が、動き続けている。


お読みいただきありがとうございます!


今後も随時更新していきたいと思いますので、少しでも『切ないな』『続きが気になる』と思っていただけたら、**ブックマークや評価(★)**で応援いただけると、執筆の大きな励みになります!


よろしくお願いいたします!!

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