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終焉の約束---あの日「天使」と交わした契約  作者: MIKA_05


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第6話 episode1 覚醒

火事から三日が経った。


 村は焼け跡の後片付けに追われている。朝から晩まで、焼け焦げた木材を運び出す音、崩れた石壁を積み直す音、そして時折聞こえる子供の泣き声が、村全体に響いていた。幸いにも死者は一人も出なかったが、多くの家が失われ、人々の顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。

それでも誰もが「生きていてよかった」と口にしていた。失ったものは大きいが、命があれば何度でもやり直せる。村の人々は、そういう強さを持っていた。


 エルペも無事だった。煙を吸って体調を崩し、最初の二日間は高熱に苦しんでいたものの、村の医者の懸命な治療もあって日に日に回復していた。もう数日もすれば元気になって、また以前のように村中を走り回るだろう。村長は娘の回復を喜びつつも、あの夜のことを思い出すたびに顔を曇らせていた。もし、シャムが助けに来なければ――そう考えるだけで、村長は胸が締め付けられる思いだった。


 シャム自身も、外傷はほとんどなかった。手のひらに少しの火傷と、全身に青あざが残っている程度で、村の医者も「二階から飛び降りて、しかも人を背負っていたのに、これだけの怪我で済むなんて奇跡だ」と首を傾げていた。普通なら骨の一本や二本は折れていてもおかしくない。いや、下手をすれば命を落としていたかもしれない。それなのに、シャムは歩けるどころか、翌日には普通に動き回っていた。


 でも、シャムは違和感を拭えないでいた。


 背中が、妙に熱いのだ。火傷をしたわけでもない。医者に診てもらった時も、「背中には外傷はない」と言われた。それなのに、時折、背中の奥からじわりと熱が湧き上がってくる。まるで何かが這っているような、何かが刻まれているような、不思議な感覚。触ってみても、見た目には何も変わったところはない。鏡で映しても、赤くなっているわけでもない。それでも、確かに感じるのだ。何かが、そこにある。


_______


 その朝、シャムは父と一緒に畑に出た。


 火事の影響で畑仕事が遅れている。本来なら三日前に種を蒔くはずだったのに、村全体が火事の対応に追われていたせいで、誰も畑に手をつけられなかった。今日こそ種を蒔かなければ、今年の収穫に影響が出る。父はそう言って、朝早くからシャムを叩き起こした。


 畑に着くと、父は小屋を指さして言った。「シャム、鍬を持ってこい」


 シャムは頷いて、小屋に向かった。普段ならこの指示を聞くだけで憂鬱になる。畑仕事は辛い。特に重い農具を持つのは、華奢な体には堪える。案の件、小屋の隅に立てかけられた鍬を手に取ると――



 軽い?



 シャムは思わず鍬を見つめた。これは本当に同じ鍬なのか? いつもなら両手で持ち上げるのも大変で、肩に担ぐ時には腕が震えるほどの重さなのに、今日は信じられないほど軽い。まるで木の枝を持っているかのように、何の抵抗もなく持ち上げられる。


 おかしい。何かがおかしい。


 シャムは鍬を肩に担いで畑に戻った。父はすでに自分の鍬を手に、畑の端で待っている。


「遅いぞ。さあ、始めるぞ」


 父が自分の鍬を構える。シャムも同じように構えた。そして、土を掘ると鍬が、驚くほど深く土に突き刺さった。いつもなら表面を削る程度しかできないのに、今日は一振りで鍬の刃が根元まで土に埋まる。シャムは呆然とその光景を見つめた。これは何だ? 自分が今、何をしたんだ?


 恐る恐る、もう一度掘ってみる。ザクッ。また深く入る。楽に、力を入れなくても、自然と深く掘れる。まるで土が自分から避けているかのように、鍬がすんなりと入っていく。


「シャム、いつもより調子がいいな」


 父が声をかけてきた。その声には驚きが混じっている。当然だ。いつもなら三時間かかる仕事を、シャムは今、三十分で終わらせようとしている。


「う、うん...何か、今日は調子がいいみたい...」


 シャムは曖昧に答えた。でも、心の中では混乱が渦巻いている。これは何だ? なぜこんなに力が出るんだ? あの夜、あの光が言っていた「力を与えよう」という言葉が、脳裏に蘇る。まさか、これが...?



 仕事を続ける。土を掘り、耕し、平らにしていく。いつもなら腕が痛くて、途中で何度も休憩を挟むのに、今日は全く疲れない。むしろ、体が軽い。まるで羽が生えたかのように、体が勝手に動いてくれる。


 父が驚いた顔でシャムを見ている。その目には、驚き、そして少しの戸惑いが浮かんでいる。無理もない。昨日まで弱々しかった息子が、突然こんなに力を発揮しているのだから。


「シャム」


 父が鍬を置いて、シャムに近づいてきた。


「どうした。火事の時もそうだったが...何か、あったのか?」


 シャムは答えられない。自分でも分からないのだ。いや、分かっている。あの夜の契約。あの光が与えてくれた力。でも、それを父に説明できるだろうか? 信じてもらえるだろうか?



 その時――



 背中がズキンと痛んだ。



「っ...!」


 シャムは思わず背中に手をやった。熱い。さっきまでじわりとした熱だったのに、今は焼けるような痛みが走っている。


「どうした!?」


 父が慌ててシャムの肩を掴む。


「だ、大丈夫...ちょっと痛んだだけ...」


「背中か? 火事の時に怪我したのか?」


「いや...そういうわけじゃ...」



 その時、父がシャムの背中を見て、目を見開いた。



「これは...」


「え...?」


「シャム、お前の背中...服の上からでも分かる...何か光ってるぞ」



 光ってる?



 シャムは慌てて服をめくろうとした。でも自分では見えない。


「ちょっと待て」


 父がシャムの服を持ち上げる。そして――絶句した。



「これは...一体...何だ...」



 父の声が震えている。シャムは聞いた。「何が...何があるんですか...?」


「紋様だ...背中に、何か...紋様が刻まれている...」


 紋様。その言葉を聞いた瞬間、シャムの体が硬直した。やはり、あれは夢じゃなかった。あの夜、あの光が、「我が印を授けよう」と言った。本当に、何かが刻まれたんだ。


「父さん、それって...どんな...」


「分からん...見たことのない形だ...」


 父は言葉を切った。そして、小さく呟く。


「でも...何か、神聖な感じがする...まるで、神殿で見る聖なる紋章のような...」


「父さん、これ...誰にも言わないでください」


 シャムは必死に頼んだ。父は長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。


「...分かった。これはお前と私だけの秘密だ」


 そして、真剣な顔でシャムを見つめる。


「でも、何かあったらすぐに言うんだぞ。お前は私の息子だ。何があっても守る」


「はい...ありがとうございます」


その後父とシャムは黙々と畑仕事を行い、いつもの半分の時間で終えることができた。

お読みいただきありがとうございます!


今後も随時更新していきたいと思いますので、少しでも『切ないな』『続きが気になる』と思っていただけたら、**ブックマークや評価(★)**で応援いただけると、執筆の大きな励みになります!


よろしくお願いいたします!!

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