表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の約束---あの日「天使」と交わした契約  作者: MIKA_05


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

第13話 episode2 失敗

さらに森の奥へ進むと、ゴブリンの気配が強くなった。背中の聖痕が、さっきよりも強く熱を持つ。近い。かなり近くにいる。


 木々の間を抜けると、少し開けた場所に出た。そこには、小さな焚き火があった。



 そして、ゴブリンが4匹いた。



 焚き火を囲んで、何かを焼いている。動物の肉だろうか。茶色く焼けた肉から、脂が滴り落ちて、火が弾ける。4匹は食事に夢中で、シャムの接近に気づいていない。



 シャムは木の陰に隠れて、様子を見た。不意打ちをすれば、一気に倒せるかもしれない。でも、4匹同時は難しい。どうすればいい?



 その時――



 茂みから、もう一匹の影が現れた。



 小さい。さっきの4匹よりも遥かに小さい。



 ゴブリンの子供だ。



 身長は人間の幼児くらいしかなく、棍棒も武器も持っていない。服のようなものを着ていて、その服は継ぎはぎだらけだった。子供のゴブリンは、ヨチヨチと歩いて焚き火の方に向かっていく。



 そして、4匹の大人のゴブリンの一匹に抱きついた。



 大人のゴブリンは、子供を抱き上げた。そして、頭を撫でている。優しく、愛おしそうに。子供のゴブリンは嬉しそうに笑って、大人のゴブリンの頬に手を伸ばした。


 大人のゴブリンは、焼いた肉を少し取って、子供に渡した。子供は両手で肉を受け取り、小さな口で齧り始めた。美味しそうに、幸せそうに。


 他の3匹のゴブリンも、子供を見て笑っている。ゴブリン語で何か話しかけている。言葉は分からないけれど、その雰囲気から、優しい言葉なのだと分かった。



 シャムの手から、力が抜けていった。



 これは...家族なのか?



 ゴブリンにも、家族がいるのか?



 その時、子供のゴブリンが転んだ。小さな悲鳴を上げる。


「ギャウ!」


 大人のゴブリンが慌てて駆け寄った。子供の膝を見て、何か言葉をかけている。ゴブリン語だから意味は分からない。でも、その声の優しさは、痛いほど分かった。



「痛くない、痛くない」



 きっと、そう言っているのだろう。



 シャムは、自分の幼少期を思い出した。転んで泣いた時、母が同じように膝を見て、優しく撫でてくれた。「痛くない、痛くない」と。温かな手のひらが、痛みを消してくれた。


 これは...同じだ。


 人間も、ゴブリンも、同じなんだ。


 家族を愛して、子供を守って、一緒に食事をして、笑い合って。



 シャムの手から、剣が滑り落ちそうになった。



 殺せない。



 こんな光景を見て、どうして殺せる?



 でも、依頼だ。商人を襲っているゴブリンを退治する。それが依頼の内容で、シャムは報酬を受け取る約束をした。



 シャムは剣を握り直した。手が震えている。



 やらなければ。



 これは仕事だ。



 ゴブリンを放っておけば、また誰かが襲われる。



 剣を構える。



 でも――



 子供のゴブリンが、無邪気に笑っている。



 大人のゴブリンが、子供の頭を撫でている。



 シャムの目から、涙が零れた。



 できない。



 どうしても、できない。



 シャムは剣を鞘に戻した。そして、静かに、音を立てないように、その場を離れた。後ろを振り返らずに、ただ歩いた。



 森を出る頃には、夕陽が沈みかけていた。


_______


 夕方、シャムは冒険者ギルドに戻ってきた。手ぶらで。ゴブリンの耳は、一つも持っていない。


 受付嬢は、シャムの様子を一目見て、全てを理解したようだった。何も聞かず、ただ静かに依頼失敗の処理をした。


「...次は、頑張ってください」


 その言葉が、優しいのか、それとも皮肉なのか、シャムには分からなかった。



 ギルドの中には、他の冒険者たちがいた。酒を飲み、笑い、今日の成果を語り合っている。シャムが依頼に失敗したことは、すぐに広まった。


「おい、聞いたか? あの勇者様、ゴブリン退治に失敗したんだってよ」


 酒場の片隅で、ベテラン冒険者たちがニヤニヤしながら話している。


「は? ゴブリンだぞ? あんなの雑魚中の雑魚じゃねえか」


「俺の娘でも倒せるぞ。七歳だけどな」


「勇者なのに、ゴブリンも倒せないのかよ」


「大神殿も見る目ねえな。こんなガキを勇者認定するなんてよ」



 笑い声が、ギルド中に響く。シャムの耳に、その笑い声が突き刺さる。



 シャムは何も言わず、ただ頭を下げて、ギルドを出た。



 外に出ると、一人の少年冒険者が壁にもたれていた。シャムと同じくらいの年齢だろうか。剣を背負っていて、服は埃だらけだった。


「気にすんな」


 少年が、ぽつりと言った。


「え...?」


「俺も最初、失敗しまくった。薬草採取で迷子になって、三日も森で遭難したし」


 少年は苦笑いを浮かべた。


「そんなもんだよ。最初なんて」


「...ありがとう」


「ま、次は頑張れよ。勇者様」


 少年は手を振って、夜の街に消えていった。



 その優しさが、少しだけ、シャムの心を救った。ほんの少しだけ。


_______


 宿に戻ると、シャムは部屋のベッドに倒れ込んだ。窓から差し込む月の光が、部屋を薄く照らしている。



 シャムは天井を見つめながら、呟いた。



「僕は...勇者に、なれるのかな...」



 答えは、返ってこない。ただ、沈黙だけが部屋を満たしていた。



 その時――



 背中の聖痕が、ズキンと痛んだ。



「っ...!」



 シャムは思わず背中に手をやった。熱い。いつもより、遥かに強く熱い。まるで、焼けた鉄を押し当てられているような痛みだった。


 そして――



 耳元で、声が聞こえた気がした。



『......』



 あの夜聞こえた光の声のような。



「誰かいるの...?」



 シャムは体を起こして、部屋中を見回した。でも、誰もいない。扉も窓も閉まっている。



 幻聴だったのか?


 部屋には、また静寂が戻った。



 シャムは震える手で、背中に触れた。聖痕は、まだ熱い。脈打つように、熱を放っている。



 この紋様は、本当に神の印なのか?



 あの光は、本当に神だったのか?



 代償とは、何なのか?



 シャムは不安に駆られながら、再びベッドに横たわった。



 窓の外、満月が不気味に輝いている。

お読みいただきありがとうございます!


今後も随時更新していきたいと思いますので、少しでも『切ないな』『続きが気になる』と思っていただけたら、**ブックマークや評価(★)**で応援いただけると、執筆の大きな励みになります!


よろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ