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終焉の約束---あの日「天使」と交わした契約  作者: MIKA_05


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第12話 episode2 依頼

次の日の朝、早速冒険者ギルドに向い、受付で依頼を受けに行った。


「あなた、本当に勇者なの?」



 冒険者ギルドの受付嬢が、半信半疑の目でシャムを見つめた。彼女の視線は、シャムの華奢な体つき、握った剣を持つ震える手、そして自信なさげな表情を順番に追っていく。無理もない。どう見ても、シャムは勇者には見えない。村から出てきたばかりの、弱々しい少年にしか見えないだろう。


「はい...大神殿で、聖痕を認定されまして...」


 シャムは小さな声で答えた。背中には確かに聖痕がある。大神殿の神官たちが、「本物だ」と認めた紋様。でも、それが本当に勇者の証なのか、シャム自身も確信が持てないでいた。


「分かってるわよ。でもね」


 受付嬢は溜息をついて、掲示板を指差した。


「聖痕があっても、実力がなければ意味ないの。まずは簡単な依頼から始めなさい。薬草採取とか、荷物運びとか。いきなり戦闘系はやめておきなさい」


「でも...」


「いいから。死なれたら、こっちの責任になるのよ」



 受付嬢の言葉は厳しいけれど、心配してくれているのだと分かった。シャムは頷こうとしたが、その時、掲示板の一枚の依頼書が目に入った。



『ゴブリン退治

報酬:銀貨30枚

依頼内容:街道沿いの森にゴブリンが出没。商人の荷物を襲い、旅人を脅かしている。5匹程度と推定。早急な討伐を求む。

危険度:D』



 ゴブリン。魔物の中では最も弱い部類に入る存在。でも、油断すれば人間でも殺される。Dランクという危険度は、Fランクの新人冒険者には少し高い。


 でも、シャムには力がある。あの夜、森で魔物を倒した。エルペを救った。この聖痕があれば、ゴブリンくらい倒せるはずだ。


「あの...この依頼を」


 シャムが手を伸ばすと、受付嬢が素早くその手を掴んだ。


「ちょっと待ちなさい。これはDランク。あなたにはまだ早いわ」


「でも、大神殿で勇者として認定されました。これくらいの依頼は...」


「認定されたからって、すぐに強くなるわけじゃないの」


 受付嬢は真剣な目でシャムを見つめた。


「いい? 冒険者は、死と隣り合わせの仕事なの。慎重すぎるくらいでちょうどいい。特に最初は」



 シャムは迷った。受付嬢の言葉は正しい。でも、勇者として認定されたからには、もっと人々の役に立ちたい。薬草採取では、誰も救えない。



「お願いします。この依頼を受けさせてください」



 シャムは頭を下げた。受付嬢は長い沈黙の後、溜息をついた。


「...分かったわ。規則上は、本人が希望すれば受けられることになってる。でも、無理だと思ったらすぐに逃げなさい。恥じゃないから」


「はい」


「ゴブリンの討伐証明として、耳を持ち帰ってちょうだい。5匹分の耳があれば、報酬を支払うわ」


「分かりました」



 シャムは依頼書を受け取った。その紙が、やけに重く感じた。


_______


 街道沿いの森は、王都から徒歩で二時間ほどの場所にあった。


 昼過ぎ、シャムは森の入り口に立っていた。木々が密生していて、中は薄暗い。風が吹くたびに葉が揺れて、ざわざわという音が響く。平和な森のように見えるけれど、この中にゴブリンがいる。


 シャムは剣を抜いた。村長がくれた剣。まだ数回しか使っていないけれど、手に馴染んできている。刃が太陽の光を反射して、鈍く光る。


 深呼吸をする。心臓が激しく鼓動している。怖い。でも、進まなければならない。



 森の中に入ると、空気が変わった。ひんやりとした湿気、土と腐葉土の匂い、遠くで鳴く鳥の声。木々の隙間から差し込む光が、地面に斑模様を作っている。美しい森だった。でも、油断できない。


 シャムは警戒しながら進んだ。足音を立てないように、慎重に、一歩ずつ。



 その時――



 背中の聖痕が、熱を持ち始めた。



 微かに、でも確かに感じる熱。これは、魔物が近くにいる時の反応だ。あの夜、野宿をしていた時に魔物と遭遇した時も、同じ感覚があった。


 シャムは立ち止まって、周囲を見回した。どこだ? どこにいる?



 茂みが、揺れた。



 シャムは反射的に剣を構える。来る。



 茂みから、小さな人影が飛び出してきた。



 ゴブリンだ。



 緑色の肌、尖った耳、鋭い牙。身長は子供ほどしかないけれど、その目には明確な敵意がある。手には粗末な木の棍棒を持っていて、シャムを見つけると甲高い声で叫んだ。


「ギャアアア!」


 そして、シャムに向かって突進してくる。速い。予想以上に速い。



 シャムは咄嗟に剣を振った。ゴブリンの棍棒が剣に当たって、金属音が響く。衝撃で腕が痺れた。こんな小さな生き物なのに、力が強い。


 ゴブリンが再び棍棒を振り下ろしてくる。シャムは横に跳んで回避し、その隙に剣を振った。刃がゴブリンの腕を切り裂く。黒い血が飛び散る。


「ギィィィ!」


 ゴブリンが痛みの悲鳴を上げる。でも、攻撃は止まらない。負傷した腕を押さえながらも、もう一度突進してくる。


 シャムは深呼吸をした。落ち着け。あの夜の魔物と比べれば、ゴブリンは弱い。体が勝手に動いてくれる。聖痕の力が、導いてくれる。



 ゴブリンが飛びかかってきた瞬間、シャムは剣を真横に薙いだ。



 一閃。



 刃がゴブリンの胴体を深く切り裂いた。ゴブリンは地面に倒れ、痙攣して、やがて動かなくなった。黒い血が地面に広がっていき、その体は徐々に黒い煙となって空気に溶けていった。



 シャムは剣を下ろした。勝った。初めて、自分の意思で魔物を倒した。



 でも、喜びはなかった。ただ、胸の奥に重いものが残った。



 まだ、4匹残っている。

お読みいただきありがとうございます!


今後も随時更新していきたいと思いますので、少しでも『切ないな』『続きが気になる』と思っていただけたら、**ブックマークや評価(★)**で応援いただけると、執筆の大きな励みになります!


よろしくお願いいたします!!

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