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終焉の約束---あの日「天使」と交わした契約  作者: MIKA_05


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第1話 episode0 決戦

シャムは魔王をにらみつけ剣を向けていたが、全身傷だらけで息も絶え絶え、もう立っているのがやっとの状況だ。

 仲間たちも同じだった。

 タンカーのガレスは盾を失い片腕を損傷しており、賢者のエリアは魔力を使い果たし相棒の魔法杖を杖代わりにして倒れないようにすることで精いっぱいだ。

 僧侶のアルトは必死にバフデバフ魔法を唱えて、仲間の回復と痛覚の麻痺を施しているが効果はもうほとんど機能していない状態だった。


「終わりだ、勇者よ」

 魔王は手を掲げ闇を彷彿させるような禍々しい光が集めだし、次第にその光は魔王城全体が震えるほど魔力が込められた巨大な球体となった。


「お前は私には勝てない。それだけだ。」


 魔王の手が振り下ろされ、巨大な光球が空間を歪ませながら勇者へと放たれた。

 遠くから仲間の叫び声が聞こえるが、どうすることもできない。

 避けることも防ぐこともできない。

 目の前に迫ってくる攻撃に【死】が頭をよぎった。


 その瞬間---


 背中が激しく光った。

「--っ⁉」

 聖痕が眩い光を放ち、今まで感じたことのないほどの強烈な熱を感じる。それと同時に湧き上がる何か。

 無我夢中だった。

 何をしているか自分でもわからないが、体が、聖痕がそうしろと命じている。


 剣を、掲げた。


 魔王の放った【死】を纏った禍々しい光球が目の前に迫り、当たると思った瞬間、


 シャムの剣が--いや、聖痕の力が--

 それを飲み込んだ。

 まるでブラックホールのように禍々しい光球が、剣に、シャムの体に、聖痕に吸い込まれていく。


「何っ...⁉そんな馬鹿な...!」


 魔王が驚愕の声をあげ、動揺する。その一瞬の隙の刹那、シャムは攻撃をすべて吸収した剣を握りしめ駆け出した。力があふれ、体が軽い。


「これで終わりだァー!」


 叫びながら振り下ろした剣が魔王の身体に深々と刃が突き刺さる。黒い鎧が砕け、その下から光が溢れ出した。眩しい。目を開けていられないほどに。


「ぐ...ああああああっ!」


 魔王の断末魔。

 それは悲鳴というより、何か別の感情が混ざった叫びだった。


「ま、まさか...」


 魔王が何かを言おうとする。しかしその言葉が完成する前に、身体が光の粒子となって崩れ始めた。粒子が舞い上がり、玉座の間の天井へと消えていく。まるで星が昇っていくように。美しくて、そして儚い光景。


 魔王城の玉座の間に、静寂が訪れた。それは、ほんの数秒間の出来事だったかもしれない。あるいは、もっと長い時間だったのかもしれない。時間の感覚が曖昧になっていた。


「や...やったのか...?」


 最初に声を上げたのは、ガレスだった。

 大柄な体に似合わない、震える声。傷だらけの盾を握りしめ、信じられないという表情で魔王が消えた場所を見つめている。


「本当に...終わったんですか...?」

「魔王が...黒い霧となって消えた...」


 続いて、エリアとアルトも呟いた。


「ああ...」


 シャムは答えた。自分の声が、やけに遠くから聞こえる。


「終わった...んだ...」


 剣を構えたまま、シャムは立ち尽くしていた。そこには何もない、魔王が消えた空間を見つめて。ただ、玉座だけがぽつんと残されている。


 勝った。

 魔王を倒した。

 世界を救った。


 そうだ、これで全てが終わったのだ。長い旅が、苦しい戦いが、全てが。

 ようやく、約束を果たせた。

 村に帰れる。

 笑顔で、「ただいま」と言える。


 ――そのはずなのに。


「シャム! やったぞ!」


 ガレスが駆け寄ってくる。その大きな手がアルトの肩を叩こうとした、その瞬間。

 ガクン、と膝が折れた。


「うわっ、おい!」


 ガレスが慌ててアルトの身体を支える。

 重い。自分の身体が、鉛のように重い。


「シャム! 大丈夫か!?」

「エリア! 回復魔法を!」

「だ、だめです! 魔力が...!」

「アルト!」

「今、行きます!」


 仲間たちの声が飛び交う。

 アルトが駆け寄り、癒しの魔法を唱え始める。温かな光がシャムの身体を包む。

 しかし変わらない、重さが消えない。それどころか、どんどん重くなっていく。


「おい、しっかりしろ! シャム!」


 ガレスの声。大きな、力強い声。

 いつも頼りになる、仲間の声。


 でも、その声が遠い。

 まるで、厚い壁の向こうから聞こえるような。


「アルト、どうなんだ!?」

「分かりません...傷は治っているはずなのに...」

「おい、目を開けろ! シャム!」


 目を開けている、ちゃんと開けているのに。視界が、ぼやけていく。

 仲間たちの顔が、滲んで見える。


「シャム...!」


 エリアの声が聞こえる。普段は冷静な彼女が、泣きそうな声を出している。


「えっ、ちょっと...これ...」


 アルトの驚いた声にガレスとエリアが目を向ける。


「シャムの背中...聖痕が...」


 聖痕、勇者の証。

 神に選ばれた証。


 それが、今――


「黒く...なってる...?」

「そんな...まさか...」


 仲間たちの動揺した声。


「もしかして、さっきの魔王の攻撃...あれを吸収した時の...?」


 エリアが何か気づいたような表情になる。


「くっ...ああ...」

 呻き声が漏れる。自分の声だと分かっているのに、まるで他人の声のように聞こえる。背中が熱い、焼けるように熱い。あの日、村が燃えた夜以来の、あの感覚。でも、あの時とは違う。あの時は温かかった、希望に満ちた優しい熱だった。

 

 今は。

 痛い、苦しい、何かが背中から這い出そうとしているような。


「シャム! シャム!」


 ガレスが肩を揺さぶる。大きな手。温かい手。でも、その温度が感じられない。


 身体の感覚が、薄れていく。


「おい、しっかりしろ! 魔王は倒したんだぞ!」

「約束した少女に会いに行くんだろう!」


 ガレス。元騎士団の戦士。不器用だけど、誰よりも仲間思いの男。


 彼の顔が、ぼやけて見える。輪郭が溶けていくような。


(ガレス...)

 名前を呼ぼうとするが、声が出ない。


「エリア、何か方法は!?」

「分からない...こんなの、見たことない...!」


 エリア。

 魔塔出身の賢者。いつも冷静で、知識豊富な彼女。

 その彼女が、混乱している。困惑した表情で、古い魔導書をめくっている。

 でも、答えは見つからないようだ。


「アルト! もっと強い癒しの魔法を!」

「や、やってます! でも、効いてないんです!」


 アルト。

 神殿の僧侶。優しくて、みんなのためにいつも祈りを捧げている。

 今、その彼がが必死に祈っている、涙を流しながら。


 仲間たち、旅を共にした、大切な仲間たち。彼らの顔が、声が、存在が、どんどん遠くなっていく。


「シャム...!」


 ガラン。

 剣が手から滑り落ち、金属音が玉座の間に響く。まるで何かの終わりを告げる鐘のように、その音が響き渡った。

 旅の間、ずっと共にあり魔物を倒し、仲間を守り、世界を救った愛用の剣が冷たい石の床に転がっている。拾わなければ、そう思う。しかし、身体が言うことを聞かない、あと少しなのに。


「△〇●□...!」


 誰か、何を言っているのかも分からない。

 音が、遠のいていく。

 仲間たちの声も、自分の呼吸音も、心臓の鼓動さえも。

 

 ゆっくりと、でも確実に視界が、暗くなっていく。黒い霧が、視界の端から這い寄ってくるような感覚。


 膝が、完全に崩れガレスの腕の中で、シャムの身体がずり落ちる。

 石の床に、手をついた。

 冷たい。

 氷のように冷たい床。


 でも、背中は熱い。聖痕が、燃えるように熱い。


(これは...何が...)


 考えようとするが頭の中が霧に包まれていくような感覚に陥り、思考がまとまらない。

 

 遠くで、誰かが泣いている。女性の声、だから...


 誰だっけ。分からない。もう、分からない。仲間たちの顔が、名前が、溶けていく、大切な何かを思い出せなくなっていく。


 (そんな...)

 

 忘れたくない大切な仲間たち。共に戦った日々。

 誰だったか。

 いつ出会ったか。

 どんな旅をしたか。


 全てが、色褪せていく。

 古い絵画が風化していくように。


 視界が、完全に暗闇に沈んだ。もう、何も見えない、何も聞こえない、何も思い出せない。ただ、聖痕の焼けるような背中の熱だけが、残っている。


 そして――

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