第7話 守りし者としての使命感
「春日野さん、改めてお礼を言わせて欲しい。助けてくれて本当にありがとう。それで、後で話すって言ってたことだけど、聞いてもいいかな」
笑ったからか、すごいスッキリした顔で天宮が言ってくる。何から話せばいいのか少し悩んだけど、隠していてもしょうがないので打ち明けることにした。
「話すけど……、あのさ、今から話すこと否定とか拒絶とかしないで全部受け入れて欲しいんだ。結論から話すとオレとこやき、二人の肩書きは『勇者を守りし者』となってる。そしてステータスは初めからほぼ最高値。レベルはカンスト。スキルや魔法も全てコンプリートしてる。いわゆるチートステータスってヤツ。ここまでオーケー?」
「……お、オーケーだよ。何とか理解した」
「よしっ、そんでオレらの最終目的は元の世界に帰ること。そんで何かしらの手掛かりは魔王にあるんじゃないかと考えた。その為に魔王の所へ行くことにしたんだ。目的地が同じ『勇者』と一緒にね」
「魔王……、悪しき力を持つ者の呼び方だね。確かに最終的に俺はそいつを倒さないといけないらしい。一緒にってことは、仲間になって貰えるってこと?」
「仲間にはならないよ。っていうかオレたちは『勇者』の仲間にはなれない。仲間認定されてはダメなんだよ」
困惑している天宮に、そうなった経緯としてあの国のお偉いさんらの思惑や、魔物が蔓延っている森の中への置き去りの件、そして我々の存在が無いものになったことを伝える。
「最初っからいないことにされたので、勇者とは大っぴらによろしくはできないってこと。でも一緒には行く」
「……分かった。春日野さんたちの意思を尊重するよ。あくまで俺は一人で旅をしていることにすればいいんだね」
「そういうこと。オレらのことはサポート係とでも思っていいから。戦闘時は基本見守ってるよ。仲間にはならないけど、同級生のよしみで仲良くしていこうじゃん」
ひとまず伝えることを伝えられて満足したので、ニカッと笑って何となく握手を求めてみた。天宮は笑顔で強く握り返してくれた。
「仲良くしていこーじゃんっ!」
「うおっ! びっくりしたっ! こやき鑑定終わったんだ」
「とっくのとっくに〜。それよりお二人、かなり距離縮まったっぽいね〜」
後ろから突然こやきが声を掛けてきたかと思えば、何かまた変な顔になっておかしなことを言ってきた。距離縮まったって何?
「中学の時の思い出話をしただけだよ。これから一緒に行くんなら打ち解けていた方が良いからね。天宮はどう思う?」
「あ、ああ。俺もそう思うよ」
「そうだよねー。そんじゃ話がまとまったところで勇者様のレベル上げといこうか。あの角が生えてるでっかいうさぎみたいな魔物ら倒してきて」
少し離れた場所でこちらの様子を伺っている魔物の群れの方へ視線を向けながら天宮に言う。天宮は「よしっ」と気合を入れ、向かって行った。
「毒の件だけど、容疑者は鎧の人たち3名ほど見えたよ。入れた毒物は近くの森に生えている毒草みたい。人によってはまれに死ぬこともあるっぽいね。情報共有しとく〜」
そう言うとこやきは魔法を発動し、こちらに情報を流してくる。
「こいつらかー、顔は覚えたから何かトラウマ級のいい仕返し方法思い付いたら実行してくるよ。しっかし、この世界を救うっていう勇者に毒を盛るなんてイカれてる」
「うちらも似たようなことあったよね。あの時はファンからのプレゼントの中に入ってるなんてまさかって思ったもん。おかげで危機管理能力が高くなった気がするよ」
「ほんとほんと。テレビに出たからって露骨に攻撃してきた奴らもいたし。こちとらその為に血反吐吐くくらい努力しまくったってのに。人の嫉妬心が一番怖いって思ったわ」
「そーだよねー。あ、おうりも水飲む〜?」
こやきは魔法を発動し、コップを2個出現させるとその中に指先から水を注いだ。自分も同じ収納魔法と生活魔法を使えるみたいだけど、こやきが当たり前の様にさらっと魔法を使いこなせている光景がやっぱりまだ見慣れなくて不思議に思える。
コップを貰い水分補給をする。こやきが気を利かせて冷水にしてくれた水を飲み一息つく。飲みながら向こうで魔物と戦っている天宮を見て、オレはボソッっと呟いた。
「天宮は……、人から敵意を向けられ慣れてはいないんだろうな」
「……だったらオレが天宮を守ってやらないといけないな」
「はっ?」
「えっ?」
「何言ってんの、こやきってば」
「おうりの心の声を代弁しただけだよ〜。天宮くんのことは今後も愛情を持ってしっかり守ってあげてね〜」
「こやきだって『勇者を守りし者』じゃん。何でオレだけ? それに愛情を持ってって、あいつはペットか何かか?」
「あはは〜、おうりってば照れちゃって〜。落ち着け〜落ち着け〜。あっ、ほら戦い終わってレベルアップしたみたいだよ。お水持ってってあげたら?」
「ほんとだ。そうだね、あいつ毒入りの水しか飲んでないだろうし。それにオレもその魔法使ってみたいから丁度いいね」
魔物の群れとの戦闘を終えた天宮の元へと足早に向かう。
天宮に水を飲ませてやりたい気持ちになっていて、その後のこやきの言葉は聞こえていなかった。
「天宮くんの支えになれるのは、おうりだと思うよ。うちの魔法で毒の鑑定できたのに、自分で飲んで確認するくらい熱量すごいし」
勇者がローダン国から悪しき力を持つ者を倒すために旅立ったことは行く先々の町や村に伝わっていた。
そのおかげで勇者は訪れる場所で手厚くもてなされ、食事や寝場所に困ることはなかったようだ。旅立つ時には物資を渡されることもあった。
オレら二人は勇者とはあくまで無関係を装い、時間差を付けて出入りをした。
ただ、どこの町村も宿屋は一軒しかなく、そこに勇者が泊まっていることを聞き及んだ人々が勇者を一目見ようと押し寄せてきて、騒音や絡みの二次被害を被ることがあった。
騒音も大概酷かったけど、絡みも相当面倒くさくてめちゃめちゃ嫌だった。女子の二人旅が珍しいのか食堂で食事中酔っぱらいが「こっちで酌をしろ」とか「一緒に飲め」など声をかけてくる。
未成年にお酒を飲まそうとするなんて、日本だったら一発アウトーだよ。
酔っぱらってなくても、勇者目当てで宿屋に来たおっさんらに軽々しく「君たち部屋はどこー」なんて絡まれたこともある。
当然これらは即ブチ切れていい案件とみなし、こちらもできる限りの対策を施す。といっても、流石に一般人相手に過激な手段は取れないため、強制睡眠魔法とか混乱魔法、幻影魔法をそっと発動して終了。
人によっては麻痺させるスキルをついでにお見舞いしといた。3日間ほど強いしびれか持続するようにしておいたこともある。
己の軽率な行動を恥じてしっかり反省するがよい。
そういえばどこだかの町に泊まった時、夜中なのにドタンバタンと大きな音が聞こえてきたことがあった。何事かと思い廊下に出てみると天宮がオレに気付き、こちらに向かって走ってくる。
「し、知らない女の人が勝手に部屋に入ってきたんだっ! 俺、びっくりして逃げてきた!」
どういうことかと思っていたら、後ろからこやきがあくびをしながら出てきて、「任せて〜」と言い、天宮の部屋へと歩いていく。
部屋に入ったこやきは何かの魔法を発動した。
「終わったよ〜。天宮くん今夜はうちらの部屋で休めば〜。部屋に荷物取りに行く時おうり付いてったら。じゃ、おやすみ〜」
こやきは何事もなかったように再びベットへ戻り横になる。天宮の部屋へ一緒に行くとベッドの上にでっかい蛙が仰向けでひっくり返っていた。
「うわぁ……、あの魔法って相手こんなんなるんだ⋯。うわあぁ……。天宮荷物早く取ってきてー」
「あ、ああ」
この蛙は天宮の部屋に入って来たという女性に違いない。こやきってば容赦ないね。グッジョブです。でも夜に勇者の部屋に女性が押しかけてくるなんて、小説で読んだことがあるけどそういう目的なんだろう。
だとしたらこの先もこういったことが発生するかもしれないよね。これは『勇者を守りし者』として見逃すわけにいかない。明日にでも早急に安全対策会議を開こう。
あれ、なんで自分こんなにムキになってるんだろう。あれかな、『勇者を守りし者』としての使命感だよね。
――こんな感情は使命感から、だよね?




