最終話 日常への帰還
「うわぁー、これマジですかー。あれから500年も経ってるのにがっかりー」
「ほんとにね〜、うちら喚ばれ損じゃん。それにお姫様を攫うなんて器ちっちゃ〜」
我々二人の目の前には床に這いつくばり、屈辱で顔を歪めている魔王がいる。
オレとこやきとの戦闘で一方的にダメージをくらい満身創痍だ。
「き、貴様らは一体何なんだ……。何故我の力が及ばない……。500年だぞ……、貴様たちへの復讐の為に、地を這う思いで封印を解いたというのに……」
床に額をこすりつけるようにして、魔王は呻いている。
「そんなの知らないよ。500年前のことなんてこっちはとっくに終わった話だし。マジで迷惑この上ない」
「500年もあったら、もっとマシなことできたでしょ〜。自分磨きとか趣味を充実させるとか筋トレとか〜」
「自分らは普通に成長して、新しい知識を得ながら上書きして生きてるわけ。500年前の嫌な記憶をずっと持ち続けて執着で濁ってるお前が、今を生きてるオレたちに勝てるわけないじゃん」
「ふざけるな! 我は封じられた闇の中で貴様らをいかに苦しめて殺すか、それだけを考えていたのだ!」
いかに苦しめて殺すかって、それだけを500年もなんて、こいつ色々と拗らせ過ぎじゃない?
前は世界を支配するっていう一応壮大な野望を持ってたけど、今回は500年越しの嫌がらせに全力を出す悪質クレーマーのように見える。
「だから知らんし。ていうかお前の頭の中、500年間ずっとオレたちの顔がリピート再生されてたわけ? やだー、もうそれって復讐っていうか痛々しいファンじゃん、痛ファンじゃん。やーだー」
「悪いけどうちらは貴方のことなんて1秒も思い出したことないよ〜。一人で勝手にファンを拗らせてたみたいだけど、うちらがとっくに捨てた500年前のゴミを大事に抱えて毎日磨いてたんだね〜。でもそれ、誰が喜ぶの?」
「我は! 我は貴様らに、あの時の屈辱をっ! それが我の存在意義なのだぞ!」
「だーかーら、それが重いし迷惑だっての。存在意義が他人の過去に依存している時点で、もう既に終わってんだよね。魔王、自分の人生生きてないじゃん。お姫様まで巻き込んでさー」
「うちらがいないと自分を定義できないだなんて、本当、器が小さいっていうか空っぽだね〜」
「……あ……、が……、あ……」
魔王の喉から漏れるのは、呪詛ですらなく、ただ空気が抜けるような情けない音だった。
「……我、は……、貴様らを……、絶望の淵へ……、叩き落とす、ために……」
「んー、今回も魔導書へ封じ込めて終わりにしようと思ってたけど、これはダメだね」
「うん、ダメダメだね。全然反省してないし、残ってた温情がゼロ以下マイナスになっちゃった」
「……ま、待て……、我を……、またあの暗闇に閉じ込めるというのか……!?」
魔導書へ封じ込められることがよほどトラウマなのか、困惑と恐怖が入り混じった表情で我々を仰ぎ見てくる。
引き攣った頬は紙のように白く、見開かれた赤い瞳には、今にも振り下ろされようとする運命への純粋な怯えが張り付いている。
「勘違いしないでくれる。封印なんてのはもうしないから。500年経ってもこれなら何度封じ込めても同じじゃん」
「それに封印ってのは、いつか解けるかもしれないっていう未来がある処置なんだよね〜」
「今度はその空っぽな存在ごと綺麗に消してあげるよ。500年間の執着と一緒に塵一つ残さずにね!」
「ま、待て! やめろ! 我は、我はまだ……!」
以前と同じように魔王へ向けて魔導書を開き、深淵な魔力を一気に流し込む。
魔導書から出現した光の鎖が魔王の身体を捉え自由を奪うと、そのまま魔導書の中へと吸い込まれていく。
「こやき! 一緒に消滅魔法を!」
「オッケーだよ!」
魔王を封じ込めた魔導書を高く放り上げ、オレとこやきは手をかざして消滅魔法を発動させた。
魔法の力が収束すると、魔導書は白銀の微光に包まれる。次の瞬間、まるで陽炎のように揺らめきながら、数え切れないほどの光の粉となって空気に還元されていった。
もうそこには魔導書の破片一つ、魔力の残滓一つ残っていない。
不老不死という永遠を誇った魔王の存在は、ただの無へと書き換えられた。
「消滅魔法が不老不死相手でも効果あるって知識手に入れてて良かったー」
「あの漫画とアニメとゲームのおかげだね。再生の余地を残さずに問答無用で消滅させる最強の呪文だし〜」
「オウリ様! コヤキ様!」
魔王との戦闘を終えた我々の所へ、フェリシアと攫われていたリオラを抱きかかえているスカイが駆け寄ってくる。
オレとこやきが魔王と戦っている間に、どうやら無事に救出したようだ。
「魔王を打ち倒されたのですね! 妹も無事に助け出すことができました! ありがとうございます!」
「お二人の類まれなるお力、この胸に深く刻み込まれました!」
「いやー、大したことなかったよー」
「あ、あれほどの戦いを経てなお、この余裕……。それに己の功を誇らず、泰然自若としておられる。やはり、本物の強者とはこうあるべきなのですね!」
「え〜、そんなことないよ〜。運が良かっただけ〜」
「運さえも味方につけているというのですか! なんという徳の高さなんだ! それはもはやお二人が世界の意思に選ばれた証に他なりません!」
スカイがもの凄くベタ褒めしてくる。
何かどんどんハードルが上がっていくぞ。
「スカイ様、その辺で……」
「あ、ああ、つい熱くなってしまいすみませんでした」
「フェリシア王女の妹さんはもう少しで目覚めるだろうし、後は特に何も用事はないよね」
「うちら元の世界に帰りたいんだけど〜」
「えっ、えっと……」
フェリシアは視線を泳がせ、言葉を言い淀む。スカイまでもがバツの悪そうに顔を背けた。
「まさかとは思うけど、一方的に喚びつけておいて帰し方は知らない、なんてわけじやないよね?」
「いえ! そのようなことはありません! 初代勇者様に力を貸した幻の勇者様が元の世界へ帰られた時に使われたという帰還術式を知り得ております! 全て終わり次第、その帰還術式でお二人を元の世界の座標へと送ることにしておりました!」
「終わった後のことをちゃんと考えてくれてたなら、なんでそんなにもにょもにょしてるの〜?」
「……帰還術式発動の媒介には、魔導書が必要だったので……」
「「えっ」」
「その……、先程魔王を封じ込めた魔導書を使わないと術式が出来ないので……」
「「えええーー!」」
そういや前に爺様が、帰還術式には魔導書がないと難しいと言っていた気がする。エネルギー量がどーたらとかって。
不老不死の魔王と共に、魔導書ごと消滅魔法で完全に消し去っちゃってるよ!
「……どーする、こやき」
「おうり、どうしようか。うちら、帰宅困難者になっちゃったね」
「伝えてなくてすみません……。お二人のことは我がバルドール国が責任を持って一生何不自由なくお世話致します!」
「いや、一生って……、知らない所に居候はめっちゃ気まずいんですけど……」
「それならローダン王国で過ごすのはどうでしょうか!?」
「いやいやスカイ王子、そういうことでもないからね……」
必死に手厚い保障を並べ立てる王族二人に、どうしたもんかと考えあぐねいていたが、ふとローダン国へ置いてきたレプリカの存在を思い出す。
「こやき、前に魔導書持ち出す時レプリカ作ってすり替えてきたよね。あれならイケる気がしない?」
「あっ、それ、うちも思った! あれだよね、ローダン国から追い出される前に持ち出した時の!」
「そうそう、あれあれ! レプリカっていっても中の術式をほぼ完コピした究極のコピー品だし!」
「あれを使えばうちら帰れるよね!」
帰還への希望を見出した我々の行動は早かった。
訳がわからずキョトンとしているフェリシアたちと共に一旦国へ帰り、帰還術式の準備をお願いする。
その間オレたちはスカイ王子と共に今はローダン王国となっている城へと行き、スカイの顔パスで城の奥に厳重に保管されていた魔導書を難なく手に入れた。
そして速攻でバルドール国へと戻り、帰還術式を発動させて貰うこととなった。
魔導書には帰還用にエネルギーをたっぷりと詰め込んで渡したので、文句も何も言わせない。
「座標確認完了です。オウリ様、コヤキ様、本当にありがとうございました! それでは帰還術式発動します!」
「それじゃあ皆さんお元気で〜」
「お元気でー」
フェリシア王女の凛とした声が響き、視界が真っ白な閃光に包まれる。
「…………三度目は、絶対に無いからね」
薄れゆく意識の中で、オレはそう呟いた。
『ええっ!? おうりとこやきさん、また異世界に喚ばれたの!?』
あの世界から無事に戻り、こやきの部屋でたこ焼きパーティーを再開しようとした時、空叶から電話がかかってきた。
「そーなんだよー。2回目の肩書きは喚び出されし者だったんだ。それでね、またチートステータスだったから今度は魔王を消滅させたんだー」
『そうなの!? 詳しく話聞きたい! おうりに言い寄ってきた人とかいなかった!?』
「そんなのいないいない。それにオレは空叶のなんだから変な心配しないでよ。今日はこやきの家に泊まりだから、空叶には明日会った時に話すねー」
「おうりー、たこ焼きの具材持ってきたよ〜」
部屋のドアが開き、こやきがお盆いっぱいに彩り豊かな具材を乗せて運んできた。
「分かった分かった。メッセージ送るからね。うん、またね」
「天宮くんから電話? 熱々で何より〜」
「……こやき、また顔によによしてるよ」
「え〜、おうりの幸せを願ってるからの顔だよ〜。それよりたこ焼き器準備できたからタコパしよ〜」
「そうだね、やっとたこ焼きチーズフォンデュができるの嬉しいなー」
卓上のたこ焼き器が放つ鈍い熱気に、どこまでも平凡でかけがえのない日常へ戻ったことを実感するのだった。
これにて『喚ばれた二度目もチートステータス』は完結となります。
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「おうり」と「こやき」の二人は、また別作品で登場するかもしれません。その際はぜひ応援よろしくお願いします。
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