第6話 笑いのツボが浅くて心配
置き去りにされた森から移動魔法で抜け出し平原へと着地する。見渡す限り草原が広がり、吹き抜けていく風が心地よい。
「おうりっ! あそこ見てっ!」
こやきの指差す方に目をやると、見たことのない大きさの鳥が数羽、キーキーと鳴き声をあげながら地上の人物目掛けて急降下を何度もしている。
他にもポヨンポヨン跳ねている液体っぽいのも何体か確認できた。
「天宮じゃん。魔物と戦闘中か。ほんとに一人で出発してたんだ。てっきりお付きの者とかがいると思っていたんだけどなー。それにしても……」
剣をブンブンと振り回しているだけで攻撃が全く当たっていない。逆に大振りしていることで隙が生まれ、敵の攻撃を受けやすくなっている。
というか、何かふらふらしてないか?
「ねえこやき、あいつ毒状態になってない?」
「わっ! ほんとだ! えー、待ってー、この辺りに毒持ってる魔物は生息していない筈だよ〜」
「想像だけど妬み嫉みを受けてってところだろうね。あー、ダメだ、体力値一桁になった。ちょっ行ってくる!」
天宮のステータスを見つつ戦いの様子を眺めていたが、状況的にまずいと思い加勢に行く。走りながら魔力で長剣を生成し、地面に膝を突いている駆け出し勇者の前に立つ。
「か、春日野さん!? な、何で……?」
「おまっ、顔色悪っ! とりま後で話すよ!」
剣を構え直して魔物の群れに突進する。
身体が軽い。どう動けば目の前の魔物を効率よく仕留めることが出来るのかが分かっている。戦術がバババッと頭の中で組み立てられていく。
まるで歴戦の戦士が憑依したかと思えるくらい軽やかだ。
今までしたことがない動きをする自分の身体。だけどその動きは前からやれていたと認識する自分。違和感が生まれても、それは矛盾していないとすぐに納得し受け入れる自分。
そんな思考の状態によく脳みそが混乱しないもんだ。
改めてチートステータス、凄すぎるね。
「よしっ! 全部倒せたっと!」
見渡すと倒した魔物の屍骸が転がっている。
今更ながら自分が倒したことに少し驚く。実際初めての魔物との戦いだったわけだから。魔物を剣で斬りつけた感覚は覚えていて、ちょっと嫌だった。
昔、豚肉のブロック肉に包丁を突き刺したことがあるけど、その感じよりももっとグニュってしてた。その気色が悪い感覚も、きっと慣れていくのだろうことを祈るしかない。
そうだ、魔物の屍骸の中からお金になるという石を回収しとかないと。
チートステータスから流れ込んできた情報の中には戦闘術だけではなく、この世界で過ごしていく為の知識も多少あったのだ。
回収スキルを使うと自動的に石は荷物に入ってくる。
このスキルがない人たちは、魔物の屍骸の中に手を突っ込んで回収するしかないらしい。
グロすぎて想像したくない光景だ。
「おうりお疲れ〜。天宮くんの毒の治療終わってるよ〜。今は体力値回復中〜」
こやきも合流していた。
天宮を支えながら回復魔法をかけている。天宮はまだポカンとした顔をしているが、顔色はさっきよりだいぶ良い。
「天宮、毒状態になってたけど何か心当たりある? 例えば見送りの時に誰かに攻撃受けたとか」
「え、あ、毒? 心当たり?」
「具合悪くなかった〜? 結構強い毒っぽかったよ〜」
「確かに具合は悪かったけど、誰かに攻撃を受けたなんて、そんなこと……」
考え込む天宮をよそに、毒の手掛かりを探すため、サーチスキルの本来の使い方をちょっといじり彼を注視し調べる。
すると腰に括り付けてある水筒が紫色に光り、なにやら悪い反応があることを示した。
「……天宮、その水筒貸して」
「あ、ああ。でもこれ、俺口つけてるよ」
「いや、飲むわけじゃないよ。ていうか別に天宮のならオレ気にしないし」
「「えっ」」
「えっ?」
「おうり〜、今の発言ちょーヤバーい」
「えっ? 何が?」
こやきがいつものにこにこ顔にニヤニヤ成分がプラスされたような笑みを浮かべている。華麗にスルーをして天宮の水筒の中身を調べる。
「う〜ん、これから悪い反応あったんだけど、見た目ただの水だし毒が入っているのかよくわからんね。しゃーなし、こやき、一応解毒魔法の準備しててね」
「いいけど〜、いいけどぉ〜」
「何その顔? ほんと何? あー、直飲みはしないよ。手に取って飲むから。あと毒耐性は外しとく」
「りょーかーい」
まだおかしな表情をしているこやき。天宮は口元を手で覆って俯いている。少し顔赤いけどまだ具合悪いのかな?
二人の挙動がよく分からなくて気になるけど、とりあえず水筒の水を手に出して飲み込んでみる。
「ゔぐっ……、こ、これヤバ……」
無味無臭のただの水、だけど喉を通すと直ぐに身体に異常が出る。目がチカチカし、頭がぐわんぐわんしてきた。両手指はしびれ、ものすごい吐き気に襲われる。
毒耐性外して受ける毒の効果って、こんなにひどいの?
気持ち悪さから思わずしゃがみこんでしまう。めまいがして冷や汗もすごい。呼吸が浅くなる。あまりにも具合が悪くなりすぎて動けそうにない。
自分のステータスには『猛毒』と書かれている。天宮の表示は『どく』だけだったのに、違うのは何で?
「おうり! 今解毒魔法かけるからっ!」
こやきにすぐ解毒してもらい、自分で外していた毒耐性を付け直す。気持ち悪さが一気になくなり身体が楽になった。
「あーびっくりしたー。こやき解毒サンキュー。天宮これ、いつ誰から貰った?」
「出発前に城の兵士が渡してくれたけど、もしかしてそれに毒が……」
「そーだね、勇者以外が飲むと死にそうになるくらい強力なヤツ。こやきー、これ鑑定出来るー?」
「物の鑑定魔法を魔力変換して少しいじれば毒の種類やその水筒を触った人たちの把握もできるよ〜」
「さっすがー。じゃお願い。犯人の顔分かったら共有させて」
「りょーかーいっ。だいぶ時間かかるっぽいからお二人ゆっくりして待ってて〜」
こやきは水筒を受け取ると少し離れた場所へと行った。きっと集中したいんだろう。そしてオレは天宮の方へと向き直す。
今は緊張や不安じゃなくて、混乱と安心の感情ってところかな。
「天宮、毒を入れられたことは気にすんな、っていっても直ぐに切り替えは難しいよね。お城の人たちにはお世話になったし良くしてもらったから、まさかまさかだよね」
「……そうだね」
「あれだよ、勇者への妬み嫉みを抱いた馬鹿の愚かな犯行だ。どこにでもいるよねー、人気を羨んで嫌がらせしてくる奴。オレも漫才グランプリで準優勝になった後、一部のアホ共からの迷惑行為酷かったから」
「それ、大丈夫だったのか?」
「まあね。余りにも酷すぎるのは大人に任せたよ。それより天宮、この毒の件はオレらに預けてもらっていいよね」
「いや、それは……」
「い・い・よ・ね。答えは「はい」か「Yes」しかないよ」
「ふっ、ふふ、あはは! はいかイエスかって、選択肢一つじゃん。あはははっ!」
わー、なんかめっちゃウケてるー。
別に笑わそうと狙って言ったわけじゃないんだけどなー。でも笑うことは良いことだから存分に笑ってくれたまえ。
「はー、可笑しかった。面白いね春日野さんは」
「そりゃどーも。勇者様にお褒め頂き大変光栄の至りでーす」
「ははっ、勇者か。毒にやられて魔物を倒すことができなかったのに。さっき春日野さんが来てくれなかったら、俺、絶対死んでたよね」
「結果死んでないから大丈夫。同級生が死んだら夢見が悪くなりそうで嫌だし。少し思い出したよ天宮のこと。お前いつだかオレの隣の席だった時期あるよな。その期間オレの机の中にお前宛ての手紙が間違って入ってたこと何回もあったわー。手作りっぽいお菓子が添えられてた時もあったぞ」
「そんなことあったんだ。俺は春日野さんが授業中でも漫才のネタ作りに集中していたことを覚えてるよ」
「あー、それは身に覚えがありまくる」
「休憩時間も集中してて、次の授業始まったのに教科書が前の授業のままってことも何度もあったね。そして先生に当てられて違う教科書なのにそれを読んで怒られてたよね」
「気付いてたなら教えてくれれば良かったのに……。っていうかオレ、中学の時お前と話をしたこと1回もなかったよね。だけど今会話が成立してるの不思議ー。異世界マジックってヤツだね、きっと」
「い、異世界マジックって……、あはははっ!」
天宮がまたウケてる。
こいつこんなに笑うヤツだったのか。まあ、笑えることは良いことだ。笑いは世界を救うって名言もあることだしね。
でも、こんなにゲラで大丈夫なのか、少しだけ心配になった。




